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表裏の歴史書  作者: qp46


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4/10

旅立ち前夜

王との謁見が終わった後、俺達は王城の離れへ案内された。王族や来賓が使うための建物らしく、俺の感覚では十分すぎるほど立派だったが、健は部屋へ入った瞬間から壁や家具を眺めていた。


「どうした?」


「いや」


健は机を軽く叩く。


「木だなと思って」


「木だろ」


「そうなんだけどな」


何が気になるのか分からない。だが健は昔からこういう奴だった。俺が人を見るなら健は仕組みを見る。異世界へ来てもそこは変わらないらしい。


「異世界来て最初にやることが家具の確認なのか?」


「家具じゃない」


「じゃあ何だよ」


「作り方だ」


俺は少し笑った。


「やっぱりよく分からん」


「俺もまだ分からん」


そう言いながら健は視線を空中へ向ける。


「ステータス」


目の前へ半透明のウインドが現れた。俺も慌てて表示するが何度見てもゲームみたいだった。健は迷わず画面へ触れ始める。


「おい」


「待て」


「これ押せるぞ」


「マジか」


俺も慌てて近寄る。健が創世へ触れた瞬間、新しい画面が開いた。


「なんだこれ……」


そこには大量の項目が並んでいた。だがそのほとんどは薄く表示されていて、読めそうで読めない。存在していることだけは分かるのに手が届かないような不思議な画面だった。


「全部使えるのか?」


「いや」


健は首を振る。


「使えそうには見えないな」


俺も同じ感想だった。項目はある。だが使えない。そんな印象だった。健はさらに調べようとしていたが、俺は途中で興味を失う。


「なあ」


「何だ」


「外行こうぜ」


健が固まった。


「は?」


「異世界だぞ?」


「異世界だな」


「夜の街とか見たいだろ?」


「金ないけど」


「見るだけだから!」


俺は立ち上がる。健は露骨に嫌そうな顔をしたが結局付いてきた。王城を抜け出すこと自体は意外と簡単だったが、問題はその後だった。


「どちらへ?」


背後から声がした瞬間、俺と健は同時に固まる。振り返るとキールが立っていた。


「……こんばんは」


「こんばんは」


「散歩ですか?」


「散歩です」


「そうですか」


キールは一度頷く。


「本日は大人しくしていてください」


笑顔だった。なのに全く逆らえる気がしない。


「はい」


「はい」


返事だけは綺麗に揃った。こうして異世界初日の脱走計画はあっさり終了した。


翌朝。


「ミナト様、お時間です」


肩を揺らされて目を開ける。そこにはメイドが立っていた。


「え?」


慌てて起き上がる。部屋を見回すが健の姿はない。


「タケル様なら既に朝食へ向かわれました」


やっぱりかと思った。昔から健は妙に朝が強い。急いで身支度を整え、食堂へ向かう。


「遅い」


「うるさい」


既に席へ着いていた健の向かいへ座る。テーブルの上にはパンとスープ、それに肉料理が並んでいた。


「これが異世界飯か」


思わず呟く。王城と聞けばもっと豪華なものを想像していたが意外と普通だった。


「もっと凄いと思ってた」


健も頷く。


「俺も」


その時だった。


勢いよく扉が開く。


「準備できたわよ!」


聞き覚えのある声だった。


「……あら」


サリーが首を傾げる。


「まだ朝食中でしたか」


「食べるだろ普通」


「待ちきれなくて」


悪びれた様子は全くない。


「殿下」


後ろからキールが声をかける。


「だからサリーでいいって言ってるでしょ」


「公の場です」


「もう旅に出るんだからいいじゃない」


キールが深いため息を吐く。慣れているらしい。


「朝から元気ですね、王女様」


俺がそう言うと、サリーは少しだけ不満そうに頬を膨らませた。


「王女じゃなくてサリーでいいわよ」


「え?」


「これから旅をする仲間になるんだから!」


当然のように言う。


「そういうものか?」


俺が首を傾げると、サリーは大きく頷いた。


「そういうもの!」


勢いよく言い切られてしまった。


「じゃあサリー」


「なに?」


「本当に楽しみなんだな」


サリーは当然だと言わんばかりに胸を張る。


「当たり前じゃない!」


その笑顔に迷いはなかった。


「ずっと旅してみたかったんだから!」


王女のはずなのに、今のサリーは旅を楽しみにしている普通の女の子に見えた。


朝食を終えた俺達は王城の正門へ向かう。そこには馬車と装備、それに路銀まで用意されていた。


「それじゃあ!」


サリーが勢いよく振り返る。


「出発よ!」


朝日が王都を照らしている。俺は健を見る。健もこちらを見た。そして小さく肩を竦める。


異世界も勇者も魔王も、まだ何一つ分かっていない。それでも旅だけは始まるらしい。


俺達は馬車へ乗り込んだ。

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