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表裏の歴史書〜悪魔との契約〜  作者: qp46
プロローグ

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20/21

勇者の決意

「健ーーーーーーっ!!」


叫ぶ。だが返事はない。ただ風だけが吹き抜けるだけで、健の声はどこからも聞こえてこなかった。


俺は崖へ駆け寄る。


谷底は見えない。黒い闇がどこまでも続いていて、本当に人が落ちたのかすら分からないほど深かった。


「くそっ……!」


飛脚。


頭の中に流れ込んだ技の情報を思い出す。空を駆ける技。まだ試してもいないが、もしかしたら追いかけられるかもしれない。今ならまだ間に合うかもしれない。


そう思った瞬間には、身体が動いていた。


「ミナト様!」


キールの声が聞こえる。構わず踏み出そうとしたところで、肩を掴まれた。


「離せ!」


振り払おうとする。


「落ち着いてください!」


「落ち着いてられるか!」


思わず怒鳴る。


健が落ちた。ついさっき、目の前で。助けに行かなきゃいけない。そう思っているのに、キールの手は離れなかった。


「助けられる保証がありません!」


珍しくキールも声を荒げた。俺は睨み付ける。


「やってみなきゃ分からないだろ!」


「分かります!」


即答だった。キールは俺から目を逸らさない。


「今飛び降りれば、ミナト様も助からない可能性が高い」


胸が痛む。だがキールは続けた。


「タケルさんなら分かっています。だからエナさんを助けたんです」


風だけが吹いている。


「今追えば」キールは谷底へ視線を向ける。「タケルさんの覚悟を無駄にします」


悔しい。悔しくて仕方ない。今すぐ飛び降りて追いかけたいのに、それが出来ない自分が何より腹立たしかった。


それでも何も言い返せなかった。キールの言葉が正しいと分かってしまったからだ。


今飛び降りても助けられない。それどころか、健が助けた意味すらなくなる。


「……くそっ」


力が抜ける。その場へ膝をついた。


◇◇◇


誰も喋らなかった。


エナは腕時計を握り締めたまま、動かない。ずっと谷底を見ている。


誰も声を掛けられなかった。掛けていい言葉が分からない。


だって、分かっているからだ。健が落ちた理由は明白だった。


エナを助けたからだ。


俺も分かっている。キールも、サリーも。きっとエナ自身が一番分かっている。だから誰も口に出せなかった。


長い沈黙のあと。


「……ウチのせいだ」


初めてエナが言った。


「違う!」


思わず否定する。


「違わねぇよ」


エナは顔を上げない。腕時計を握る手に力がこもる。


「タケルが助けなかったら、落ちてたのはウチだ」


何も言えなかった。否定したいのに、言葉が出てこない。それが事実だと、俺も分かってしまっているからだ。


「なんでよ……」


サリーの声だった。涙を拭っている。


「だってタケル、強かったじゃない」声が震えている。「聖剣だって直したのよ? あんなに何でも出来たのに」


サリーは谷底を睨んだ。


「なんで落ちるのよ……」


理不尽だった。本当に、理不尽だった。あれだけ何でも出来た健が、こんなあっけなく落ちる。誰も納得できるはずがなかった。


キールは黙っていた。


一番冷静に見えた。いつも通り、落ち着いて全員を見守っているように見えた。


でも、拳を握っていた。


「私も」


小さな声だった。


「助かると思っていました」


その一言で、分かってしまった。キールも同じだったのだ。冷静を装っていただけで、本当は誰よりも信じたかったのかもしれない。


風が吹く。


谷底は相変わらず黒い。何も見えない。返事もない。


それでも。


「ですが」


キールが静かに口を開いた。


「タケルさんなら、もしかしたらと信じてしまうだけのことを、今までしてくれました」


苦笑するような声だった。


「正直、私の常識では説明できません」そう言って谷底を見る。「だから今回も、そうであって欲しいと思っています」


その言葉に、俺も谷底を見た。


普通なら助からない。そんなことくらい、俺にも分かる。


でも。


健だ。


あいつは面倒臭そうな顔をしながら、結局やる。無理だと言われてもやる。自分が危なくても助ける。


そういう奴だ。


だからきっと、落ちながらでも何かやってそうだ。落ちた先でも何かやってそうだ。下手したら、村でも作ってるかもしれない。


そう考えたら、なんだか少し笑えてきた。


「……あいつだもんな」


胸の奥に張り付いていた重さが、少しだけ軽くなる。


「そうだよな」


顔を上げる。


エナが俺を見ていた。


「タケルは死んでねぇ」


ようやく、いつもの強気な声が戻っていた。


「まだ付き合いは短いかもしれねぇけどよ」腕時計を握る。「なんかわかるんだよ。あいつなら、もしかしたらって」


その言葉に、サリーも涙を拭って顔を上げた。


「……そうよね」


だったら、迷う理由はない。健が生きているなら、俺達がやることは一つだけだった。


「仮に生きて流れ着いたとしても、その先は魔族領です」


キールが続ける。


魔族領。人類の敵が暮らす場所。本来なら近付きたいとも思わない場所だった。


だが今は違う。そこに健がいるかもしれない。そう思った瞬間、魔族領という言葉の意味が少しだけ変わった気がした。


「なら決まりだな」


立ち上がる。聖剣を握る。


「さっさと魔王を倒して」谷底へ視線を向ける。「健を迎えに行くぞ!」


「おう!」


エナが力強く頷く。


「はい」


キールも頷いた。サリーも涙を拭いながら顔を上げる。


健は生きている。根拠なんてない。


それでも、あいつならもしかしたらと思えてしまうのだから、仕方がなかった。




【第一章終了時点】


小鳥遊 湊


創世【技】


* 火炎魔法ファイアボール

* 水魔法ウォータージェット

* 韋駄天

* 聖剣技

* 浄化

* 飛脚(習得直後)



桐生 健


創世【物】


生活用品


* 風呂

* 小屋

* ベッド

* ドライヤー

* 腕時計

* 救急箱

* ポーチ

* 冷蔵庫

* 電子レンジ

* 魔法鞄×4(湊、キール、サリー、エナ)


村設備


* 手押しポンプ式井戸 貯水槽


武装・改造


* 聖剣(解)


*黒剣(健)

第一章プロローグ完

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