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表裏の歴史書〜悪魔との契約〜  作者: qp46
プロローグ

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19/21

落下

嫌な予感は外れなかった。


最初に突っ込んできたワイバーンは一匹だった。


「来る!」


エナの声が響く。反射的に空を見る。


デカい。想像していたよりずっとデカい。鋭い爪。長い尾。巨大な翼。それが一直線にこちらへ向かってくる。


「ファイアボール!」


火球を放つ。直撃。ワイバーンが悲鳴を上げながら地面へ落ちた。


「よし!」


倒せた。思ったよりいける。


その直後、二匹目が来る。さらに三匹目。


サリーの風魔法が飛んだ。翼を切り裂かれたワイバーンが、回転しながら落下する。


「右です!」


キールが叫ぶ。


「上!」


エナも続く。反射的に身体を動かした。ワイバーンの爪が目の前を通り過ぎる。


危ない。だが戦える。十分に。


「意外といけるな!」


「油断しないでください!」


キールが即座に否定する。その声には焦りが混じっていた。


空を見る。まだいる。二匹。三匹。五匹。さらにその奥。まだ飛んでいる。


「おい……」


思わず呟く。多い。明らかに多い。


「ありえません」キールの顔が険しかった。「普通の群れではありません」


その時だった。


「まだいるぞ!」


エナが叫ぶ。空を見上げたまま数を数えていたらしい。その顔が引きつっていた。


「十五……いや、もっとだ!」


背筋が冷えた。多すぎる。そんな数と戦うのか?


次の瞬間。ワイバーン達が一斉に動いた。


「まずい!」


キールが叫ぶ。


爆風。ワイバーン達が次々と頭上を通過する。馬が暴れ、馬車が大きく揺れた。


「うおっ!?」


踏ん張る。サリーの魔法が飛ぶ。俺も火炎魔法を放つ。一匹落ちる。二匹落ちる。


だが減らない。次が来る。また次が来る。


「くそっ!」


ファイアボールを撃つ。避けられる。聖剣も届かない。空だ。高すぎる。


「韋駄天!」


身体が軽くなる。地面を蹴る。速い。だが届かない。


当然だ。速くなっただけだ。足場のない空は走れない。


どうする。どうしたら届く。


ワイバーンが頭上を旋回する。届かない。韋駄天じゃ足りない。足場がない。


だったらどうする。どうしたら。


ピコン。


頭の奥で音が鳴った。同時に情報が流れ込んでくる。


【飛脚】


「飛脚?」


思わず呟く。意味は理解できた。空中を足場として認識する技。空を駆けるための技。


「なんだそれ……」


だが試す暇はなかった。


その時。馬車が大きく傾いた。ワイバーンの体当たりだった。車輪が崖側へ沈む。道の端が崩れる。


「まずい!」


キールが叫ぶ。


「創世」


健が前へ出た。地面から石柱が伸び、崩れた場所を支える。さらに石材が組み上がり、傾いていた馬車が持ち直した。


「助かった……」


思わず息を吐く。


次の瞬間だった。


「エナ!!」


健の叫び声。今まで聞いたことがない声だった。


反射的に振り向く。そこで初めて見た。ワイバーンの体当たりを受けたエナの姿を。


小さな身体が宙へ吹き飛ばされる。その先は崖だった。


「エナ!」


叫ぶ。だが届かない。


健が走る。迷いなく。一直線に。崖を蹴る。飛ぶ。空中でエナの腕を掴む。


そして。


ぶん投げた。


「うわぁぁぁぁ!?」


エナが地面へ転がる。


助かった。そう思った瞬間だった。


健だけが空中に残る。支える場所はどこにもない。


「健!」


手を伸ばす。届かない。エナも手を伸ばす。届かない。


健の身体が落ちる。大渓谷の底へ。どこまでも。どこまでも。深い闇の中へ。消えていく。


時間が止まったようだった。


誰も動けない。風だけが吹いている。


信じられなかった。今起きたことが理解できない。


嘘だろ。嘘だろ。嘘だろ。


「健……?」


返事はない。谷底は見えない。ただ黒い。深い。何も見えない。


エナはその場へ座り込んでいた。腕時計を握り締めている。震えていた。


俺も震えていた。


嫌だ。こんなの。嫌だ。


「健ーーーーーーっ!!」


叫ぶことしかできなかった。

しかし、返事はなかった。

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