エクスカリバー
ミノタウロスの亡骸を見上げる。
改めて見ると本当に大きい。
よく勝てたなと思う。いや、勝ったというかエクスカリバーが全部持っていった気もするけど。
「魔石があるな」
健が言った。
そういえばそうだった。オークにもあったしミノタウロスにもあるはずだ。
俺たちは亡骸へ近付く。
胸の辺りを探ると、拳ほどの大きさをした青黒い魔石が現れた。
「でかっ」
思わず声が漏れた。今まで見た魔石の中で一番大きい。オークの魔石ですら比べ物にならなかった。
「上級魔物だからな」
健が魔石を受け取る。
そしてそのまま俺の持つ聖剣へ視線を向けた。
「魔石があるなら補修くらいは出来るかもしれないな」
「そんなこと出来るのか?」
「分からん。やってみる」
そう言うと健は聖剣を受け取った。
見慣れたウインドが開く。
白い光が魔石と聖剣を包み込んだ。
創世。
何度も見てきた。
けれど何をしているのかは相変わらずよく分からない。
拳サイズの魔石が砕ける。
青黒い光が聖剣へ吸い込まれていく。
するとサビだらけだった刀身がみるみるうちに輝きを取り戻し、ヒビも刃こぼれも消えていった。
「おお……」
思わず声が漏れる。聖剣は白い光を纏いながら姿を変えていき、さっきまでのボロボロな姿が嘘みたいだった。
白銀の刀身。
美しい装飾。
鍔には見たことのない紋様まで浮かんでいる。
誰が見ても伝説の武器だった。
「すげぇ!」
思わず叫ぶ。
サリーも目を輝かせた。
「凄いわ!」
キールも感心したように頷く。
「聖剣がここまで変わるとは……」
エナは呆然と聖剣を見つめていた。
「なんだそれ……」
健は出来上がった聖剣を眺める。
そして満足そうに頷いた。
「聖剣(改)だな」
数秒の沈黙が流れる。
「ダサい!」
俺とサリーの声が重なった。
「何がだ」
健は本気で分かっていない顔だった。
「何がじゃないだろ!」
「聖剣(改)はダサい!」
「分かりやすいだろ」
「そういう問題じゃない!」
俺は改造された聖剣を掲げる。
そして宣言した。
「エクスカリバーだ!」
サリーが真っ先に反応した。
「おお! かっこいいです!」
キールも頷く。
「聖剣に相応しい響きですね」
エナも少し考えてから口を開いた。
「ウチもそっちの方がいいと思う」
健だけが納得していなかった。
「聖剣(改)の方が分かりやすいだろ」
「絶対エクスカリバーだ!」
「いや聖剣(改)だ」
「エクスカリバー!」
「聖剣(改)」
しばらく言い合った結果、多数決でエクスカリバーに決定した。
健だけ最後まで不満そうだった。
魔窟を出る頃には夕方になっていた。
久しぶりの太陽が少し眩しい。
思わず大きく息を吐く。
「終わったな」
「終わったわね」
サリーも安堵したように笑った。
キールも肩の力を抜いている。
流石に全員疲れていた。
ミノタウロスはそれだけ強かった。
それでも俺たちは勝った。
聖剣も手に入れた。
目的は達成だ。
セカンへ戻る。
門番が俺たちを見るなり目を見開いた。
「お、お前ら魔窟から帰ってきたのか!?」
「帰ってきたぞ」
「しかもその剣……」
視線がエクスカリバーへ向く。
俺は少しだけ得意気になった。
「聖剣……エクスカリバーだ!」
「お、おお……」
門番の反応を見て少しだけ満足する。少なくとも今のエクスカリバーは誰が見ても伝説の武器に見えるらしい。さっきまでサビだらけだったなんて言っても信じてもらえないだろう。
宿へ戻り、夕食を囲む。
流石に疲れた。
サリーなんて椅子へ座った瞬間ぐったりしていた。
「もう動きたくないわ……」
「王女がそれでいいのか?」
「今日はいいのよ」
良いらしい。
キールも苦笑していた。
食事が一段落した頃だった。
エナが口を開く。
「なあ」
全員の視線が集まる。
エナは少しだけ頭を掻いた。
珍しく言いづらそうだった。
「約束だったよな」
俺は首を傾げる。
約束?
何だっけ。
エナが呆れた顔になる。
「生きて帰ってきたらってやつだ」
「ああ」
思い出した。
「一緒に旅しないかってやつか」
「そうだ」
エナは少しだけ視線を逸らす。
「見極めるって言っただろ。ミナトが本当に勇者なのか。だからもう少し見てやる」
遠回しだった。
ものすごく遠回しだった。
でも意味は分かる。
「そっか」
俺は頷く。
「よろしくな」
エナは少しだけ顔を赤くした。
きっと照れているのだろう。
分かりやすいな。
「やったー!」
サリーが立ち上がる。
「エナちゃんが仲間になったわ!」
「ちゃん付けするな!」
「可愛いからダメ!」
「意味分かんねぇよ!」
いつものやり取りが始まる。
その様子を見ながら少しだけ笑った。
勇者になって、聖剣を手に入れて、新しい仲間まで増えた。異世界へ来た時はどうなることかと思ったけれど、こうして振り返ると悪くない旅になりそうだった。




