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表裏の歴史書〜悪魔との契約〜  作者: qp46
プロローグ

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14/21

聖剣

ミノタウロスが地面を蹴った。


巨体からは想像できない速度だった。


「来ます!」


キールの声が飛ぶ。次の瞬間には目の前まで迫っていた。


振り下ろされた大斧を慌てて避ける。轟音と共に岩盤が砕け散り、飛び散った破片が頬を掠めた。


「うおっ!?」


今のは食らいたくない。というか食らったら終わりだ。オークの棍棒も危険だったが比べ物にならない。ミノタウロスは着地と同時に斧を振り上げる。あれだけ大きな身体をしているのに動きは鈍いどころか、下手な魔物よりよほど速かった。


「サリー!」


「任せて!」


サリーが放った火球がミノタウロスへ直撃する。爆発と共に炎が広がり、その巨体を飲み込んだ。だが止まらない。毛皮の一部は焦げている。確かに効いてはいるのだろう。けれど足は止まらない。煙の中からそのまま突っ込んできた姿にサリーが目を見開いた。


「嘘でしょ!?」


キールが前へ出る。剣が閃き、ミノタウロスの斧を受け流した。流石だ。そう思った瞬間、キールの表情が僅かに歪む。


押し切られた。


キールの身体が吹き飛び、壁へ激突する。


「キール!」


「問題ありません!」


返事は返ってきた。返ってきたけど問題はあると思う。普通に痛そうだった。


その隙にミノタウロスがこちらを向く。赤い目と視線が合った瞬間、嫌な汗が背中を流れた。俺は剣を握り飛び出す。横から斬り付ける。硬い手応えだった。それでも刃は食い込み血も流れたが、ミノタウロスは気にも留めていない。傷を付けたというより引っ掻いたと言った方が近かった。


ミノタウロスが振り返る。斧が振り下ろされる。


「っ!」


飛び退いた直後、地面が砕ける。飛び散った破片が肩へ当たるだけで痛い。今まで戦ったどの魔物よりも強い。オークが強かったなんて思えなくなるくらい別格だった。


その横から健が飛び出した。黒い剣が閃く。以前より明らかに動きが良い。剣筋がミノタウロスの脇腹を捉え、俺よりも深い傷を走らせた。


だが、それでも浅い。


「硬いな」


健が小さく呟いた直後、斧が横薙ぎに振るわれる。健は後ろへ飛んだ。少しでも遅れていたら真っ二つだっただろう。


そこへエナの矢が飛ぶ。目、喉、関節。急所ばかりを狙った矢は確かに命中している。それでもミノタウロスは止まらない。刺さるだけだ。まるで気にしていなかった。


「くそっ!」


エナが舌打ちした。初めて聞いた気がする。それだけ余裕がないのだろう。


誰が見ても分かった。このままでは勝てない。傷は付いているし戦えてもいる。だが決定打がない。ミノタウロスは少しずつ傷付いているのに対して、こちらは一撃でも貰えば終わりだ。このまま続けば先に力尽きるのは俺たちだった。


その時だった。視界の端に聖剣が映る。岩台の上へ静かに突き刺さっている伝説の剣を見た瞬間、俺はここへ来た理由を思い出した。


そうだ。そのために来たんじゃないか。


「みんな!」


俺は叫ぶ。


「少しだけ時間をくれ!」


キールが即座に理解した。


「ミナト!」


「行け!」


俺は走った。ミノタウロスの咆哮を背中で聞きながら岩台へ飛び乗る。目の前には聖剣があった。


これが魔王を倒す剣。勇者だけが抜ける伝説の武器。


俺は柄を握った。


正直少し期待していた。こう、光るとか。神秘的な何かが起きるとか。勇者認定みたいなイベントとか。そんなことを考えながら力を込める。


スポン。


「抜けた」


あっさりだった。


いやもっとこう、伝説の瞬間みたいなのないのか。


後ろでサリーが叫ぶ。


「抜けた!?」


「流石です!」


キールの声も聞こえた。


その瞬間だった。


視界の端でウインドが光る。


創世一覧:聖剣技


「きた!」


思わず叫ぶ。理由は分からない。でも分かる。今の俺に必要なのはこれだ。


迷わずウインドへ触れる。


次の瞬間、聖剣が手に馴染んだ。初めて握ったはずなのに違和感がない。振れる。使える。そう確信した。


ミノタウロスがこちらへ向かってくる。キールが吹き飛ばされ、サリーが距離を取り、エナが矢を放つ。健が正面で時間を稼いでいる。


間に合う。今ならまだ間に合う。


俺は聖剣を構えた。


身体が自然に動く。ミノタウロスが咆哮し、大斧を振り上げる。俺は走った。


聖剣が光る。


分かる。これだ。


「エクスカリバー!!」


振り抜く。


光が奔る。一直線に放たれた光がミノタウロスを飲み込んだ。


咆哮が消える。


光が消える。


静寂。


巨大な身体が揺れる。


そしてゆっくりと崩れ落ちた。


真っ二つになって。


誰も喋らなかった。俺自身も何が起きたのかよく分かっていない。ただ勝った。それだけは分かった。


「倒した?」


サリーが呟く。


「そのようですね」


キールも安堵したように息を吐いた。


エナはその場へ座り込んでいる。


健だけが聖剣を見ていた。


「どうした?」


俺が尋ねる。


健は聖剣を指差した。


「それ」


「ん?」


改めて手元を見る。


そして固まった。


「……あれ?」


サビている。


めちゃくちゃサビている。


刃こぼれもしている。


よく見るとヒビまで入っている。


「え?」


思わず見直す。


どう見てもボロい。


伝説の武器とは思えない。


「これ聖剣?」


「聖剣よね?」


サリーも困惑している。


キールも複雑そうな顔だった。


「間違いなく聖剣です」


「そうなのか……」


どう見ても寿命寸前だった。


健が剣を眺める。


「寿命だな」


「そんな家電みたいに言うなよ」


伝説の武器なんだけど。


俺は改めて聖剣を見る。サビだらけの聖剣を見つめながら、本当にこれで魔王を倒せるのだろうかと少しだけ不安になった。

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