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第81話:優等生の盾と、じゃじゃ馬の矛

第81話:優等生の盾と、じゃじゃ馬の矛

完璧な量産機と、ワンオフの役割

羽田空港の空対課オフィス。大型モニターに映し出された緊迫したデータの前で、羽代課長が凛とした声でブリーフィングを開始した。

「明日の湾岸エリアで開催される国際会議において、過激派組織による大規模な違法武装ドローン群を用いたテロが予告されているわ。今回の作戦は、警察庁に正式配備された『ADUADS Mk-III バージョンP(Police)』部隊との共同防衛任務よ」

モニターには、かつて六菱井重工のテストフィールドで空対課の面々も目にした、黒と銀の重装甲機が映し出されている。

「警察のバージョンP部隊は、1小隊3機編成で現場に投入されるそうです。……でも、そんな立派な最新鋭機が3機も揃っているのに、なぜわざわざウチが呼ばれるんでしょうか? また何か、警察が失敗した時の責任を我々に押し付けられるんじゃ……」

外務係長が胃の辺りを押さえながら、青白い顔で不安をこぼす。すかさず、経理担当の財前鏡子が手元のタブレットから冷徹な視線を上げた。

「被害妄想は胸の内に留めてください、係長。我が課が呼ばれたのは、機体の『役割』が根底から違うからです。警察のバージョンPは、分厚い装甲と大型シールドを備えた要人護衛および拠点警備、つまり『盾』に特化した仕様。極限まで最適化されたOSにより、3機が完全にリンクして、誰が乗ってもブレのない完璧な防衛陣形を構築します。対して我が課のMk-IIは――」

「エンタメ機であるXAHCRAザハクラのフレームをベースにした、高出力モーター駆動の『じゃじゃ馬』ってことだろ」 ツナギ姿の新田整備班長が鼻を鳴らして引き継いだ。

「その通りです」と財前は眼鏡のブリッジを押し上げる。

「Mk-IIは装甲こそ薄いですが、圧倒的な機動力を生かして空を飛び回り、違法ドローンを積極的に排除・捕獲する『矛』。システムとしての住み分けは完全に成立しており、無駄な予算の食い合いにはなりません」

「そういうこと。互いのルーツと長所を最大限に生かして、空の安全を守り抜くわよ。空対課、出動!」

信頼のフォーメーション 東京湾岸道路を、二台の特装車両が滑るように疾走していく。 先導する黒のSUVでハンドルを握る刑部風人は、前方に広がる景色を見据えながら、助手席の相棒に静かに声をかけた。

「……瑞希。警察のバージョンP、3機小隊とのデータリンク状況はどうなっている?」

「完璧よ、刑部さん。バージョンPの1小隊は、すでに会議場周辺の絶対防衛ラインを展開済み。3機のOSがリアルタイムで死角を補い合って、美しいくらい見事なフォーメーションを組んでいるわ。私たちはその外周で、網にかかった獲物を狩る遊撃戦ね」 雲井瑞希が、複数のウィンドウが立ち上がったタブレットを弾きながらハキハキと答える。

一方、後方の大型特装キャリアーでは、巨漢の金剛鉄平がご機嫌な様子でハンドルを握っていた。

「ハッ! テストドライブで乗ったあの『優等生』たちと、現場で肩を並べて仕事ができるなんてな! 警察の小隊行動なんて、見応えがありそうだぜ!」

「金剛さん、浮かれて車間距離を詰めすぎないでください。警察車両の隊列に接触でもしたら、国家賠償レベルの始末書と減給が待っています。当然、あなたのボーナスはゼロになりますよ」

助手席の財前が、揺れる車内でも無表情のまま冷水を浴びせた。

盾と矛の完璧な連携クロスオーバー

『敵機襲来! 上空より、テロリストの武装ドローン群が急降下してきます!』

瑞希の鋭いナビゲートと同時に、上空から黒い雲のように無数の違法ドローンが会議場へ向かって殺到した。

現場の指定ポイントに到着した刑部が、キャリアーの後部コンテナへ滑り込む。

「刑部蓮、ADUADS Mk-II、起動。……出るぞ」

コンテナから躍り出た白とネイビーの機体が、四脚のホイールを猛烈に回転させてアスファルトを蹴る。

前方では、重装甲のバージョンP・3機が、要人車両を囲むようにして強固な三角形の陣形ファランクスを構築していた。テロドローンが放つ牽制の散弾や、自爆特攻の衝撃。それらを、3機のバージョンPは岩のように微動だにせず、オートマチックな姿勢制御で完璧に弾き返している。

「相変わらず見事な防御プログラムだ。3機が連携することで、物理的な死角が完全に消滅している。なら、俺たちは排除に専念する」

『刑部さん、バージョンPのシールド防衛網を頭上から迂回して、直接要人車両を狙おうとする3機がいるわ! 風速2メートル、右斜め上、高度15!』

「了解した」 瑞希の完璧な空間データを受け、刑部はMk-IIの四脚に限界ギリギリのトルクをかけた。量産機には決して真似できない、ピーキーなワンオフ機ならではの立体機動。Mk-IIは隣接する歩道橋の支柱を垂直に駆け上がり、警察の3機小隊の頭上を跳び越えるようにして大跳躍を果たす。

空中で身を翻したMk-IIは、右メインアームのレーザー・ダズラーを乱れなく照射。防衛網を抜けようとしたドローンのセンサーを的確に焼き切っていく。 さらに、コントロールを失って落下してくる親玉の大型ドローンを、左補助腕のゲージ・シールドで的確に捕獲し、そのまま路面へと滑るように着地した。

バージョンPの3機小隊による鉄壁の絶対防衛と、Mk-IIによる変幻自在の極限の捕獲劇。一切の無駄がない「盾」と「矛」の鮮やかな連携に、現場の警察官たちから思わず感嘆のどよめきと拍手が巻き起こった。

平和な格納庫と変わらぬ掟 深夜の空対課格納庫。機械油の匂いが漂う空間に、今日は甘く香ばしい匂いが満ちていた。

「あらあら、警察庁の方々から『空対課の迅速な遊撃のおかげで、1小隊の防衛ラインを維持できた』と、差し入れに老舗の高級カステラをたくさんいただきましたよ。最新の盾と、熟練の矛の見事なコンビネーションでしたねぇ」

鳥海詩織がニコニコと笑いながら、きめ細やかに切り分けられたカステラを皿に並べている。

新田整備班長は、Mk-IIの脚部関節にグリスを塗り込みながら満足げに頷いた。

「ヘッ、あっちの優等生3機がガチガチの装甲で壁になってくれたおかげで、こっちのじゃじゃ馬は被弾のリスクを負わず、思う存分高出力モーターを回せたってわけだ。適材適所、いい相棒じゃねえか」

「ええ。互いの機体のルーツと特性を完全に理解した、理想的な協調作戦でした」

刑部が温かいお茶を飲みながら静かに答える。

和やかな空気が流れる中、カステラの皿を手にした財前が、氷のような声で巨漢を振り返った。

「金剛さん」

「な、なんだよ財前さん。俺は今日、完璧な運転で刑部を現場に届けたぜ?」

「現場への進入時、あなたは警察の小隊陣形を見てテンションが上がり、不必要にアクセルを吹かしてエンジンを唸らせましたね。無駄な燃料消費、約600円分。よって、あなたのカステラは、一番端の焼き色が濃い耳の部分のみとします」

「鬼ィィィィッ!! カステラの一番美味いしっとりした真ん中の部分を食わせろォォッ!!」

嘆き叫ぶ金剛の横で、瑞希がクスリと笑いながら一番しっとりとした中心部分にフォークを刺す。

「金剛さん、大声を出して暴れると生地がパサつきますよ。……刑部さんも、今日はお疲れ様」

「瑞希のサポートがあってこそだ」

役割の違う次世代の量産機たちと、じゃじゃ馬なワンオフの鉄騎。二つの異なる個性が守り抜いた東京の空の下、空対課の夜は今日も賑やかに更けていくのだった。

【第81話:優等生の盾と、じゃじゃ馬の矛 完】




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