第78話:湾岸の黒い密輸ライン
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第78話:湾岸の黒い密輸ライン
異例の要請と縦割りの壁
羽田空港の空対課オフィスに、厚労省麻薬取締部から緊急の合同捜査要請がもたらされた。外務係長の手には厚生労働省麻薬取締部――通称「麻取」からの公式文書が握られている。
「厚労省麻薬取締部から緊急の合同捜査要請です! 横浜・東京の湾岸エリアにおいて、自律飛行型ドローンを用いた広域な違法薬物の密輸ルートが確認されたとのこと! 本省からの打診により、我が『空対課』に現場でのドローン捕捉協力命令が下りました!」
外務が汗を拭いながらまくし立てる横で、財前が冷徹な手つきで電子端末の数値を弾く。
「なるほど。麻取の手が届かない上空の抜け道を、当課の『ADUADS Mk-II』に押し付けようという腹ね。……羽代課長、今回の協力実績は来年度の予算獲得において強力なカードになりますが、捜査中の器物破損や薬物の飛散事故を起こした場合、すべての責任と費用を我が課に被せられるリスクがあります」
「麻取との手柄争いに付き合うつもりはないけれど、空を違法薬物の抜け道にさせるわけにはいかないわ」
羽代課長は凛とした佇まいで立ち上がり、マイクを握った。
「空対課、出動! 密輸ドローンを制圧し、証拠品である積載薬物を無傷で確保しなさい!」
湾岸線を駆ける二台
東京湾岸道路を、二台の車両が猛スピードで滑走していた。
先導する黒のSUVの運転席で、刑部風人は静かにハンドルを握り、隣の相棒へ視線を配る。
「……瑞希。麻取からのリアルタイムデータは来ているか?」
助手席の雲井瑞希は、タブレット端末をハキハキと操作しながら素早く答えた。
「ええ! ターゲットは品川埠頭のコンテナ街へ向かってるわ。機体はレーダー波を吸収するカーボン塗料が施された完全特注の密輸用ドローン。でも、海風の影響で飛行姿勢にわずかなブレが出てる。私が観測ドローンで気流のデータを重ねて、絶対に見失わせないわ!」
一方、後方を追う大型特装キャリアーの運転席では、金剛鉄平が豪快に笑い声を上げていた。
「ハッ! マトリのお偉方にお手本を見せてやろうじゃねえか! 邪魔なコンテナがあろうが、俺の運転で最短ルートを突っ切ってやるぜ!」
助手席の財前は、強烈な横Gにも眉ひとつ動かさず冷静に釘を刺す。
「港湾局の所有施設やコンテナに傷一つ付けないでくださいね、金剛さん。修理費が発生した場合、麻取との共同捜査手当は全額カットの上、自腹で補填していただきます」
「無茶言いやがる! 相変わらず容赦ねえな!」
証拠を護る精密な一撃
品川埠頭の広大なコンテナヤードに到着すると同時に、SUVから飛び出した刑部がキャリアーの後部コンテナへ滑り込む。雲井はSUVの助手席から素早く複数の観測ドローンを上空へ放ち、現場の空間データを構築し始めた。
「刑部蓮、ADUADS Mk-II、起動。……行くぞ、相棒」
コンテナハッチが開き、全長3.8メートルの鋼鉄の機体が四脚のホイールを猛烈に回転させてコンテナ街のアスファルトへ降り立つ。
上空では、漆黒の密輸ドローンが迷路のようなコンテナの隙間を縫うように超高速で低空飛行していた。機体下部には、高純度の違法薬物が詰まった防水ケースが吊り下げられている。
『刑部君、ショットガンは絶対禁止よ!』
通信越しに羽代課長の鋭い指令が飛ぶ。
『弾丸で薬物ケースが破裂すれば、証拠隠滅になるばかりか、周囲に毒性が飛散するわ!』
「了解です……。近接で切り離します」
密輸ドローンは急激なドッグファイトを開始。複雑なコンテナの陰に隠れ、追跡を振り切ろうとする。しかし、上空の雲井から精密な誘導データが途切れることなく送られていた。
『刑部さん、次、赤と青のコンテナの交差点! 海風のノズル効果で、相手の機体が0.3秒だけ浮き上がるわ! そこがチャンス!』
「了解。感謝する、瑞希」
刑部はADUADS Mk-IIの四脚を駆動させ、積み上げられたコンテナの側面を垂直に蹴り上げて空中で倒立。
「右補助腕、シングル・ローター・ブレード展開」
高速回転するブレードが、寸分の狂いもなく密輸ドローンと薬物ケースを繋ぐワイヤーだけをピンポイントで切断。落下する薬物ケースを、ADUADS Mk-IIの左補助腕ゲージ・シールドの平らな面で柔らかく受け止めた。
さらに、バランスを崩した密輸ドローン本体に向けて、右メインアームのレーザー・ダズラーを低出力で照射。センサーを焼かれた敵機は失速し、コンテナの隙間にそのまま叩き落とされた。
「……こちら刑部。密輸ドローンの無力化、および薬物カプセルの完全回収に成功」
陰で見守っていた麻取の捜査官たちが、ADUADS Mk-IIの人間離れした精密な機動に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
成果と厳しい現実
深夜、羽田空港の空対課格納庫。
「あらあら、麻取の局長さんから直々にお礼の連絡がありましたよ。今回の押収量は過去最高規模だそうです。差し入れに高級なカツサンドをいただきましたから、皆様で召し上がってくださいね」
鳥海がニコニコと笑顔を絶やさず、豪華な箱をテーブルに広げていた。
その横では、ツナギ姿の新田がエアダスターを吹き付けながらボヤいている。
「港湾の潮風とコンテナの鉄粉が関節に入り込んでやがる。まったく、密輸だかなんだか知らねえが、メカを痛めつけるような運用ばかりさせやがって。手伝えよ、刑部」
「はい、すぐに行きます、新田さん」
刑部はコックピットから降り、手慣れた様子で工具を取った。
しかし、平和な空気も束の間、冷酷な現実が襲いかかる。
「金剛さん」 財前が端末を手に、氷のような視線を金剛に向けた。
「埠頭のコンテナヤードへ強引に進入した際、タイヤの側面に深刻な削れが確認されました。特注大型タイヤ2本の交換費用、計32万円になります」
「なっ……! あれは現場の急カーブで必要なドリフトだったんだよ!」
「危険運転による過失です。麻取からの協力手当は全額相殺、本日の金剛さんの夕食は、カツサンドではなく備蓄用のパンの耳(塩味)に決定しました」
「鬼ィィィィッ!! マトリの高級カツサンド食わせろォォッ!!」
天を仰いで絶叫する金剛の横で、雲井がクスリと笑いながらカツサンドを一口かじった。
「金剛さん、騒ぐと余計にお腹が減りますよ。……刑部さん、今回もお見事でした」
「瑞希の気象データと誘導が完璧だったからだ」
静まり返った夜の格納庫。激闘を終えたADUADS Mk-IIが、パトランプの光を静かに残しながら佇んでいた。東京の空の平穏は、彼らのプロフェッショナリズムと、容赦ない予算管理によって今日も守られている。
【第78話:湾岸の黒い密輸ライン 完】
皆様へ、連絡です。ハーメルンで二次創作小説を開始しました。その関係で今後は投稿を一話で行きます。




