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第6話:宙を舞う脱税銀行


第06話:宙を舞う脱税銀行

「……見つけたわ。この高度、この周波数。間違いない。航空管理局の網を掻い潜りながら、一秒間に数千回の小口送金を繰り返している『動くサーバー』よ」

羽田の詰め所。財前鏡子の眼鏡の奥で、膨大な数字の羅列がハイスピードで流れていく。彼女が追っているのは、物理的な「紙幣」では無くデジタル空間に隔離された「資産」そのもの――通称、空飛ぶ金庫スカイ・バンク

「財前さん、またその『幽霊ドローン』の話か?」

刑部が、調整中のMk-IIのコクピットから身を乗り出す。

「幽霊じゃないわ。ある投資グループが、各国の徴税権が及ばない『公海上空』と『領空』の境界線を飛び続けながら、AIに資産運用をさせている自動飛行プラントよ。……でも、今回はただの脱税じゃない。奴ら、システムをハッキングして、羽田の管制空域を強引に横断しようとしているわ」

「管制空域の無断横断……? それは航空管理局として黙ってられないわね」

羽代課長がコーヒーカップを置く。

「外務省の調べでは、その機体には国外逃亡を図る大物投資家も搭乗しているという噂です。法務省からは身柄拘束の要請が、財務省からは差し押さえの密命が……。……財前さん、本省(財務省)から直接電話が来ていましたよ?」

外務係長が、複雑な表情で端末を差し出した。

「……フン、都合の良い時だけ『元・査察部のエース』を頼るんだから」

財前は不敵に微笑み、タイピングの速度を上げた。

「空対課、出動よ。あの『飛ぶ金庫』をこじ開けて、未払いの税金ケジメをきっちり払わせてあげるわ」

東京湾上空・アクアライン付近

視界には、巨大な鯨のような形状をした超大型ドローン。それは、幾重もの電子防壁ファイアウォールで守られた「空の要塞」だった。

「刑部さん、機体への直接ハッキングは弾かれるわ。物理的に『通信アンテナ』を破壊して、機体を強制的にオフラインにするしかない!」

セダンの後部座席で、財前が三台のノートPCを同時に操作しながら叫ぶ。

「金剛さん、あの巨大ドローンの真下まで寄せられるか!?」

「無茶を言うな! あんな巨体が落ちてきたら、アクアラインが崩落するぞ! ……だが、職務執行のためだ、フル加速で行くぜ!」

金剛がキャリアーのアクセルを踏み込み、巨大ドローンの影に滑り込む。

「刑部、Mk-II、展開!」

刑部はキャリアーから跳躍し、四脚のホイールで巨大ドローンの外装にしがみついた。強烈な風圧がMk-IIを剥がそうとする。

「迎撃ドローン、来るわよ! 刑部さん、右8時方向!」

瑞希のナビゲート。巨大ドローンのハッチから、蜂のような小型防衛ドローンが次々と射出される。

「右補助腕、ローター・ブレード、始動!」

刑部がブレードを回転させ、迫り来る小型機を物理的に叩き落とす。だが、親機のメインアンテナは強固な防護シャッターの奥だ。

「財前! シャッターが開かない! 無理やりこじ開けるか?」

「待って、あと5秒。奴のAIが次の中継サーバーに接続する瞬間、システムに0.01秒の遅延ラグが出る。……そこよ! 今、アンテナの冷却ハッチが開くわ!」

「了解……! 左メインアーム、ショットガン、射撃許可を!」

「……財務省の『強制調査権』の名において許可します! 撃ちなさい、刑部君!」

羽代課長の通信を上書きするように、財前の鋭い声が響いた。

――ドンッ!!

至近距離からの散弾が、巨大ドローンのアンテナ基部を粉砕した。

制御を失い、断末魔のような電子音を響かせながら、巨大ドローンは海上の緊急着陸用プラットフォームへと降下していく。

結び:1円単位の決算

その夜、羽田の詰め所。

そこには、押収されたハードドライブの山と、計算機を叩き続ける財前の姿があった。

「……やったわね。未申告の暗号資産、時価で約200億円分を確保。これで今期の国税収益に大きく貢献できるわ」

「お疲れ、財前。……で、俺たちの『手柄』はどうなるんだ?」

刑部が尋ねると、財前は冷徹な視線を向けた。

「そうね。今回の作戦にかかったMk-IIの燃料費、金剛さんがスピード違反で切られた反則金、それに瑞希さんの観測ドローンの修理費……。これら全てを『差し押さえ資産』から経費として相殺するわ。……結果として、あなたたちの特別ボーナスは、一人あたり……1,250円ね」

「……安っ!!」

一同の叫びが詰め所に響く。

「文句を言わない。1円を笑う者は、1円に泣くのよ。……それから係長。この『国際資産差し押さえに関する公文書』の翻訳と発送、明日の朝までに終わらせておいてくださいね」

「……はは、やはり私には有給は来ないようですね」

外務係長が力なく笑い、羽代課長が楽しげにコーヒーを啜る。

「でも、あんな『空飛ぶ金庫』を捕まえられるのは、この空対課うちだけよ。……さあ、決算報告書を書き上げるわよ、刑部君」

「……了解です。ナビ(財務官)の言うことには逆らえませんからね」

数字と法律、そしてMk-IIの鉄拳。

空対課の日常は、今夜も1円単位の帳尻合わせと共に過ぎていく。

【第6話:宙を舞う脱税銀行 完】


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