第59話:黒い羽ばたき、滑走路の凶行
すみません。前回の次回予告は次回投稿します。失礼しました。
【第59話:黒い羽ばたき、滑走路の凶行】
「警視庁SAT(特殊急襲部隊)から正式な応援要請よ! 空対課、ただちに出撃しなさい!」 羽田空港・第2ターミナル地下、空対課対策室。羽代課長の鋭い声が、緊迫した室内に響き渡った。
スクリーンには、羽田空港の広大な滑走路と、駐機場に並ぶ何機もの大型旅客機が映し出されている。 「犯人からの要求は一切なし。管制センターに送りつけられたのは『駐機中の旅客機をドローンで爆破する』という一方的な犯行声明だけよ。現在、爆発物を積載した小型自爆ドローン群が、空港のフェンスを越えて駐機場エリアに侵入中!」
「要求のないテロ……! 純粋な破壊活動ですか!」 外務係長が、胃薬の瓶を握りしめたままガタガタと震えている。 「現場にはすでにSATが展開していますが、彼らのアサルトライフルでは、ドローンを撃ち漏らしたり、貫通した弾丸が旅客機の燃料タンクに当たる危険があるため発砲できません! 航空機が爆発すれば、羽田は火の海です!」
「我々の本拠地で好き勝手やらせるわけにはいかないわ。刑部君、金剛さん、財前さん、瑞希ちゃん! 出番よ!」 「了解!」
羽田空港・駐機場エリア
夜の羽田空港。誘導灯が宝石のように輝く広大なコンクリートの平野に、けたたましいサイレンが鳴り響いていた。 周囲をSATの装甲車両が封鎖する中、空対課の大型キャリアーが猛スピードで滑り込んでくる。
「金剛さん、刑部さん」 助手席で、財前鏡子がタブレット端末を冷徹な手つきで弾く。 「相手は数億、数十億円規模の大型旅客機です。もしMk-IIの機体が旅客機に少しでも接触したり、流れ弾で傷をつけたりすれば、我が課の予算は向こう10年間消滅します。……わかっていますね? 被害総額『ゼロ』で鎮圧してください」 「無茶言うな! 駐機場なんて障害物だらけじゃねえか!」 金剛鉄平が怒鳴りながら、キャリアーのハッチを開放した。
ガシャアアン!! ジェットエンジンの轟音が響く滑走路に、全高3.8メートルの鋼鉄の獣――ADUADS Mk-IIが降り立った。 機体のメインモニターに、「aduads」の起動ロゴが白く輝く。
「刑部、出る。……瑞希、目標の捕捉は?」 刑部風人が操縦桿を握り、Mk-IIの四脚をコンリートの路面に固定する。 先導するSUVの中で、雲井瑞希がタブレットを高速で操作していた。
「目標は3機! いずれも旅客機の死角を縫うように低空で接近中! 機体には強力なC4爆薬が積まれているわ!」 瑞希のナビゲーションを受け、刑部はMk-IIのメインアームを構えた。 「本部、こちら刑部。旅客機や設備への被害を防ぐため、実弾は使用しない。鳥海さんが用意した『特殊カーボンネット弾』で、ローターを絡め取って無力化する」
『了解! 刑部君、絶対に、絶対に旅客機には当てないでくださいよぉっ!』 無線の奥で外務係長が悲鳴を上げる。
「……見えた」 暗闇の中、旅客機の巨大な主翼の下を潜り抜けるように、黒いドローンが突進してくる。 刑部はMk-IIの油圧シリンダーを制御し、機体を極限まで低く沈み込ませた。
『敵、第3エンジン付近を通過! 撃って!』 「もらった!」
ズドンッ! 銃口から放たれた特殊弾が空中で破裂し、強靭なカーボン製の網がドローンに覆いかぶさった。 網にローターを絡め取られたドローンは、爆発することなく、旅客機からわずか数メートルのコンクリート上に無様に落下した。
「次!」 刑部は即座に四脚を駆動させ、滑走路を滑るように移動。2機目、3機目と、旅客機の隙間を縫うような神業のエイムで、次々とカーボンネット弾を命中させていく。
「……こちら刑部。全機無力化。爆発なし、旅客機への接触なし」 『こちらSAT部隊! 落下したドローンの爆発物解除に成功! 素晴らしい制圧劇だ、空対課!』 警察の無線から、感嘆の声が漏れる。
「やったわね、刑部さん!」 瑞希がSUVの中で安堵の息を吐いた――その時だった。
『……ピィィィッ』 瑞希のタブレット端末と、Mk-IIのコックピットモニターに、突如として強力なノイズが走った。 「えっ……!? 嘘、ジャックされてる!?」
落下したドローンのうちの1機から、強烈な電波信号が発信され、空対課の通信回線に強制介入してきたのだ。 ノイズの中から、合成された不気味な音声が響き渡る。
『――見事な迎撃だ、空対課。「aduads」の性能、しかと見せてもらった』 「誰だ、お前は!」 刑部が鋭く問い詰める。
『樹海でのスラグ弾。湖での水柱。そして富士山頂での迎撃……。我々のデータを上回る君たちのイレギュラーな戦いぶりには、大いに楽しませてもらったよ』 その言葉に、対策室の羽代課長の顔色が変わった。
「……富士山の三つの事件、すべてお前が裏で糸を引いていたのね!」
『いかにも。今回のテロも、君たち空対課の「ホーム」での防衛能力を測るための、ほんの小手調べに過ぎない。……いずれまた会おう。我々は【ゴースト・パピヨン】。空の秩序を塗り替える者だ』
ブツンッ。 通信は一方的に切れ、モニターには一瞬だけ、ノイズ混じりの「不気味な蝶」のエンブレムが浮かび上がり、消えた。
「ゴースト・パピヨン……」 刑部は、暗闇の滑走路を見据えながら、その名を深く刻み込んだ。
数時間後・羽田空港 第2ターミナル裏手
事件の事後処理が終わり、夜明け前の冷たい風が吹いていた。 見えざる強敵「ゴースト・パピヨン」の存在が明らかになり、チームに緊張が走る中……財前鏡子がタブレット端末を片手に、いつものように歩み寄ってきた。
「お疲れ様でした。見事な被害ゼロでしたね。……ですが」 財前のメガネが、滑走路の誘導灯を反射して光る。 「特殊カーボンネット弾の消費費用、および、未明の滑走路を一部封鎖したことによる空港への営業補償費分担金。締めて280万円の経費です。したがって、夜明けに空港の特別ラウンジで予定していた『特上・羽田空港限定海鮮丼』の朝食はキャンセルです。コンビニの塩むすびで我慢してください」
「ウソだろおおお!? ホームグラウンドでテロを防いだのに、塩むすびかよ!!」 金剛が夜明けの空に向かって絶叫する。
そこへ、整備班の新田班長と補給・輸送担当の鳥海が高圧洗浄機と大量の特殊洗剤を抱えて、鬼の形相で現れた。 「おう刑部、金剛! 深刻な顔してるところ悪いがな。滑走路のコンクリートには、航空機のジェット燃料の油膜と、タイヤの削りカスがこびりついてるんだ。これがMk-IIの関節に入り込むと、ゴムが劣化して最悪の故障を引き起こす!」 新田は洗浄機のノズルを刑部に押し付けた。 「飯を食う前に、強力なディグリーザー(脱脂洗浄剤)を使って、機体の隅々まで念入りに『油膜落とし洗車』だ! 拭き残しがあったら、次の出撃はねえぞ!」
鳥海補給・輸送担当はすまなそうに
「すみませんが、お願いします」
「……了解した。行くぞ、金剛さん」 刑部は静かに頷き、冷たい水が入ったバケツを受け取った。
「トホホ……分かったよ。塩むすび食いながら、徹夜で油落としだ……!」
新たな宿敵「ゴースト・パピヨン」からの宣戦布告。 空対課を待ち受ける戦いがさらに激化することを予感させながらも、刑部と金剛は滑走路の片隅で、黙々と鋼鉄の相棒を磨き続けるのだった。
【第59話:黒い羽ばたき、滑走路の凶行 完】
今度こそ、次回は空対課、慰安旅行で熱海に行く(仮題)です。よろしくお願いします。




