第54話:石見の空、宿命の同窓(どうそう)
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【第54話:石見の空、宿命の同窓】
島根県浜田市旭町。山々に囲まれたのどかな風景の中に、広大な敷地を持つ国内最大級のPFI刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」がある。
数日前からこの施設の周辺で、高度な電子妨害を施した違法ドローンによる、施設内および収容者の動線を狙った悪質な「盗撮行為」が頻発していた。警備の目を掻い潜り、山林へと逃走を繰り返す犯人を現行犯で押さえるため、法務省の特別機動警備隊(SeRT:サート)から、国交省空対課へ超法規的な共同作戦の要請が下った。
「というわけで、今回は刑部君の古巣である法務省からの直々のSOSよ」
羽田の本部からリモート画面越しに、羽代課長が鋭い目を光らせる。
「外務係長が法務省矯正局と一晩中交渉して、現地での合同作戦の決裁は取ってあるわ。現場チーム、島根の空の安全と、矯正施設の威信を守りなさい!」
「はい……もう浜田市役所や島根県警との事前調整で私の胃は限界です……」
画面の端で、外務係長がいつものように胃薬を飲み干す。
現場であるセンターの管理用駐車場。
大型キャリアーの助手席で、財務省出身の財前鏡子はタブレット端末を冷徹に叩いていた。
「東京から島根までのキャリアーの高速道路料金、および特殊燃料代。さらに、SeRTとの合同演習名目で計上された現地諸経費により、すでに特別出張予算が180万円消費されています。刑部さん、金剛さん。今回は法務省からの予算補填があるとはいえ、無駄な機材損耗は一円たりとも認められませんからね」
「分かってるって、財前。安全第一、コスト最小限、だろ?」
大型キャリアーのハンドルを握る金剛鉄平が、ツナギの襟を正しながら笑う。
その時、キャリアーのドアが開き、黒いタクティカルベストに身を包んだSeRT(特別機動警備隊)の隊員たちが近づいてきた。その先頭に立つ小隊長らしき男が、キャリアーから降りた刑部風人を見て、目を見開いた。
「……まさかと思ったが、『空対課』なんてお目立ち部署のパイロットに転属していたとはな、刑部」
「真壁……」
刑部の無表情な顔に、わずかな驚きが走る。真壁は、刑部が法務省の刑務官だった時代の同期だった。
「お前が国交省に出向したって聞いた時は、厄介払いされたのかと心配したんだぞ」
真壁はそう言って、刑部の肩を小突いた。
「……俺も、なぜ自分が選ばれたのか、ずっと疑問だった。刑務官の経歴が、巨大ロボットの操縦に必要だとは思えなかったからな」
刑部が静かに返すと、真壁は呆れたように首を振った。
「バカ言え。何も知らされてないのか? お前が刑務官時代、施設への外部からの不審なドローン飛行経路を、夜勤の仮眠時間に誰よりも熱心に分析してただろ。
『これからは空のセキュリティも刑務所に必要になる』って、お前言ってただろう。
全国の刑務官に違法ドローン対策の意見書の提出を求められたのをお前覚えているか?」
「意見書の内容はともかく、お前がドローン対策に人一倍熱心であることは、本省でも評価されていた。だから国交省から『ADUADSのパイロットに適任な、規律正しく観察力に優れた人材』の打診が来た時、真っ先に名前が挙がったのがお前だよ。だから推薦されたんだ。厄介払いなわけがあるかよ」
真壁の言葉に、刑部は目を見張る。
「……そう、だったのか」
刑部は自身の胸の奥で、かつて抱いていた「刑務所も空の脅威に対応しなければならない」という執念が、現在の席(aduadsのコックピット)へと繋がっていた事実を知り、静かに拳を握りしめた。
その時、先導する黒のSUVの車内から、雲井瑞希の緊迫した声が無線に飛び込んできた。
『刑部さん、真壁さん、雑談はそこまでよ! 観測ドローンが目標を補捉! 施設東側の旭町の山林上空、高度60メートルに違法ドローンが侵入! 現在、収容棟の窓を盗撮中よ!』
「よし、現着だ! 刑部、行くぞ!」
金剛が叫び、キャリアーのコンテナハッチを開放する。
瑞希はSUVを完全に停車させると、助手席に座ったまま、自身のタブレット端末を高速で操作し、気象データと敵ドローンの三次元飛行予測ベクトルの算定に完全に専念した。
刑部はSUVから飛び降り、コンテナ内のADUADS Mk-IIの操縦席へ滑り込む。
システム名「aduads」のロゴがメインモニターに白く浮かび上がり、全高3.8メートルの鋼鉄の塊が、島根の豊かな自然の中にその巨体を現した。
「目標視認。真壁、ドローンの電波を逆探知する。犯人の潜伏場所を特定したら、身柄の確保を頼む」
『了解した、刑部! 地上は俺たちSeRTに任せろ!』
違法ドローンはMk-IIの接近を察知し、急激に反転して旭町の深い山林の奥へと逃走を図る。
Mk-IIの最高速度は時速50キロ。まともに追いかけては、障害物の多い山林のドローンには追いつけない。
『刑部さん、敵は山の斜面を利用して気流に乗り、速度を上げているわ!』
瑞希の声がインカムに響き、刑部のモニターに最適な追跡ルートが緑色のラインで描かれる。
『30秒後に風向きが南に変わる! その瞬間、ドローンは風を避けるために一瞬、山陰の細い谷間に降下するはずよ。先回りして、左メインアームのショットガンのネット弾で捕獲して!』
「了解した、瑞希……! 相棒、足元に気をつけるぞ」
刑部は操縦桿を押し込み、四脚のホイールを駆動させ、最高速度時速50キロで山の斜面を駆け上がった。民間整備班の新田たちが長距離輸送後に入念に調整してくれた油圧シリンダーが、激しい凹凸の衝撃を完璧に吸収する。
谷間の出口に先回りし、Mk-IIを完全に固定する刑部。
「本部、こちら刑部! 目標が間もなく射程に入る。証拠隠滅を防ぐため、機体を破壊せずに無傷で捕獲する。発砲許可を!」
羽田の対策室で、外務係長が法務省からの直通電話を握りしめながら叫んだ。
『法務省矯正局、国交省航空局、共に発砲許可下りました! 相手は盗撮の現行犯です! 機体内のメモリーカードを無傷で確保してください!』
「了解。……三、二、一……そこだ!」
瑞希の予測通り、猛烈な突風を避けるために谷間へ滑り込んできた違法ドローン。その目の前に、Mk-IIの巨大な左メインアームが電光石火の速さで突き出された。
ドンッ!!!
鈍い重低音と共に、Mk-IIのネット弾が、高速飛行するドローンを正確に、かつ優しく掴みとった。ドローンは強制的に地面に軟着陸させられた。モーターが過負荷で悲鳴を上げるが、機体に傷は一切ない。完全なる「無傷の確保」だった。
「……こちら刑部。目標のドローンを確保。逆探知データをSeRTへ転送する」
『こちら真壁! データ受信、潜伏中の犯人グループ3名を捕捉、同行している、島根県警が全員現行犯で逮捕した! 完璧なサポートだ、刑部!』
無線越しに聞こえる同期の弾んだ声に、刑部は操縦席で小さく、満足そうに微笑んだ。
「やったわね、刑部さん! 完璧なキャッチ!」
SUVの車内で、瑞希がタブレットを掲げて歓声を上げた。
数時間後・島根あさひ社会復帰促進センター 管理棟
事件解決の熱気が冷めやらぬ中、現場チームの前に財前がいつものように冷徹な顔でタブレット端末を突きつけてきた。
「お疲れ様でした。犯人が撮影していたデータはすべて消去され、現行犯逮捕ということで法務省からは特級の感謝状が出るそうです。……ですが」
財前は画面をスワイプする。
「Mk-IIが最高速度で山林を突破した際、私有地の立ち木を数本なぎ倒しました。その『森林器物破損および地権者への補償費』。さらに、浜田市の急斜面を走行したことによる脚部駆動系の緊急メンテナンス費用。締めて45万円が、法務省からの協力補填金から相殺されます。つまり、今回の出張、ウチの純利益はマイナスです。帰りのサービスエリアでの買い食いは一切禁止ですからね」
「ゲッ、島根の名物、赤てん(魚肉練り製品)を食べるのを楽しみにしてたのに!」
金剛ががっくりと肩を落とす。
片付けを終えた刑部の元へ、真壁が歩み寄ってきた。
「刑部。お前がそれ(Mk-II)を選んだんじゃない。お前の空への情熱が、お前をその席に呼んだんだな。法務省の誇りとして、国交省でもしっかりやれよ」
真壁はそう言って、右手を差し出した。
刑部はその手をがっちりと握り返し、「ああ。お前もな、真壁」と静かに応じた。
「さあて、刑部!」
ツナギを着た金剛が、バケツと高圧洗浄機のノズルを持って笑顔で手招きする。
「民間補給班の鳥海が、地元の綺麗な水を確保してくれたぜ! 日本海の潮風と山泥で汚れちまった相棒を、夜が明ける前に二人でガシガシ磨き上げようじゃねえか!」
「了解した、相棒。……すぐ行く」
刑部は格納庫で静かに佇むMk-IIを見上げ、自身の進むべき道を確信しながら、ブラシを手に取った。
遠く広がる石見の空には、いつの間にか美しい星空が輝き始めていた。
【第54話:石見の空、宿命の同窓 完】
なろうでランクイン、カクヨムでもPVついた記念ということで、設定よもやま話を一つ。
題して「ADUADSはこうして創作された」です。
ADUADSのモデルはロボ好きならご存知、水道橋重工さんの「クラタス」をベースに考案しました。
最初はウクライナがドローン対策にドイツの対空戦車を使っているとネット記事で知り、その後、別のネット記事で自衛隊がVdas(バルカン対空砲システム)を退役させたが、ドローン対策に使えたのでは?というのを知り、その時クラタスにVdasを積むのどうだろうと思いついたのがきっかけでした。クラタスの右腕の前腕をバルカン砲に換装し、左腕の前腕をレーダーシステムに換装。戦場の最前線ではなく、戦地後方の都市インフラの防衛、ドローンのみに対応ということにすれば、人型搭乗式ロボット兵器の様々な欠点、問題をクリアーして、リアリティーを出せるのではと考えました。プラスで可動式のゲージ装甲を追加しようと思いサブアーム一対、足して(四足なので四腕しても違和感を感じないかなとも思い)ついでにゲージ装甲は盾みたいな感じなので、もう片方は近接迎撃用に剣の様な棒状の武器を付けよう、車高が高いしMRAP(地雷対応車)のような地雷の爆風を逸らす装甲を股の間に付けようという感じでADUADSを創作しました。実際に実現可能なのかにジェミニ先生に聞いたところ、発砲すると反動で腕がもげるか、機体が後方にひっくり返ると返答が来ました(笑)。ただジェミニ先生は優しいので解決策として、腕に反動リコイルをつけるとか、脚にアウトリガーを付けるとか、アドバイスをくれました。他にも色々が問題がありましたが、アイデアを出して解決し何とか完成させるできました。最後にジェミニ先生にどうですかと聞いたところ、実現不可能ではないですが、ロマン兵器でコストパフォーマンス(製造費、整備等)を考えると戦車や装甲車の方がいいとのことでした。
ADUADSプロジェクト完。
でも良かったのですが、楽しかったので改修を進めました。反動対策として、レーザー等の実弾以外の兵器やイタリアで開発された個人携帯用の対ドローンショットガンの搭載や、ミルスペック(軍用規格品)から民生品への移行を行いコスト削減に挑み、遂にADUADSが完成しました。
ADUADSに対して違和感を感じる方もいらっしゃると思いますが、こういった経緯でADUADSは創作され、皆様の前に御見えさせていただきました。ど素人が創作した機体なので、ツッコミどころ満載だと思いますが妄想として、皆様の暇つぶしになれば幸いです。
ちなみにMk-Ⅱはツバメインダストリアルさんのアーカッスクスがモデルです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。長文で駄文で失礼しました。




