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第46話:浅草再び、朱塗りの門と電子の羽虫

【第46話:浅草、朱塗りの門と電子の羽虫】

羽田空港、航空管理局内の空対課・対策室。

巨大なモニターに映し出された浅草寺・雷門の映像を前に、外務係長が電話口で必死に頭を下げていた。


「ええ、文化庁の皆様のご懸念は重々承知しております! もちろん、歴史的建造物への被害はゼロに抑えると……はい、はい、ですから強制排除の許可を……」

電話を切った外務が、疲労困憊の顔で羽代課長を振り返る。

「課長、文化庁と警視庁から条件付きで出動許可が出ました。『雷門の大提灯および周辺の文化財に傷一つつけないこと』、そして『絶対非殺傷』です」

「想定内ね。観光客の避難は所轄が誘導中よ。外務係長、引き続き各所への根回しとクレーム対応をお願い。……こちら本部、現場チーム、状況は?」


羽代の声が、浅草へと急行する大型キャリアーと自動車の車内へ飛ぶ。


浅草・雷門前通り


「こちら現場の雲井。現在、雷門周辺は局地的なビル風と、人混みによる熱気で複雑な上昇気流が発生しています。目標は違法な『群律スウォーム飛行』を行うマイクロドローンの群れ。数は約50機、観光客の頭上で違法カジノの立体ホログラム広告を強制投影しています」

自動車の助手席でタブレットを操る雲井瑞希が、冷静に状況を本部に報告する。


大型キャリアーの運転席では、金剛鉄平が巧みなハンドル捌きで観光バスの群れをすり抜け、キャリアーを雷門の正面に停車させた。

「法定速度と安全第一で到着だ。休日の浅草雷門前に3.8メートルの重機を降ろすなんて、労働環境も交通整理も最悪だぜ」

「金剛さん、愚痴る前にハザードランプ!……刑部さん、いいですか」

後部座席に陣取った財前鏡子が、タブレットを操作しながら鋭い声を上げた。

「雷門の大提灯、および風神雷神像に少しでも接触した場合、文化財保護法違反による罰則と、計り知れない損害賠償が空対課の予算にのしかかります。弾薬費の節約以前の問題です。絶対に、絶対に、傷をつけないでください!」


「……了解した。刑部、Mk-II、出る」


キャリアーのコンテナが開き、ADUADS Mk-IIがアスファルトに降り立つ。

周囲に逃げ遅れた観光客のどよめきが広がる中、Mk-IIは四本の脚部を慎重に駆動させ、雷門の正面へと立ちはだかった。


「本部よりMk-IIへ。目標のマイクロドローン群は、提灯の真下を旋回中よ。ショットガンは当然使用不可。どうする、刑部君?」

ヘッドセットから羽代課長の声が響く。


「右アーム、レーザー・ダズラーでセンサーを焼きます」

刑部が操縦桿を倒し、Mk-IIの右腕から高出力の攪乱光を照射する。しかし、光の網を抜けた十数機のドローンが、システムを暴走させ、あろうことか雷門の大提灯へ向かって突進を始めた。


「あっ! 提灯にぶつかる!」

車内でモニターを見ていた雲井が叫ぶ。


「財前、賠償金の計算はしなくていいぞ……!」

刑部はMk-IIのホイールを全開で回転させ、提灯の真下へと機体を滑り込ませた。

「左補助腕、ゲージ・シールド展開!」


Mk-IIが身を挺し、提灯を守るように巨大なシールドを頭上に掲げる。

パチン、パチンと、シールドの表面で小さなドローンたちが次々と弾け飛んでいく。

さらに刑部は、右補助腕のシングル・ローター・ブレードを低速で起動。刃を回転させる風圧そのものを利用して、提灯に近づこうとする残りのドローンを空中で巻き込み、アスファルトへと叩き落とした。


「……全機、沈黙。提灯および建造物に損傷なし」

刑部が静かに報告すると、周囲の観光客からわぁっと歓声が上がった。


数時間後・空対課 対策室


「皆様、お疲れ様でした。見事な連携だったわ」

羽代課長がコーヒーを片手に、帰還した現場チームをねぎらう。


しかし、刑部たちの表情は晴れなかった。

「刑部さん、これ」

財前が、いつものように電子書類の山を刑部の端末に転送する。

「文化財は無事でしたけど、Mk-IIが急ブレーキをかけた際、仲見世通り前の石畳にタイヤの摩擦痕がつきました。台東区からの『景観回復工事』の請求書と、始末書です。それから……」


隣で外務係長が、胃薬を水で流し込みながら口を開いた。

「ホログラム広告を無効化する際に出たレーザーの光が、近くを飛んでいた報道ヘリのカメラに干渉したそうで……テレビ局から抗議が来ています。これから私が謝罪の電話を入れますが、報告書の作成を手伝ってください」


「……金剛さん、明日の非番、まだ有効ですか」

刑部が遠い目をしながら呟く。


「悪いな刑部。キャリアーのサスペンションがイカれちまった。明日は休日出勤で整備の手伝いをお願いするぜ。もちろん、代休は後できっちり取らせてやるがな」

金剛が笑いながら肩を叩く。


「……了解しましした。」

刑部は格納庫のMk-IIではなく、目の前の書類の山に向かって、深くため息をついた。


【第46話:浅草再び、朱塗りの門と電子の羽虫 完】

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