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第40話:鋼鉄の双璧

第40話『鋼鉄の双璧オリジナルとアップデート

神奈川県・横須賀。 海上自衛隊と米海軍の艦船が停泊するこの軍港都市に、張り詰めた空気が漂っていた。 「ゴースト・パピヨンによる大規模なドローンスウォーム攻撃の兆候あり」――羽田空港へのゴースト・パピヨンによるドローン攻撃を迎撃阻止した際に、ドローンの残骸から回収したデータから解析した結果、神奈川県・横須賀の海上自衛隊と米海軍の基地に対する大規模なドローンスウォーム攻撃の予行演習デモンストレーションであった事が判明した為、防衛省は基地警備隊の警戒レベルを最大に引き上げた。

そして、民間エリアへの被害を防ぐべく、国土交通省「空対課」の面々も特命を受けて横須賀に展開していた。

『皆さんの配置は完了しましたか? 今回は防衛省との共同作戦です。くれぐれも粗相のないように』 羽田空港のプレハブ庁舎でお留守番中の羽代課長の声が、衛星通信越しに涼やかに響く。 その横からは、『自衛隊の施設を傷つけたら、私が防衛省で土下座するぐらいでは済まなくなるます! 頼むみますよ!』と、外務係長の悲鳴が聞こえた。

「分かってますよ、外務係長。金剛さん、キャリアーのハッチを開けてくれ」 刑部風人がコクピットで操縦桿を握り直す。 「おう、任せな! だが刑部、自衛隊の『本家』の前でビビるなよ!」 金剛鉄平がレバーを引き、キャリアーの後部が開く。

刑部が視線を向けた先、基地のゲート前に鎮座する巨大な鉄の塊があった。 それこそが、防衛省・航空自衛隊が運用する対小型無人機都市防空装置――初代『ADUADS』。 空対課が運用するMk-IIのベースとなった機体であり、総重量8.8トン、MRAP型のV字底面装甲に覆われた無骨極まりないシルエットは、まさに「歩く要塞」だ。

「あれが……オリジナル」 気象庁出向の雲井瑞希がモニター越しに息を呑む。洗練されたMk-IIに比べ、初代機はまるで重機のパーツを継ぎ接ぎしたような荒々しい威圧感(鎧武者のような武骨さ)を放っていた。

『緊急警報。東京湾上空、高度500より目標接近。――数は、100機以上!』 財前鏡子の鋭い報告が車内に響く。

「パピヨンの野郎、本当にスウォーム(群れ)をけしかけてきやがったな……!」 刑部が歯打ちした瞬間、先陣を切ったのは自衛隊の初代ADUADSだった。

『こちら基地警備隊アルファ。FCS、モードBフルオートへ移行する』

自衛隊パイロットの宣言と共に、初代機が動き出す。 左メインアームの大型レーダーシステムが敵の群れを瞬時にスキャン。AIが脅威度を判定し、右メインアームの「M618・20mm機関砲」が天を仰いだ。 ズドドドドドドドォォォッ!! 腹の底を揺らすような重低音と共に、空がオレンジ色の曳光弾で埋め尽くされる。ミリ秒単位でAIが射線を補正し、飛来する自爆ドローンを次々と空中で粉砕していく。

だが、パピヨンのスウォームは単調ではなかった。数機が機関砲の射角をかいくぐり、初代機の背後へ回り込む。

「後ろだ!」 刑部が叫ぶが、初代機は振り返らない。 パイロットが正面の敵に集中する中、AI自動防御システム(ACD)が発動した。 左背部の補助腕に装備されたゲージ・シールドが、自動で衝突予想地点へ先回りする。 ガァァン!! 激突の瞬間、シールドがわずかにスイングし、爆発の衝撃を外側へと見事に受け流した。初代パイロットのHMDには、AIが防御する範囲が「青い半透明のドーム」としてAR表示されているはずだ。 さらに、盾で防ぎきれなかった残敵を、右背部補助腕の「ローター・バスター」が自動で叩き斬る。

「……すげえ。移動は人間、武装と防御はAIが全自動で制御する。あれが完全な軍用システムか」 刑部が舌を巻く。

だが、空対課の出番は突然やってきた。

「瑞希、風向きが変わったか!?」 『ええ! 敵のスウォームの一部が、海風に流されて基地のフェンスを越えたわ! このままじゃ市街地に落ちる!』

『こちらアルファ。目標が市街地上空へ逸れた。20mm機関砲では民間施設に弾着する危険がある。迎撃不能!』 自衛隊の通信に焦りが混じる。

『刑部さん、出番です』 羽代課長の静かな号令が下った。

「了解だ! 財前、Mk-IIのシステムチェック急げ!」 「終わってます! さっさと行ってください!」 「行くぞ瑞希! オリジナルに負けてられねえ!」

パトランプを回転させ、白とネイビーブルーのADUADS Mk-IIが市街地へと向かってホイール走行で急発進する。

「AIのフルオートにはできねえ、俺たちの『マニュアル』の意地を見せてやる!」 市街地に降り注ぐ自爆ドローンに対し、刑部は右メインアームのレーザー・ダズラーを広範囲に照射。センサーを焼かれたドローンの動きが鈍る。 『右の路地から3機接近!』 「もらった!」 すれ違いざま、右補助腕のシングル・ローター・ブレードを展開。洗練された機動性で機体をスピンさせながら、3機を鮮やかに一刀両断する。

残る敵が、民間人のいるスーパーマーケットの屋上へ向けて急降下を開始した。 『距離20! 刑部、間に合わない!』 瑞希の声が裏返る。

「いや、届く! 財前、散弾砲の使用許可は!」 「自衛隊との事前合意済み(ウェポンズ・フリー)です! 撃てます!」 左メインアームの特殊散弾砲を構え、刑部がトリガーを引く。 放たれた特殊ネットが、墜落寸前の自爆ドローンを空中で絡め取り、屋上の手すりギリギリで強引に捕獲した。

……パラパラと、ネットに包まれたドローンの残骸がアスファルトに転がる。 上空に飛来した100機以上のスウォームは、自衛隊の弾幕と空対課の連携によって、完全に沈黙した。

「……対象の全機沈黙を確認。ミッション・コンプリートだ」

『お疲れ様でした、皆さん。自衛隊の広域防空と、空対課の局地制圧。素晴らしい連携でしたね』 羽代課長の労いの言葉に、刑部は汗を拭いながら安堵の息を吐いた。

「いやぁ、でもあの自衛隊の『オリジナル』の火力は凄まじかったな。うちのMk-IIにもあの20mm機関砲、積めないのか?」 刑部が冗談めかして言うと、通信機越しに財前が冷たく言い放った。

「20mm機関砲の弾薬費、1発いくらか知ってますか? うちの予算じゃ3秒撃っただけで課が破産しますよ」 『それに、あれを撃ったら俺が何枚始末書を書くと思ってるんだぁぁっ!』 羽田の外務係長の悲鳴が、再び横須賀の空にこだました。



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