表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/54

第37話:湾岸フル・バースト

第37話:湾岸フル・バースト

1. 撃ってよし、壊してよし

「……えっ。本当に撃っていいんですか?」

羽田の詰め所で、刑部風人が思わず聞き返した。

ここ数回の出動が「皇居」や「明治神宮」といった、絶対に傷をつけてはいけない超デリケートな現場ばかりだったため、彼の感覚はすっかり「忍び足モード」に慣れきっていた。

「ええ、存分にやりなさい」

羽代課長が、モニターに東京湾の海図を映し出しながらニヤリと笑った。

「現在、東京湾の沖合に建設中の『メガフロート式・洋上風力発電プラント』に、所属不明の重装甲ドローン5機が接近中。プラントの建設を妨害する、過激な環境テロリストか産業スパイの可能性が高いわ」

「現場は海の上。周囲5キロ以内に民間人はゼロ、歴史的建造物もゼロよ!」

財前鏡子が、珍しくノリノリでキーボードを叩く。

「総工費数千億円の国家プロジェクトを守るためよ。今回ばかりは、Mk-IIの火器管制システムのリミッターを完全解除フル・オープンします。弾薬費の稟議りんぎはすでに通してあるわ!」

「おおっ! 久しぶりに相棒の『本来の力』が出せるってわけか!」

刑部が歓喜の声を上げる。

「文化庁や宮内庁の偉いさんに頭を下げなくていい現場……最高です!」

外務係長までもが、感動のあまり涙ぐんでいた。

「よし野郎ども! 久しぶりのドンパチだ、キャリアー出すぜ!」

金剛の怒声とともに、空対課のメンバーは弾かれたように出動した。

2. 海風と重装甲

東京湾、海ほたるパーキングエリアのさらに沖合。

海上にそびえ立つ巨大な風力発電のタービンのメンテナンス・デッキに、クレーン船によってADUADS Mk-IIが降ろされた。

「潮風が気持ちいいぜ……! 瑞希、状況は!」

刑部が操縦桿を握り込む。機体のシステムはすべてグリーン、武器のセーフティは解除されている。

「目標、高度50メートルから接近中! ……気をつけて、刑部さん。相手は民生用の改造じゃないわ。分厚いカーボンケブラー装甲を纏った、軍用崩れの『強襲型』よ。普通のネットランチャーじゃ弾き返されるわ!」

瑞希が、海風のデータと敵の熱源反応を重ね合わせながら警告する。

「上等だ。重い鎧を着てるなら、まずは『目』を焼いてやる!」

ブォォォン! という重低音とともに、5機の無骨な重装甲ドローンがプラントに向けて急降下してきた。その下部には、プラントの施設を破壊するための小型爆弾が抱えられている。

3. 閃光レーザー・ダズラー

「敵機、光学センサーと赤外線レーダーによる複合ロックオンの兆候!」

財前の声が響く。

「させるか! 右アーム、レーザー・ダズラー、最大出力マキシマム!!」

刑部がトリガーを引いた瞬間、Mk-IIの右腕にマウントされた照射装置から、空気を焦がすような高出力の指向性エネルギー光――「レーザー・ダズラー」が放たれた。

――ピカァァァァッ!!!

真昼の海上にあってなお、直視できないほどの強烈な閃光がドーム状に広がり、先頭を飛んでいた3機の重装甲ドローンの「顔」を直撃した。

パチパチッ! と敵機のカメラレンズが焼け焦げ、内部の光学センサーが完全に焼き切れる音が響く。

「視覚」を奪われたドローンたちは、パニックを起こしたように空中でバランスを崩し、互いに衝突しそうになって陣形を崩した。

「よし! 敵のフォーメーション崩壊! 刑部さん、今よ!」

瑞希が叫ぶ。

「相棒、ごちそうの時間だ!」

4. 散弾ショットガン、乱れ撃ち

刑部はMk-IIの左アームに懸架された主武装――対ドローン用特殊散弾銃ショットガンのグリップをがっちりと握り込んだ。

「一機目!」

空中でふらつくドローンに狙いを定め、引き金を引く。

――ズドンッ!!!

12ゲージの特殊マグナム弾から放たれた無数のタングステン球が、海風を切り裂き、ドローンの分厚いカーボン装甲を粉々に粉砕した。爆発物を抱えたまま、一機目が海面へと真っ逆さまに墜落していく。

「二機目、三機目!」

刑部は機体をターンさせながら、ポンプアクションで次弾を装填。連射だ。

――ガシャッ、ズドン!! ガシャッ、ズドン!!!

腹に響くような発砲音が海上に轟く。

どれほど分厚い装甲を持っていようと、Mk-IIの至近距離からの散弾を浴びればひとたまりもない。空中で火花が散り、バラバラになったドローンの残骸が、次々と東京湾の波間に吸い込まれていく。

「残り二機! 爆弾を捨てて逃走姿勢に入りました!」

「逃がすかよ!」

刑部はMk-IIの四脚をデッキに踏ん張り、上空へ向けて銃口を跳ね上げた。

「瑞希、風の修正を!」

「北北東の風、風速8メートル! ターゲットの左下、1.5メートルを狙って!」

了解コピー!!」

刑部は一切の躊躇なく、残りの全弾を空へ向けて撃ち尽くした。

――ズドドドドンッ!!!

計算し尽くされた散弾の「壁」が、逃げる二機の進路を完全に塞いだ。ローターを蜂の巣にされたドローンたちは、断末魔のような駆動音を上げて海へと散っていった。

「……全機、撃墜確認。プラントへの被害ゼロ」

刑部が、銃口から立ち昇る硝煙しょうえんを吹き飛ばすように、フゥッと長く息を吐いた。

5. 結び:硝煙と経費の匂い

「ヒューッ! 最高にスカッとしたぜ!」

金剛が無線越しに快哉かいさいを叫ぶ。

「本当に……玉砂利や御神木を気にせず、思う存分トリガーを引けるって、素晴らしいですね!」

刑部も、Mk-IIのコクピットの中で伸びをした。久しぶりに「本来の制圧任務」を完遂した相棒も、どこか誇らしげに排熱ファンを回している。

しかし、詰め所のモニター越しに、財前鏡子が冷ややかな声を出した。

「……刑部さん、随分と楽しそうね」

「そりゃあな! お前が『存分にやれ』って言ったんだろ?」

「ええ。プラントは無事に守られたわ。でもね……」

財前が手元の電卓をカタカタと弾く。

「ショットガンの特殊マグナム弾、計6発消費。一発あたりの単価が3万円だから、18万円。さらに、ダズラーを最大出力で照射したせいで、集光レンズにクラック(ひび)が入ったわ。特注レンズの交換費用が20万円。……しめて、本日の弾薬・消耗品費、38万円よ」

「げっ……」

「まあ、プラントの被害額に比べれば安いものだけど。……明日から一週間、あなたのデスクワークのノルマは3割増しよ。経費を使った分は、きっちり労働で返してもらうからね」

「……鬼!」

刑部が悲鳴を上げる中、瑞希と外務係長の笑い声が通信機から漏れ聞こえた。

東京湾の海風に吹かれながら、Mk-IIは空になったショットガンを静かに背中にマウントした。

大立ち回りの後の「経費の計算」もまた、空対課の立派な日常おやくそくなのである。

【第37話:湾岸フル・バースト 完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ