表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

第3話:カラスの縄張り


第03話:カラスの縄張り

「……いいですか、皆さん。今回の任務は『生態系との共生』です」

羽田の詰め所、羽代課長が苦虫を噛み潰したような顔でモニターを指差した。映し出されているのは、上野公園周辺でデリバリー・ドローンがカラスの集団に襲撃され、墜落するショッキングな映像だ。

「最近のカラスは賢い。ドローンのプロペラを狙わず、吊り下げた『荷物』の紐を外して奪う技術まで習得しているわ。おかげで航空管理局には、配送業者と、中身を食べられたピザ屋の両方から苦情の電話が鳴り止まないのよ」

「……課長。俺たちはテロや密輸を阻止する『対空課』ですよ? カラスの追い払いは、公園管理事務所の仕事では?」

刑部が呆れたように言った。

「それがね、外務係長が『ドローン航路の安全確保は国交省の専管事項である』なんて余計な正論を各所に振り撒いちゃったものだから、正式に予算がついちゃったのよ。作戦名、『上野バード・ストライク抑止作戦』。出動よ」

上野恩賜公園・不忍池付近

「……北北東の風、3メートル。鳥たちの飛行に最適な上昇気流が発生中。絶好のカラス日和ね」

雲井瑞希が、双眼鏡を覗きながら冷めた声で報告する。

「刑部さん、12時方向にターゲット。……あ、またカステラが奪われたわ」

「了解。……Mk-II、前進」

都心の憩いの場に、不釣り合いな重機が姿を現した。ADUADS Mk-II。

「金剛さん、見物人が多い。規制線をもっと広げてくれ」

「わかってるよ! 『労働安全衛生法に基づき、重機作業中は立ち入り禁止だ!』……って、これじゃただの工事現場じゃねえか!」

金剛が、メガホン片手に観光客を誘導する。

「ターゲット捕捉。右アーム、レーザー・ダズラー、出力5%の『威嚇モード』展開」

刑部がレバーを操作し、Mk-IIの右腕から弱い緑色の光を放つ。本来は敵センサーを焼く兵器だが、今はカラスを驚かせるための「高級な懐中電灯」だ。

だが、上野のカラスは一筋縄ではいかなかった。

レーザーが放たれた瞬間、カラスたちは統制された動きで分散。逆にMk-IIの死角に回り込み、機体のセンサーユニットを嘴で突っつき始めた。

「こら! つつくな! 財前、そっちのモニターはどうだ!?」

「ダメね、映像にノイズ。カラスが光学レンズに『生ゴミ』を塗りつけたみたい。……ちょっと刑部さん、機体清掃費はあなたの給料から引いておくわよ!」

「俺のせいかよ!」

思わぬ「落とし物」

追いかけっこの末、一羽の特に巨大なカラスが、Mk-IIの補助腕から「センサーの保護キャップ」を奪って逃走した。

「待て! それは備品だ! 紛失したら始末書が何枚になるか……!」

刑部は血相を変えてMk-IIを走らせた。四脚のホイールが不忍池の泥を跳ね上げる。

カラスは古い公衆トイレの屋根を飛び越え、立ち入り禁止区域にある「廃棄された古い配電盤の裏」に逃げ込んだ。Mk-IIがその場所をこじ開け、補助腕でカラスの「巣」を覗き込む。

「……あった。キャップ確保。……ん?」

モニター越しに、財前が目を見開いた。

「刑部さん、その横。カラスが巣の材料にしている『光るもの』……それ、何?」

Mk-IIの左補助腕が、巣の中から泥だらけの「束」を掴み出した。

それは、ビニール袋に厳重に包まれた大量の**「偽造マイナンバーカード」と、十数枚の「他人名義の銀行キャッシュカード」**だった。

「……これって、最近多発している特殊詐欺グループの『受け渡し用デッドドロップ(秘密の置き場)』じゃない?」

元国税調査官の財前が、瞬時に正体を見抜く。

「カラスは光るものが好きだからな。詐欺師が隠した『宝の山』を、せっせと自分の巣に運んでいたのか……」

刑部が操縦席で天を仰いだ。

結び:手柄とトホホ

「……というわけで、空対課の偶然の発見により、都内を拠点とする特殊詐欺グループの重要拠点が摘発されました」

夕暮れの詰め所。テレビニュースでは、警視庁が「カラスの巣」から証拠を押収する様子が華々しく報じられている。

「お手柄ね、刑部君。警視庁総監から感謝状が出るそうよ」

羽代課長が、珍しく上機嫌で報告する。

「感謝状はいいですが、課長。この……『対鳥獣用特殊作戦による機体損傷報告書』と、『カラスに奪われた備品の再購入申請書』、それから『公園内の泥跳ねによる清掃苦情への回答書』。これ、誰が書くんですか?」

刑部が指差した先には、外務係長が持ってきた新たな書類の山があった。

「それはもちろん、現場責任者の刑部君と、観測担当の雲井さん。……あ、財前さんも、偽造カードの照合で忙しくなるわね。頑張って!」

「……やっぱりこうなるのね」

雲井がため息をつきながら、気象データを閉じてテキストエディタを開く。

「刑部さん。次のMk-IIのアップデートには、カラスよけの『案山子かかし機能』を付けてもらうよう財務省に交渉してあげるわ。……その代わり、今日の残業代の申請、手伝ってよね」

「……了解」

新宿の空には、勝利を確信したようなカラスの鳴き声が、どこまでも虚しく響いていた。

【第3話:カラスの縄張り 完】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ