第24話:予算凍結!空対課、最長の一日
第24話:予算凍結! 空対課、最長の一日
1. 霞が関の「仕分け人」
「……不適切です。この『潤滑油・特級』の購入頻度、および現場での『不必要な急制動』によるタイヤの摩耗。これらすべて、国民の血税であることを忘れないでいただきたい」
霞が関、国土交通省本省の一室。空対課の面々は、かつてない強敵を前に凍りついていた。相手は財務省から送り込まれた主査――財前鏡子の元同僚でもある、冷徹な監査官だ。
「ちょっと待ってください。現場の摩耗は、都民の安全を守った結果です!」
外務係長が珍しく声を荒らげるが、監査官は眉一つ動かさない。
「結果はどうあれ、予算は有限です。本日をもって、ADUADS Mk-IIの運用を一時凍結。機体は資産検品のため、バッテリーを抜き、武装を解除していただきます」
「……なんですって!?」
刑部が立ち上がるが、羽代課長がそれを手で制した。
「……分かりました。検品、どうぞご自由に」
ハンガーでは、Mk-IIの左アーム(ショットガン)と左補助腕が取り外され、バッテリー残量はわずか15%の「保存モード」に設定された。
2. 霞が関強襲
その時だった。本省の警備局から緊急入電が入る。
「霞が関上空に未確認機多数! 物流ドローンを装った小型機が、内閣府および国交省本省のデータセンターを狙って降下中! 通信妨害が発生しており、警察のドローン隊が機能していません!」
「……皮肉なものね。予算を切ろうとした瞬間に、これだわ」
羽代課長が監査官を鋭く睨みつける。
「監査官。今、このビルが狙われている。……空対課に『緊急出動命令』を出しなさい。責任はすべて、国交省の私が持ちます」
「しかし、武装は外され、検査の途中で……」
「財前! バッテリー15%で何分動ける!?」
刑部の問いに、財前は電卓を叩くような速さで端末を操作した。
「全力駆動で4分。ホイール走行に限定し、補助アームを予備電源に回せば……7分! 7分で終わらせなさい、刑部さん!」
3. 「裸」のMk-II、出撃
「金剛さん、キャリアーは不要だ! このまま本省のロビーから飛び出す!」
「了解! 厚労省の安全基準は完全に無視させてもらうぜ!」
武装を剥がされ、骨組みの一部が剥き出しになったMk-IIが、国交省本省の正面玄関から飛び出した。目標は、中央合同庁舎の窓から内部に侵入しようとする三機の隠密ドローン。
「ショットガンもシールドもない……だが、俺にはこいつの『脚』がある!」
刑部はホイールを高速回転させ、庁舎外壁のわずかな段差に爪を立てた。バッテリー消費を抑えるため、重力制御を最小限にし、純粋な「筋力」だけで壁面を垂直に駆け上がる。
「瑞希、敵のジャミングを逆探知しろ!」
「やってるわ! 本省のWi-Fi網を乗っ取ろうとしてる。……刑部さん、あと5秒で奴らがサーバー室に到達する!」
「させるかよ!!」
刑部はMk-IIの右アーム(ダズラー)を展開。しかし、電力不足でレーザーは撃てない。
「……なら、物理的に叩き落とすまでだ!」
刑部は機体を反転させ、壁面を蹴った。空中で機体をひねり、剥き出しの脚部でスパイ機を一機、また一機とコンクリートの壁に叩きつける。
「……残り電力、3%! 刑部さん、戻って!!」
財前の悲鳴のような通信。
最後の一機が逃げようとした瞬間、刑部はMk-IIの右補助腕を未展開のまま、重りのようにして敵機へ投げつけた。
――ガシャリッ。
正確にプロペラを粉砕された敵機が、霞が関のアスファルトに落下した。
4. 結び:計算外の「投資」
静まり返る霞が関。
バッテリーを使い果たし、国交省の玄関先で膝をついたMk-IIの姿があった。
「……主査、これでもまだ『不適切』ですか?」
財前が、呆然と立ち尽くす財務省の監査官に歩み寄る。
「今回のスパイ行為を阻止できなかった場合の推定損失額は、空対課の今後10年分の予算を軽く超えます。……これは『経費』ではなく、国家安全保障への『投資』ではありませんか?」
監査官は、泥だらけになったMk-IIと、コクピットから降りてきた満身創痍の刑部を交互に見た。
「……チッ。財前、君の論理武装は相変わらず嫌味だ」
彼は手帳を閉じ、羽代課長に向き直った。
「……今回の件、特例として『緊急修理費』および『武装強化予算』の増額を検討します。……ただし、始末書は三倍の量で提出してください」
「……喜んで」
外務係長が、泣きそうな顔でガッツポーズを作った。
「やったな、相棒」
刑部がMk-IIの装甲をポンと叩くと、機体は返事をするかのように、残された微かな電力で一度だけパトランプを点滅させた。
空対課、存続決定。
だが、その夜の詰め所には、いつも以上に分厚い「予算執行報告書」が積み上がっていた。
【第24話:予算凍結! 空対課、最長の一日 完】




