表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

第25話:ベイフロント・ホリデー

第25話:ベイフロント・ホリデー

1. 潮風と束の間の休息

抜けるような青空が広がる、休日の東京湾岸エリア・お台場。

レインボーブリッジを望むデッキは、観光客や家族連れで溢れ返っていた。

「……たまにはこういうのも悪くないわね」

羽代課長が、潮風に目を細めながらキッチンカーのホットドッグを頬張る。

今日は「空域安全啓発イベント」の一環として、ADUADS Mk-IIの展示走行が行われていた。実戦ではない、いわゆる広報活動である。

「課長、呑気なこと言わないでください。展示用のワックス代、どこの名目で落とすかまだ決まってないんですから」

財前鏡子が、日傘を差しながらタブレットで家計簿のような計算を続けている。

その横では、雲井瑞希が「絶好の凧揚げ……じゃなくて、ドローン日和ですね!」と、海風のデータを取って楽しそうに笑っていた。

刑部はMk-IIのコクピットのハッチを開け、地上4メートルからお台場の景色を眺めていた。

「なあ、相棒。たまにはパトランプを光らせない一日もいいもんだな」

だが、その平穏は、一本のけたたましい警告音によって破られた。

2. ゆりかもめ、緊急停止

「空対課! 遊びは終わりよ!」

羽代課長の無線が、広報モードから一瞬で指揮官のそれに切り替わった。

「臨海副都心線――『ゆりかもめ』のガイドウェイ(軌道)上に、正体不明の大型物体が侵入。自動走行中の車両が緊急停車したわ!」

「テロですか!?」

外務係長が、慌てて手に持っていたソフトクリームを口の中へ放り込む。

「違うわ。……あれを見て」

財前が指差した先。無人走行のモノレール「ゆりかもめ」の高架線上に、巨大な「ピンクのクジラ」が引っかかっていた。

「……アド・バルーン?」

刑部が目を凝らす。それは、近隣の商業施設が打ち上げた広告用の「自律飛行式バルーン・ドローン」だった。ワイヤーが切れ、あろうことか、ゆりかもめの給電レールとガイドウェイの間に強風で押し込まれてしまったのだ。

「まずいわ、あのバルーン、ヘリウムだけじゃなくて、演出用の高圧ガスボンベを積んでる。無理に車両を動かして接触すれば、爆発して高架線が崩落するわよ!」

瑞希の解析結果に、現場に緊張が走る。

3. 高架上の全力疾走

「刑部、Mk-II、現時刻をもって広報任務を終了。実戦任務に移行する!」

「了解! 金剛さん、キャリアーを!」

「おう、お台場の真ん中で道路交通法違反はしたくねえが……緊急事態だ、ぶっ飛ばすぜ!」

金剛がキャリアーをゆりかもめの高架下へ滑り込ませる。

Mk-IIは、ハッチが開くのと同時に跳躍。四本の脚部を広げ、モノレールのコンクリート製のガイドウェイを跨ぐようにして着地した。

「刑部さん、気をつけて! 足場はわずか数十センチのガイドウェイふちよ。一歩間違えれば、下の国道へ真っ逆さまなんだから!」

「財前、保険の心配は後にしてくれ! ――行くぞ、相棒!」

Mk-IIは四輪を全開で駆動させ、モノレールの軌道上を疾走した。

時30キロ。眼下には海と、驚いて見上げる観光客。前方の停止した車両の中には、不安そうに外を覗く子供たちの姿が見える。

4. シールドの新しい使い方

「ターゲット捕捉。……瑞希、ガスボンベの位置は!?」

「クジラの尾びれ付近! でも風が強くてバルーンが暴れてる。下手に触ればワイヤーが軌道に絡まって、完全に復旧不能になるわ!」

「……撃ち落とすわけにはいかない。なら……」

刑部はMk-IIをバルーンの直前で急停車させた。

「左補助腕、ゲージ・シールド展開!」

Mk-IIは、本来は銃弾を防ぐためのシールドを、まるで「巨大な団扇うちわ」のように使って、バルーンを軌道の外へ押し出そうとする。

「外務係長! 周辺の空域制限、今すぐ解除を! バルーンを海側へ追い出します!」

「了解! 港湾局と警視庁に、今すぐ『緊急の風通しが必要だ』とねじ込みます!」

外務の外交交渉(?)が功を奏し、周辺のドローンが一斉に退避する。

刑部はMk-IIの脚部を軌道に固定し、出力を最大に上げた。

「押し切るぞ……!」

シールドでバルーンを海風の乗る高度まで押し上げると、瑞希が操作する観測ドローンが、バルーンの制御ユニットを上空からハッキング。

「今よ、刑部さん!」

「吹っ飛べ!!」

Mk-IIの力強い一押しで、ピンクのクジラは軌道を離れ、お台場の空へと高く舞い上がった。

5. 結び:日常のプライスレス

夕暮れ。運行を再開したゆりかもめが、夕日を反射しながら橋を渡っていく。

Mk-IIは再びキャリアーに収容され、メンバーたちは撤収作業に追われていた。

「……はい、刑部さん。これ、ゆりかもめの運行停止に伴う振替輸送費の請求見込みと、イベント資材損壊の報告書。全部で十二通ね」

財前が、容赦なくタブレットを突きつける。

「……さっきの子供たちが手を振ってくれただけで、十分お釣りが来ると思うんだけどな」

刑部が苦笑いしながら報告書を受け取る。

「刑部さんの言う通りですよ。見てください、あの夕焼け。……明日は、もっといい天気になりますよ」

瑞希が、空を見上げて微笑む。

「……でもね、刑部君」

外務係長が、どこか遠い目をして呟いた。

「さっきの広告主の会社、実は国交省の大口スポンサー関連だったみたいで……。明日、本省に一緒に行って、頭を下げてくれないかな?」

「……勘弁してくださいよ、係長」

お台場の夜景が灯り始める。

事件は解決しても、公務員の夜は、そして明日の書類は、決して終わることはないのだった。

【第25話:ベイフロント・ホリデー 完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ