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第22話:浅草、雷門の「獅子」

第22話:浅草、雷門の「獅子」

1. 祭囃子まつりばやしと不穏な影

五月の陽光が照りつける台東区、浅草。

三社祭の熱気に包まれた街は、数万人の群衆と「ワッショイ」という地鳴りのような掛け声に揺れていた。今年の目玉は、地元商店街が観光振興のために導入した最新鋭の「獅子舞ドローン」だ。

「……瑞希、あれが例の獅子舞か?」

雷門の近くに待機させたセダンの中で、刑部がモニターを指さした。上空では、真っ赤な獅子頭を模したドローンが、軽快な祭囃子に合わせて空中を舞い、参拝客に愛嬌を振りまいている。

「ええ。自律型の最新機だけど……ちょっと待って。挙動が不自然よ。姿勢制御ログに外部からの強制介入(割り込み)が発生してる!」

瑞希の警告と同時に、空中の「獅子」が豹変した。

赤い獅子頭が奇怪な音を立てて激しく回転し、雷門の提灯を目掛けて猛スピードで突っ込んだのだ。

「ターゲット、暴走! 仲見世通りの人混みへ降下しています! 衝突の危険あり!」

財前の叫びが通信に割って入る。

「空対課、出動! ……ただし刑部さん、いい? 浅草寺の敷地内は国の重要文化財だらけよ。一箇所でも傷をつけたら、始末書どころか本省のトップが切腹するレベルなんだから!」

2. 下町情緒と「お役所仕事」

出動許可クリアランスは!?」

刑部が叫ぶ。金剛が運転するキャリアーは、交通規制と人混みのせいで雷門の前で立ち往生していた。

「外務係長が今、地元の奉賛会ほうさんかいと警視庁、それに寺側と調整中よ! 『祭りの邪魔をするな』って怒号が飛んでるみたいだけど!」

その時、拡声器を手にした外務係長の声が雑踏に響いた。

「皆様、道を開けてください! 国土交通省です! ……ああ、そこの旦那! 殴らないでください、これも公務なんです! 神輿みこしの安全を守るための……!」

「ダメだ、待てない! 金剛さん、ハッチ開放! ここから歩いていく!」

「おう、任せろ! 江戸っ子の怒りは俺が身体を張って止めてやる!」

キャリアーからアスファルトに降り立ったADUADS Mk-II。四脚を器用に畳み、参拝客を驚かせないよう低姿勢ロー・プロファイルで雷門をくぐる。

3. 仲見世通りの綱渡り

仲見世通りの幅はわずか数メートル。道の両脇には江戸時代から続く老舗が軒を連ね、頭上には美しい飾り付けが並ぶ。3.8メートルのMk-IIにとって、そこは「針の穴」を通るような戦場だった。

「刑部、右! 揚げ饅頭の看板をかすめるわよ!」

「わかってる! ……相棒、脚を細めろ。爪を立てるな、敷石を割るなよ……!」

刑部はホイール走行を封印し、四本の脚を精密に動かす「隠密歩行」を選択。前方では、暴走した獅子舞ドローンが店舗の軒先を破壊しながら、逃げ惑う人々を追い回していた。

「課長、ショットガンは……」

「論外よ!!」

羽代課長の即答が飛ぶ。

「散弾一粒でも歴史ある看板に当たってみなさい。空対課は今日で解散、私たちは全員明日から小笠原諸島へ出向よ!」

「……だろうな! 瑞希、追い込むぞ!」

「了解。観測機でドローンの死角を塞ぐわ。財前さん、予測ルートは?」

「三秒後、伝法院でんぼういんの角を左折。あそこが一番道が狭くなる……チャンスはそこだけよ!」

4. 獅子を鎮める「静かなる執行」

Mk-IIは建物の屋根を傷つけぬよう、最小限の跳躍で目標との距離を詰める。

目標の獅子舞ドローンが神輿の列に突っ込もうとした瞬間、刑部はMk-IIの右補助腕――シングル・ローター・ブレードを展開した。だが、斬るのではない。

「ダズラー、照射! センサーを飽和させろ!」

至近距離からの攪乱光でドローンの動きが止まった一瞬。

刑部はMk-IIの左補助腕ゲージ・シールドで獅子舞ドローンを壁際に押し付け、物理的に「押さえ込んだ」。

金属同士が擦れ合う音が響くが、Mk-IIは自らのボディを盾にして、民家への被害を最小限に抑え込んだ。

「……確保。目標、完全沈黙」

5. 結び:祭りの後の「火消し」

夕暮れの浅草。

神輿が宮入りを済ませる頃、空対課のメンバーはヘトヘトになってMk-IIの周囲に集まっていた。

「……刑部さん、これ。奉賛会の会長さんからの『お礼』だって」

瑞希が差し出したのは、人数分の冷えたラムネだった。

「ただし、『次はもっといきな機体で来い』って言われちゃいましたけど」

「粋、か。これでも洗練されたデザインなんだけどな」

刑部が苦笑いしながらラムネを煽る。

そこへ、スーツがシワだらけになった外務係長が、力なく歩み寄ってきた。

「……羽代課長。今、寺側と区役所、それから文化庁への報告が終わりました。……幸い、器物損壊は最小限ということで不問に付されましたが……代わりに、来年の祭りの警備にもMk-IIを貸し出せという条件を呑まされました……」

「あら、いいじゃない。立派な地域貢献よ」

羽代課長は涼しい顔でコーヒーを啜る。

「……あ、それと。財前さん」

「何ですか、係長?」

「さっきの乱闘(?)で私のスーツが破れたんですが、これは経費で落ちますかね?」

「公務中の衣服の損傷は自己負担。……常識でしょ?」

財前の非情な一言に、外務が膝をつく。

浅草の夜空には、何事もなかったかのように美しい月が昇っていた。江戸の風情を守り抜いた「空の番人」たちの日常は、この賑やかな街の片隅で、また明日へと続いていく。

【第22話:下町に舞う「江戸の華」 完】


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