第21話:六本木のパパラッチ・ウォー
第21話:六本木のパパラッチ・ウォー
1. 華やかな街の「見えない影」
六本木ヒルズ、地上54階。きらびやかな夜景を望むレジデンスの周辺に、空対課の面々はいた。
「目標、レジデンスの警備網を突破。高度200メートル、遮蔽モード。機体は最新型の『カメレオン・プロ』……民間軍事会社(PMC)が使うような代物よ」
財前鏡子がモニターを睨む。今回、来日中のハリウッド女優・エレーナのプライベートを狙い、海外のパパラッチ集団が投入したステルス・ドローンだ。
「外務係長、あちらのマネジメント側からは何と?」
羽代課長が尋ねると、外務が真っ青な顔でタブレットを掲げた。
「『一発でもシャッターを切られたら、損害賠償は数十億。もし騒ぎを起こして彼女の静養を妨げたら、国際的なスキャンダルだ』と。……刑部君、頼むから今回は『静かに』終わらせてくれ!」
「『静かに』、か。……金剛さん、この機体重量で忍び足は無理があるぜ」
キャリアーから出撃した刑部は、Mk-IIのホイールを最小限の回転数に抑え、路地裏を移動する。
2. 隠密を炙り出せ
「刑部さん、北西のビルの合間に熱源の揺らぎ! 反射率を極限まで下げてるけど、排熱までは隠せてないわ」
雲井瑞希が、気象観測用ドローンの高感度赤外線カメラで獲物を捉える。
「了解。……右メインアーム、レーザー・ダズラー、出力30パーセント。スキャン開始」
Mk-IIの右腕から、肉眼では見えない低出力の波長が放たれる。ステルス機の特殊外装に干渉し、HUD上に幽霊のような影が浮かび上がった。
「見つけたぞ。……瑞希、ジャミングの準備は?」
「いつでもいけるわ。でも、向こうもプロよ。下手に電波をぶつけると、自爆プログラムで証拠隠滅する可能性がある」
「だから『捕獲』しなきゃいけないのよね」
財前が通信に割り込む。「ちなみに、その機体を無傷で鹵獲できれば、機材の解析でクライアントを特定できる。そうなれば、今回の出動費用を相手の事務所に全額請求できるわ。失敗したら、私たちのボーナスは消えると思って」
「……責任重大だな。相棒、財布の紐まで背負わされるとはな」
刑部はMk-IIの脚部を精密に駆動させ、ビルの非常階段の影に潜り込んだ。
3. 沈黙の制圧
目標のステルス・ドローンが、エレーナの滞在する部屋のベランダへ向けて、超望遠レンズを伸長させた。その瞬間。
「今だ!」
刑部の操作に合わせ、Mk-IIが跳躍。
「右補助腕、ネットランチャー射出!」
音もなく放たれた特殊強化繊維の網が、空中でステルス機を包み込む。同時に刑部は、左補助腕のゲージ・シールドを突き出した。
「ダズラー、最大出力! センサーを焼き切れ!」
至近距離からの強烈な光がドローンの電子眼を無力化する。制御を失った機体が網にかかったまま落下。それを、Mk-IIが空中でがっしりとキャッチした。
周囲には、通行人も気づかないほどの微かな風切り音しか響かなかった。
4. 結び:セレブの微笑と、泥臭い現実
「……こちら刑部。目標、無傷で確保。一発の銃声も鳴らさず、誰の睡眠も妨げなかった。……これでいいんだな、係長?」
「ああ、完璧だ! 刑部君、君は我が国の誇りだよ!」
無線越しに歓喜する外務の声。
数分後、レジデンスの入り口で、エレーナの護衛を務めるPMCの男たちがMk-IIを見上げていた。
「……やるな、日本の公務員。我々のジャマーでも捕らえられなかった連中を、その旧式の機体で仕留めるとは」
「褒め言葉として受け取っておくよ。……ただし、領収書は君たちのクライアントに回させてもらうがな」
刑部がコクピットから軽く手を挙げると、男たちは苦笑いを浮かべた。
翌朝。詰め所。
「刑部さん、お疲れ様です! ネットで見ましたよ。『昨夜、六本木の空に一瞬だけパトランプのような光が見えた』って、都市伝説みたいに騒がれてます」
瑞希が楽しそうにニュースを紹介する。
「まあ、変な騒ぎにならなくて良かったわ。……で、これが今回の『特定個人情報の取り扱いに関する特約』と、相手側弁護士との守秘義務契約書よ」
財前が、いつにも増して厚みのある書類の束をドサリと置いた。
「……六本木のパパラッチより、この書類の山の方がよっぽど手強いな」
刑部は、夜明けの羽田空港を眺めながら、重いペンを握った。
空のプライバシーを守る戦い。その「静かな」勝利の代償は、今日もまた、尽きることのない事務作業だった。
【第21話:六本木のパパラッチ・ウォー 完】




