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第17話:天空の標的

第17話:天空の標的

「……合格よ。今回の関西遠征の経費報告書、一円の誤差もなかったわ。財務省の監査官、最後はあなたのあまりの細かさに顔を引きつらせて帰っていったわよ」

羽田の詰め所。羽代課長が、合格印の押された分厚いファイルをパタンと閉じた。

財前鏡子は眼鏡を指で押し上げ、事も無げに答える。

「当然です。彼らの狙いは『不明瞭な支出』。一点の曇りもなければ、彼らにできるのはため息をつくことだけですから」

ようやく訪れた平和な午後。だが、それを切り裂いたのは、警視庁からの緊急優先通信だった。

「……墨田区、東京スカイツリー。展望デッキ付近に正体不明の『観測ドローン』が張り付き、周辺の電波をジャミング中! さらに、機体には不審な液体容器が懸垂されている……。テロの可能性あり!」

「……スカイツリー!? あんな高い場所、Mk-IIでも届かないわよ!」

瑞希が叫ぶ。だが、刑部はすでにMk-IIのコクピットへと走り出していた。

「……届かせるんだ。金剛さん、キャリアーを出してくれ! 墨田区まで最短ルートで!」

「おう! 監査官がいなくなった途端にこれか。暴れ甲斐があるじゃねえか!」

墨田の壁

スカイツリーの麓、ソラマチの広場にキャリアーが急停車する。見上げれば、雲を突くような巨塔がそびえ立ち、その中ほどに、銀色の小さな光点がへばりついていた。

「……ターゲット、高度450メートル。天望回廊のすぐ外側よ。風速は地上とは比較にならないわ。複雑な乱気流(ビル風)が渦巻いている!」

瑞希がタブレットに映る気象データを刑部へ送る。

「……あの高さじゃ、地上からの狙撃は不可能ね。……刑部君、どうするつもり?」

財前が無線越しに問いかける。

「……登る。スカイツリーの支柱を『四脚』で掴んで、射程圏内まで接近する!」

Mk-IIがキャリアーから飛び降りた。四脚独立サスペンションを最大まで伸長し、スカイツリーのトラス構造の隙間に、強靭なホイールの爪を食い込ませる。

「……アクチュエータ、最大出力。ACDアクティブ・ケージ・ディフェンスを『姿勢制御』に全振りしろ! 瑞希、突風のタイミングを教えろ!」

「……3秒後に北西から18メートル! 今よ、耐えて!!」

Mk-IIの9.2トンの巨体が、垂直に近い角度でスカイツリーの鉄骨を這い上がる。観光客の悲鳴と歓声が下から届く中、刑部は重力に抗いながら、ターゲットを照準器(FCS)に捉えた。

決闘:634メートルの静寂

ターゲットのドローンが、侵入者に気づき、液体容器の切り離し体勢に入る。

「……落とさせない! 右メインアーム、レーザー・ダズラー。出力5kW……集束モード!」

刑部は、垂直に近い姿勢で機体を固定。暴風の中で、右腕を真っ直ぐ天へ突き出した。

本来、センサーを焼くためのレーザーだが、出力を一点に集中させることで、ドローンの「プロペラ基部」だけをピンポイントで加熱・溶断する。

「……当たれッ!!」

緑の閃光が、夕闇に染まり始めた空を一閃した。

寸分狂わぬ照射により、ドローンの四つのプロペラのうち一つが溶け落ちる。揚力を失ったドローンが、液体容器を抱えたまま落下を開始した。

「左補助腕、ゲージ・シールド! モードD:レスキュー・アシスト!!」

刑部は機体を鉄骨から強引に引き剥がし、落下するドローンを空中で「抱きかかえる」ようにしてキャッチ。そのままスカイツリーの展望デッキ(天望デッキ)の縁へと軟着陸した。

結び:天空の始末書

数分後。展望デッキのガラス越しに、唖然とする観光客たちとMk-IIが対面していた。

「……こちら刑部。無力化および回収完了。……液体容器は、ただの着色水ペンキだったようです。テロではなく、過激なパフォーマンス目的の可能性が高い」

『……お疲れ様、刑部君。最高のデモンストレーションになったわね。……でもね』

羽代課長の楽しげな声が聞こえてくる。

『今、スカイツリーの運営会社から電話が入ったわ。「展望デッキの装飾パネルに、Mk-IIの足跡がついた」って。……それから、墨田区の景観保存課からも「鉄骨の塗料が剥がれた」って苦情が』

「……。財前さん、またか?」

無線からは、パチパチとキーボードを叩く乾いた音が響いてきた。

「……ええ。今回の書類は『特別記念物周辺における緊急登攀とうはんに伴う不可抗力的損害報告書』ね。……それと、スカイツリーの『特別入場料』。機体重量3・2トン分、きっちり請求が来てるわよ」

「……3・2トン分の入場料!? 財前、それは……」

「もちろん、あなたの給料……と言いたいところだけど。監査官を追い払った『特別ボーナス』で相殺しておいてあげるわ。……ただし、報告書を朝までに仕上げるのが条件よ」

刑部は、展望デッキから見える東京の絶景を眺めながら、深く座席に沈み込んだ。

「……東京の景色は、高いところから見るより、地上で書類を書いてる方が落ち着くかもしれないな」

夕闇の中、スカイツリーのライトアップが始まった。

それは、空対課の新たな戦いの始まりを告げる灯りだった。

【第17話:天空の標的 完】


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