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第16話:古都の防空


第16話:古都の防空

「……ダメです。景観条例に抵触します。その機体の『空対課』というロゴ、色が鮮やかすぎます。京都の街並みに合わせて、彩度を落とした『いぶし銀』か『濃紺』に塗り直していただけませんか?」

京都府警の会議室。財前鏡子が、目の前の京都市職員と文化庁の役人が差し出した「景観ガイドライン」を前に、珍しく絶句していた。

「塗り直せだと!? これから出動だってのに、プラモデルじゃないんだぞ!」

金剛が声を荒らげるが、職員は動じない。

「そうでなければ、重要文化財周辺への立ち入り許可は出せません。ここは羽田でも道頓堀でもないのです。……分かりますね?」

今回の任務は、東寺の五重塔周辺を徘徊する「不審な観測ドローン」の無力化。犯人の目的は不明だが、国宝に接触すれば国家的な損失となる。

「……分かりました。ロゴは養生テープで隠します。……刑部さん、出動許可は取ったわ。ただし、『歩行速度は時速4キロ以下』、そして『騒音は60デジベル以下』を厳守して」

「……隠密スニークミッションか。Mk-IIでそれをやれっていうのは、象にバレエを踊れと言うようなもんだな」

刑部は苦笑しながら、京都の狭い路地裏で待機するMk-IIのハッチを閉めた。

五重塔、静寂の決闘

夜の東寺。ライトアップされた五重塔の周囲を、不気味な黒いドローンが静かに、しかし確実に距離を詰めながら旋回している。

「……ターゲット確認。プロペラ音を消したサイレント仕様ね。……刑部さん、機体を低姿勢ハイド・ダウンにして。塔の影に紛れながら接近して!」

瑞希のナビゲートも、心なしかささやき声だ。京都特有の盆地風が、五重塔の複雑な組み物の間を通り抜け、奇妙な風鳴りを上げている。

ターゲットが塔の最上層、国宝の避雷針付近へ手を伸ばそうとした瞬間、刑部が動いた。

「……ここからは『静かなる執行』だ。右メインアーム、レーザー・ダズラー。出力30%……照射!」

本来なら夜空を切り裂く緑の光だが、今回は機体のセンサーを焼くためだけに、極限まで絞り込まれた不可視に近い波長で放たれた。ドローンが僅かに体勢を崩す。

「逃がすか! 左補助腕、ゲージ・シールド、展開!」

刑部はMk-IIの四脚を音もなく伸ばし、塔の軒先へと手を伸ばした。ACDアクティブ・ケージ・ディフェンスが、ドローンの墜落予測地点を算出。落下してくるドローンを、シールドで「音を立てずに」受け止める。

「……回収成功。……瑞希、周辺に異状は?」

「……周辺住民からの騒音苦情、ゼロ。……文化庁のセンサーも、振動を検知していません。完璧よ、刑部さん!」

結び:千年後の報告書

翌朝、京都御所近くの喫茶店。

「……お疲れ様。これが『文化財保護法に基づく緊急措置報告書』と、『景観条例特別遵守証明書』よ。刑部さん、名前を書いて」

財前が差し出した書類は、これまでのどの現場よりも分厚かった。

「……結局、仕事の中身より『いかに静かに、目立たずやったか』を証明する方が大変なんだな」

刑部がペンを走らせる。

「でも、おかげで京都府警から特製の『八ツ橋』をいただいたわよ。……金剛さん、これが今回の出張のご褒美。牛丼よりは風情があるでしょ?」

「……八ツ橋だけかよ! 俺はもっと、こう、ガツンとした……」

金剛の嘆きも、京都の落ち着いた空気の中ではどこか控えめだった。

そこへ、羽田の羽代課長からビデオ通話が入る。

『皆さん、関西遠征お疲れ様! 京都での評判、凄くいいわよ。「空対課は礼儀正しい」って。……あ、そうそう。帰りの新幹線の前に、名古屋航空局からメールが届いたんだけど……』

「……課長。次は名古屋ですか?」

刑部が尋ねると、羽代はニコリと笑って答えた。

『ううん、名古屋は通過していいわ。……そのまま羽田に直行して。実は、空対課の「予算削減」を企む財務省の監査官が、詰め所で手ぐすね引いて待ってるの。……最高に厄介な敵が、私たちのホームを狙ってるわよ』

「……。財前さん、今の聞いたか?」

「ええ。……本省の監査官ね。……いいわ、返り討ちにしてあげる。……刑部君、金剛さん。帰るわよ、私たちの『戦場(詰め所)』へ!」

空対課、関西遠征これにて終了。

しかし、彼らを待っていたのは、空の敵よりも恐ろしい「身内の刺客」だった。

【第16話:古都の防空 完】


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