第14話:ポートアイランドの影
第14話:ポートアイランドの影
「……神戸、ポートアイランド。ここは日本屈指のコンテナ取扱量を誇る、文字通りの『鋼鉄のジャングル』よ」
神戸港を見下ろす高台から、雲井瑞希がタブレットの地図を広げる。眼下には、色とりどりの巨大なコンテナが整然と、しかし果てしなく積み上げられていた。
「関空の件が終わったと思ったら、今度は神戸税関からの泣きつきですか。……『コンテナの隙間を縫って密輸品を運ぶステルス・ドローンを捕まえろ』。……財前、これの成功報酬(予算)は?」
刑部が、輸送機のハッチが開くのを待ちながら尋ねる。
「税関(財務省)と航空局の折半よ。……ただし、コンテナ一つでも傷つけたら、その損害賠償で私たちの出張手当は消えると思って。慎重にね、刑部さん」
財前はすでに税関職員と保税地域の立ち入り許可に関する最終調整を終え、鋭い視線でターミナルを睨んでいる。
「コンテナを傷つけずに、あの狭い隙間を飛ぶハエ(ドローン)を叩けってか。……へっ、腕が鳴るぜ」
金剛がキャリアーのエンジンを吹かす。その荷台では、海上輸送の衝撃から解き放たれたADUADS Mk-IIが、重厚な金属音を立てて再起動していた。
鉄の迷路
「ターゲット確認。小型のX字型フレーム。レーダー反射を抑えたカーボンボディ……。奴ら、コンテナの『影』を熟知しているわ。影から影へ飛び移って、こちらの光学センサーを幻惑している!」
瑞希のナビゲートが響く。
ターミナル内は、高さ10メートル以上に積み上げられたコンテナによって、GPSの精度が著しく低下する「アーバン・キャニオン(都市の谷間)」と化していた。
「……金剛さん、この先はキャリアーじゃ入れない。降ろしてくれ!」
「了解だ! 傷つけんなよ、そのデカブツもコンテナもな!」
Mk-IIがキャリアーから飛び降り、四脚の独立サスペンションをしなやかに動かしてコンテナの間の路地へ滑り込む。
「刑部、Mk-II。……これより『影送り(シャドウ・チェイス)』を開始する」
狭い通路。ドローンは急旋回を繰り返し、コンテナの角を曲がって視界から消える。Mk-IIの巨体では、角を曲がるたびに速度を落とさざるを得ない。
「……瑞希、風の流れを読めるか? コンテナの隙間を吹き抜ける『ビル風』を利用して、奴を追い詰める」
「了解。……あと5秒で、北側のガントリークレーンの間から強い突風が吹き込むわ。……今よ!」
決闘:ローター・バキューム
刑部はMk-IIの四脚を突っ張り、あえて狭い通路の中央で静止した。
「右補助腕、ローター・ブレード、始動! ……逆回転、最大出力!」
補助腕のブレードが猛烈な勢いで逆回転を始める。それは「風を送る」のではなく、狭いコンテナの通路内の空気を「吸い込む」巨大な掃除機と化した。
「……何ッ!?」
影に隠れて加速しようとしていた密輸ドローンが、不自然な気圧の変化に翻弄され、姿勢を崩してコンテナの壁面に吸い寄せられる。
「捉えたわ! 刑部さん、右10時方向、コンテナの縁!」
「逃がさない。右メインアーム、レーザー・ダズラー……出力、最小。照射!」
刑部は攻撃ではなく、ドローンの機体にレーザーを照射し続け、その反射光を「標的」として財前のシステムに送信した。
「……信号受信。税関の警備ドローン、今のレーザーを追って! 逃走経路は全て塞いだわ!」
財前が遠隔で税関の自動捕獲網を連動させる。逃げ場を失った密輸ドローンは、網の中へと自ら飛び込む形となった。
結び:神戸の夜景を背に
任務完了後。ポートアイランドの岸壁。
「……やれやれ。コンテナの損害はゼロ。密輸品も無事確保。……財前、これで今夜は神戸牛を期待してもいいんだな?」
金剛が期待に満ちた目で尋ねる。
「……そうね。税関からの『協力感謝状』のおかげで、夕食代の予算が少しだけ上乗せされたわ。……ただし、一人あたり『牛丼の大盛り』が限界だけど」
「……神戸まで来て、牛丼かよ!」
金剛の叫びが、夜の神戸港に空しく響く。
一方、刑部はMk-IIのコクピットから降り、美しくライトアップされた神戸の街並みを眺めていた。
「……課長、聞こえますか。ポートアイランドの件、無事終了しました」
『お疲れ様、刑部君。……でも、休んでいる暇はないわよ。大阪のミナミ……道頓堀で、ドローンを使った大規模な嫌がらせ騒動が起きてるって。警察から緊急の応援要請よ』
「道頓堀……。あそこは、さらに狭いですよ」
『だからこそ、あなたの「腕」が必要なの。……明日の朝には大阪市内に移動して。書類は、新幹線の中で書いておいてね』
「……了解です。……瑞希、明日の道頓堀の天気は?」
「……人混みと、お祭りの熱気で『熱中症』に注意、ですって」
空対課の関西遠征、第二の舞台は「食い倒れの街」。
刑部たちの戦いは、さらに混沌とした繁華街の中へと続いていく。
【第14話:ポートアイランドの影 完】




