第13話:連結橋の決闘
第13話:連絡橋の決闘
「……ターゲット確認。速度120キロ、連絡橋のトラス構造の間を縫うように飛行中。あれはただのドローンじゃない、超高速レース用をさらに違法改造した『スピード・ジャンキー』ね」
関空連絡橋、りんくうタウン側。強風に煽られながら、雲井瑞希がタブレットに映る光点を指し示した。海上からの突風は時速20メートルを超え、並の機体なら海へ叩き落とされる過酷なコンディションだ。
「……金剛さん、あいつを橋の上で逃がしたら、関空の物流が止まる。追いつけるか?」
刑部がMk-IIのコクピットで、海風による機体の揺れを補正しながら尋ねる。
「任せとけ! 関西の道は羽田より広い。このキャリアーの馬力と、Mk-IIの四脚スタビライザーがあれば、橋の上だろうがサーキットに変えてやるぜ!」
金剛がキャリアーのアクセルを踏み込む。Mk-IIを載せた巨大な影が、関空へと続く一本道を猛追し始めた。
「刑部さん、大阪航空局から『連絡橋の封鎖は最短で20分間』という念書を取ったわ。……もしそれを1秒でも過ぎたら、滞った物流損害分がうちの出張予算から削られるから。絶対に仕留めて!」
財前が後部座席で計算機を叩きながら、冷徹な喝を入れた。
海上の疾走
「瑞希、風を読め! 海からの突風が周期的に変わっている!」
「3秒後に左から15メートル! 刑部さん、脚部の重心を左に預けて! 今よ!」
瑞希の正確な気象ナビゲート。刑部はMk-IIの四脚をフレキシブルに動かし、橋の路面を力強く掴みながら、キャリアーの荷台の上で機体を安定させる。
前方を飛ぶドローンは、連絡橋の複雑な鉄骨の間を、まるで意志を持っているかのように回避して進む。あまりの速さに、左アームの散弾銃ではトラス構造に弾丸が遮られ、有効打を与えられない。
「……あいつ、橋の構造を盾にしていやがる」
「なら、光で追い詰めるまでだ。……右メインアーム、レーザー・ダズラー、アクティブ!」
刑部がトリガーをハーフ・プルし、FCS(火器管制システム)を「モードC:マニュアルセレクト」に切り替えた。
決闘:光の刺突
「……捉えた。財前、ターゲットの受光部を強制スキャンしろ!」
「了解。AIが光学センサーの周波数を特定……。刑部君、今よ! 奴がトラスの隙間から抜ける、わずか0.5秒の『窓』を狙って!」
刑部は呼吸を整え、四脚の油圧を固定。キャリアーの激しい振動の中、レーザーの照準をミリ単位でスナップさせた。
「――照射!!」
Mk-IIの右腕から放たれた極細の緑色のレーザーが、鉄骨の隙間を完璧に射抜き、ドローンのカメラアイを直撃した。
高出力の光を浴びたドローンのAIは、過負荷により視覚情報を喪失。迷走を始め、橋の防護柵に接触しかける。
「仕留めるぞ。金剛さん、並走しろ!」
「おう! 限界まで寄せてやる!」
キャリアーがドローンの真横に並ぶ。刑部はMk-IIの左補助腕、ゲージ・シールドを「野球のグローブ」のように突き出した。
「ACD、マニュアル介入! ……捕まえた!」
迷走するドローンを、シールドの格子装甲ががっちりとキャッチし、そのまま路面へと押さえ込んだ。
結び:新大阪の溜息
その日の夜、新大阪駅近くのビジネスホテル。
「……お疲れ様。これが今回の『緊急連絡橋使用に伴う道路管理者への始末書』と、大阪航空局への『業務報告書』よ。刑部さん、あなたのサインが必要な箇所に付箋を貼っておいたわ」
財前が、大量の書類をホテルの小さなデスクに広げた。
「……手柄を立てたっていうのに、夕飯はたこ焼き一皿か?」
金剛が、コンビニの袋を提げながら苦笑いする。
「仕方ないでしょ。連絡橋の『封鎖延長料』は免れたけど、キャリアーのタイヤ消耗費が大阪価格で請求されてるんだから。……あ、課長から羽田に電話が入ってるわよ」
財前が通話ボタンを押すと、スピーカーから羽代課長の声が響いた。
『……皆さん、お疲れ様。関空の局長から聞いたわよ。「羽田の空対課は、書類も仕事も正確だ」って。……おかげで、次の「神戸空港での警備協力」の依頼が来ちゃったわ。明日、移動できる?』
「……神戸!?」
四人の絶叫が、ホテルの部屋に響き渡った。
「……外務係長にも伝えておいてください。……出張報告書の『宿泊数』を書き直す準備をしろ、と」
刑部がペンを握り直し、深いため息をついた。
空対課の関西遠征。それはまだ、始まったばかりだった。
【第13話:連絡橋の決闘 完】




