第12話:関空の翼
第12話:関空への翼
「……というわけで、明日から三日間、あなたたち四人は関西国際空港へ出張よ。航空局(本省)からの強い要請でね。万博を控えた関空の警備体制強化、そのモデルケースとして『空対課』のデモンストレーションをお願いしたいんですって」
羽田の詰め所。羽代課長が、四人分の新幹線のチケットと分厚い出張命令書を机に並べた。
「出張……。課長と係長は行かないんですか?」
刑部が尋ねると、外務係長が苦笑いしながら書類の山を指差した。
「我々二人は羽田で留守番です。本省や各省庁への『出張調整』と『予算執行の言い訳』という、現場より胃が痛い仕事が待っていますからね」
「Mk-IIはどうするんです? さすがに新幹線には載らねえぞ」
金剛の問いに、羽代課長は窓の外の駐機場を指した。
「輸送班がすでに動いているわ。Mk-IIは自衛隊の輸送機で空輸される。整備班も同行するけれど、彼らの仕事はあくまで日常点検と現場調整。万が一の故障や重整備が必要になった場合は、輸送班がそのままメーカー(スワロー重工)へ運び込む手はずになっているわ。……『現場で直せない』のが、最新鋭機の泣き所ね」
品川駅・のぞみ車内
翌朝。刑部、雲井瑞希、金剛、財前の四人は、品川駅から新幹線に乗り込んでいた。装備品(Mk-II)と別行動なのは、機体の到着を待つ間に、大阪航空局への「到着申告」と、現地警備本部での「タクティカル・ブリーフィング」を済ませる必要があるためだ。
「……移動中も仕事なんて、労働基準法も真っ青ね」
財前がノートPCを広げ、大阪での宿泊費と交通費の計上を始めている。
「刑部さん、今回の出張手当は一円単位で領収書を管理して。大阪のタクシー代は羽田より厳しいんだから」
「……分かっている。瑞希、関空の気象データはどうだ?」
刑部が尋ねると、瑞希はタブレットの風速マップを見せた。
「関空は完全な人工島。羽田以上に遮るものがなくて、海風がダイレクトに来るわ。Mk-IIの重心制御、かなりシビアになると思う」
「へっ、そこは俺の腕の見せ所だろ。……それより刑部、大阪に着いたらまずは『報告』だ。あっちの役人は、形式を通さないとへそを曲げるからな。到着申告一回で、今後の三日間が楽になるか地獄になるか決まるぜ」
金剛が座席を倒しながら、不敵に笑った。
関西国際空港・大阪航空局分室
新大阪から特急「はるか」に揺られ、四人は関空へと降り立った。潮の香りが混じる空気。広大な滑走路の向こうには、青い海が広がっている。
「……空対課、刑部風人以下4名。ただいま到着いたしました」
空港内にある航空局の分室。刑部がピシッと背筋を伸ばし、現地の警備責任者に「到着申告」を行う。その背後では、財前が必要な書類を淀みなく提出し、金剛と瑞希が周囲の地形を鋭い目で見極めていた。
「……ご苦労様。羽田の『荒くれ者たち』が来ると聞いていたが、案外礼儀正しいじゃないか」
現地の責任者が、皮肉混じりの笑みを浮かべる。
「機体(Mk-II)は間もなく貨物エリアに届く。……だが、その前に聞いてもらいたい『厄介事』があってね」
責任者がモニターを点けると、そこには関空の連絡橋周辺を低空で旋回する、正体不明の「高速ドローン」の映像が映し出されていた。
「こいつが、昨日から関空の『空の玄関』を汚している。……空対課。デモンストレーションの前に、まずは実力を見せてもらおうか」
刑部は、窓の外の貨物ターミナルへ視線を向けた。
そこには今、巨大な輸送機から、自分たちの半身である「ADUADS Mk-II」が慎重に降ろされようとしていた。
「……了解しました。ブリーフィング、開始してください」
刑部の静かな声が、大阪の地で新しい戦いの始まりを告げた。




