第88話 才能って、つくれちゃう?
樹脂高生のキャラクターデザインを眺めていた乃亜はふと気付く。
「え、待って。赤ちゃんって……イラストも描ける人!?」
「そこにある液晶ペンタブレットで描きました。オリジナルキャラクターなので、フィギュア製作のためにキャラクターや衣装、小物なども自分でデザインしています」
「マ!? ヤバっ! それってもう絵師じゃん!」
「そ、それは大げさすぎます! あくまでフィギュア製作のためにデザインしただけですので……」
「いやいや、マジでエグいって! てか赤ちゃん……キャラデザとかイラスト描けて、フィギュアもアナログ・デジタル造形どっちもできてガレキも作れて塗装もやれるとか、もはや神じゃん!」
「か、神だなんて言いすぎです! 全て造形が好きで身につけたスキルなので……」
「マジかぁ~、ヤバすぎだって! 赤ちゃんしか勝たん!」
葵がガレージキットやフィギュア原型の製作だけでなく、キャラクターデザインを含めたイラストも描けてしまう事実が判明し、その多彩なスキルに乃亜は圧倒されてしまった。
「イラストですが……フィギュア造形のため、人体や動物のデッサンなどをしていた流れで上手くなっただけです。骨格や筋肉などの構造を知らないと、立体化した時にパースやバランスが狂って変になりますし、イラストと違ってフィギュアなどの立体的な造形物は隠れている部分や、見えない部分も補って表現しないといけません。特徴を捉えて表現するという点では二次元と三次元という違いはありますが、イラストと造形はある意味似ているかも知れません」
補足するように経緯を説明した葵だったが、乃亜は次元が違いすぎて開いた口が塞がらなかった。
「――す、すみません! つい自分のことを長々と話してしまいました!」
「――い、いや……別に良いんだけど……。てかさ、赤ちゃんばっか才能あってズルい~! あたしにもどれかスキル分けてー!」
「そ、それは難しいかと……」
冗談っぽく駄々をこねる乃亜だが、はたと気付くと一瞬で黙った。
「――そっか。今のスキルって、全部赤ちゃんが努力してきた証だよね……。なんか、茶化しちゃってごめん……」
「い、いいえ! 俺は自分が好きでやってきたので苦ではありませんでした。でもずっと部屋に引きこもって造形の勉強をしていたせいで友達もできず、遊んだ記憶もほとんどありません」
努力のために葵にも犠牲になったものがあることに乃亜は今さらながら気付く。
「――でも、後悔はしていません。それに高校に入ってから、綾音さんという友達もできました」
何気ない葵の一言に乃亜はハッとして驚いたように目を見開く。
「これまでずっと一人でしたが、綾音さんと知り合って趣味のフィギュアなどの話をするのはとても楽しいです。他にも一緒にガレキ製作やイベントに行ったり、同じ時間を共有する素晴らしさも改めて知りました。あの日の放課後――、綾音さんに声を掛けてもらわなかったら、今もきっと一人だったと思います。綾音さんは俺なんかが敵わない素晴らしい人です」
「いや、赤ちゃんの方が何十倍もスゴいから! それに気が合う人と友達になるとか、ふつーのことじゃん?」
「そうですね……でも俺はその普通を知らなかったので、綾音さんと知り合えたのはうれしかったです。綾音さんが初めての友達で良かったです!」
「マ!? めっちゃうれしいんですけど!」
昨日に引き続き、葵の素直な気持ちを聞けて乃亜は無邪気な笑みをこぼす。一方の葵は気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべていた。
本音を伝えた後、急に恥ずかしくなってきた葵はその場を取り繕うように話題を変える。
「え、えっと……どこまで話して――そ、そうでした! さっきパソコンで3Dモデルを見せましたよね? 実はもう3Dプリンターでレポラのフィギュアを出力済みなんです」
「マ!? 超見たい!」
葵は部屋の壁際にある棚の上に置いていたレポラのフィギュアを持って来ると乃亜に見せる。
「最初に出力したのは、白色の水洗いレジンを使って出力したデフォルメバージョンのレポラです。お試しの意味もあり、まずはこちらを出力しました」
「ヤバい! マジでフィギュアじゃん! 触っても良い?」
「大丈夫ですよ。サポート材は除去していますが、まだ仮組みで表面処理はしていません」
仮組みされたレポラのデフォルメフィギュアを乃亜は葵からそっと受け取り、実際に手に持って様々な角度から観察する。
「マジすご~っ! 毛先とか細かいとこまで作れちゃうんだ」
3Dプリンターの出力品に感動する乃亜を横目に見ながら、葵はもう一体のフィギュアも持って来る。
「綾音さん。こちらはレポラの等身デザインを元にしたスケールフィギュアです」
「え、待って。ガチヤバいって!」
葵が見せたレポラのスケールフィギュアも白色の水洗いレジンで出力されており、こちらも表面処理はまだではあるが、仮組みされて人型になっている。
「これって1/8スケール?」
「そうです。塗装するため、各パーツは分割した状態で出力しました」
「マジでエグいわ……これがあの3Dプリンターで作れるとか、めっちゃヤバい……」
まだ未塗装ではあるが、各パーツのディテールも3Dモデルをしっかりと再現して造形のクオリティも高かった。
「さすがに細部は表面処理が必要で、出力したらそのまま組み立てや塗装とまではいきませんが、それでもこのクオリティのフィギュアが出力できるのは大変満足です!」
「ほんと、ヤバいよね~! エモっ! マジ神ってるわ~」
3Dプリンターで出力されたフィギュアに前にして乃亜は感動してしまう。
「家でフィギュア作れるとか、マジでヤバいわ」
「本当ですね。俺も夢に一歩近付いた感じがして、とても充実した気分です」
「もしかして……このレポラたんをコミディオに出すとか?」
「その方向で進めています。綾音さんが来る前、ミンスタとTvitterにレポラのデザイン画や仮組みしたフィギュアの写真を投稿しましたが、すぐにフォロワーさんから反応がありました。デザイン画やイラストはアカウントを作成したピクツブにも投稿しています」
「マ!? まだチェックしてない!」
しばらくスマホを見ていなかった乃亜は足元に置いていたスクエアバッグからスマホを取り出し、高速で指を動かしてフォローしている葵のアカウントをチェックする。
「今日が初解禁? そーいえば、レポラたんのこと……今まで投稿してないよね?」
「そうですね。3Dプリンターを使うこと自体初めてだったため、色々試してきちんと形になってからの投稿になりました。先にオリキャラのフィギュア作ると投稿して、納得がいく出力品が出せなかったら困りますので」
「あーね。でも反応みる限り、好評っぽいじゃん――って、この四コマ漫画なに!?」
乃亜が画面をスワイプすると、『樹脂高生レポラちゃん!』というタイトルの四コマ漫画が葵のアカウントに投稿されていた。
「デザイン画だけだとキャラクター性が伝わりにくいと思い、レポラはどんなキャラなのか紹介するため、親しみやすい四コマ漫画を描いてみました」
「マジか。てか赤ちゃん……漫画も描けるとかズルいじゃん!」
「漫画と言っても四コマですし、そんな立派なものじゃないです」
「いや、ふつーに上手いじゃん! もーっ! 赤ちゃんばっか、色々できてズル~い!」
乃亜は葵の才能に嫉妬しながらも、同じフィギュア好きの友達として葵のことを誇りに思った。




