第87話 樹脂高生って、つくれちゃう?
乃亜からべた褒めされつつ、葵は解説の続きを話す。
「デジタル造形は最初の導入コストや3Dモデル作成の勉強や技術が必要ですが、アナログよりも細かい造形が可能ですし、何と言ってもデジタルなので修正が簡単です」
「てか、赤ちゃんガチだわ! アナログもデジタルも両方できるとかマジヤバいし!」
「俺はただ表現の幅を広げたいだけです。アナログもデジタル造形もそれぞれメリットやデメリットがありますし、これからの時代は両方使える方が原型師として強みになると思い、勉強してきました」
「さすが赤ちゃん! やっぱ先のこと考えてるのか~」
将来を見据えている葵のことを乃亜は尊敬の眼差しで見つめる。
「てかさ! 3Dモデルあるなら、もうフィギュア出力しちゃった感じ?」
「3Dプリンターが届いてから色々と試してみました。出力したのはさっき見せたオリキャラですね。一応キャラ設定はありまして、名前は樹脂高生の〝レポラ〟と言います」
「えっ? 女子高生? セーラー服っぽいのは着てたけどさ……」
「いいえ。女子高生ではなく樹脂高生です」
口頭で説明してもいまいちピンとこない乃亜に対し、葵はパソコンのマウスを操作すると事前に作成していたテキストファイルを起動する。
「綾音さん、樹脂高生はこういう風に書きます」
「てか、女子高生と呼び方似すぎだし!」
「じ、実は……俺も最初そう思いました。樹脂高生というのは略称でして、正確には〝樹脂性高分子生命体〟、略して樹脂高生です」
「え、待って。それならふつー樹高生じゃない?」
乃亜は各単語の頭文字を読んでそう指摘する。
「それが一般的な略し方だと思いますが、ガレージキットやフィギュアに使用されるレジンやPVCなどは合成樹脂と呼ばれるものです。素材として(合成)樹脂が使われているため、フィギュア好きとしてその部分は略さず、樹脂はそのままであとは頭文字を取りました」
「あーね。赤ちゃんのこだわりか~」
「何だか、ややこしくてすみません」
「良いじゃん! こだわりって超大事だし。フィギュアと関係あるし、女子高生って響きと似ているのもあり! ほら、漫画とかアニメのヒロインって基本女子高生じゃん?」
「そうですね。俺も樹脂高生が女子高生と響きがそっくりだったため、衣装のデザインもセーラー服にしました」
「やっぱさ、赤ちゃんも女子高生キャラ好き? てか、目の前にリアルJKいるんですけど?」
乃亜は胸を張り、自分の存在を葵にアピールしながらドヤ顔を決める。
「女子高生キャラですか!? ま、まあ……二次元ですし、好きか嫌いかで言うと好きですけど……」
「じゃあさ、三次元の女子高生は?」
ニヤニヤと意地悪そうに微笑む乃亜に対し、葵は何も言えずにたじろいでしまう。
「ほらほら~。目の前にいるんだし、なんかコメントして?」
「こ、コメントですか!? え、えっと――……めっちゃ、ギャルです」
そんな葵の返事に乃亜は一瞬キョトンとするが、すぐに吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。
「――めっちゃ! ギャル! そのまんまとか草ぁ! 超ウケる~!」
「す、すみません……急な質問だったので、上手い言葉が見つかりませんでした……」
「いや~、全然良いって! だって、ギャルだもん!」
なぜ乃亜の笑いのツボに入ったのか葵は分からなかったが、ウケたのであれば気分を害したわけではなかったので一安心する。
「マジごめん! からかっただけだから!」
「いいえ、俺の方こそすみません」
乃亜に対してはいくらでもコメントする要素はあったのだが、なぜもっと気が利いたことを言えなかったのかと葵は反省する。
乃亜は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、話を脱線させてしまったことを改めて謝る。
「――で、なんの話だっけ? そうだ、レポラたんの設定!」
葵は机の上に置いていたタブレット端末を手に取り、乃亜に画面を見せる。
「これがレポラのキャラクターデザインです」
乃亜がタブレット端末を覗き込むと先程のセーラー服姿とは違い、服を身にまとっておらず、その姿は半透明で粘液のように不定形な姿をしているレポラが描かれていた。
「レポラの設定としては、宇宙から地球にやって来た不定形生命体になります」
「不定形って……スライム娘とか、あーいうの?」
「そうですね。樹脂性高分子生命体であるレポラは樹脂を摂取して栄養にしているという設定です。樹脂には松脂や漆のような天然樹脂と、石油から作られるプラスチックなどの合成樹脂があります。現代社会は合成樹脂で作られた製品であふれており、フィギュアもそのひとつですね。レポラはセーラー服姿の美少女フィギュアを餌として摂取したことにより、美少女という人型の姿に体を変化させたという設定になっています」
「へぇ~。その設定も赤ちゃんが考えたの?」
「恐縮ながら……。ただの美少女フィギュアを作るより、設定や世界観があった方がキャラクター性を与えられると思いまして考えました」
「わかる! そーいうの、めっちゃ大事!」
「オリキャラであるため、コンテンツとしての展開はゼロになりますが、これからキャラクターを知って頂くためには必要な要素ですね」
「ふつーなら漫画やアニメ、ゲームとかでキャラを知ってそこから好きになるしね~」
葵の考え方には乃亜も納得する。
「てか、レポラたんの名前の由来って何?」
「樹脂性高分子生命体を英訳すると〝レジンベースド・ポリマー・ライフフォーム〟になり、頭文字を取ってレポラにしました」
「あーね。正式名称は固いイメージだけど、レポラはなんか丸っこくて可愛い系だし良き!」
乃亜が絶賛する中、葵はタブレット端末を指でスワイプし、フィギュアとして製作するレポラのキャラクターデザインを乃亜に紹介する。
「このレポラの姿は、美少女フィギュアを摂取して取り込んだ後の姿です。フィギュア製作として等身(人間の頭身とほぼ同じ)と2.5頭身のデフォルメ姿をデザインしました。服装はセーラー服ですが、設定上は布ではなくレポラの体と同じ樹脂性となり、ラバースーツのように体のフォルムにピタリと密着するデザインにしてみました」
乃亜がタブレット端末で確認すると、レポラの等身とデフォルメという二種類のデザイン画や立ち絵、三面図などがカラーイラストで描かれていた。




