第84話 コスプレエリアって、つくれちゃう?
造形イベントを話題に出したことで、葵は誰にも話さず胸の内に秘めていたことを乃亜になら話せると思った。
「――俺も最終的には造形フェスへの出展を目指していますが版権キャラではなく、オリジナルキャラクターのガレージキット製作を進めていまして、まずはコミディオでの頒布を目指しています」
「マ!? 参加するの!?」
イベント参加の計画を打ち明けられ、乃亜は思わず前のめりになって食いついた。
「ヤバっ! 赤ちゃん、参加するならあたしも誘って! 参加費とかも出すから!」
コミディオへの出展を考えている葵に乃亜も賛同して参加する考えだ。
「俺は構いませんよ」
「マ? 参加するなら、全然手伝うし!」
「ありがとうございます。でも版権キャラと違い、オリジナル作品はゼロからのスタートとなりますのでキットを製作して頒布しても、手にとって頂ける可能性はかなり低いですね」
「でもさ、赤ちゃんってミンスタとかに自作フィギュアの写真載せてるし、ファンとかいるんじゃない?」
「そうですね……ファンの方がいたとしても気軽にアクションできるSNSと違って、頒布品を入手するため、イベント会場まで足を運ばないといけません。参加が難しい地方の方もいらっしゃるかも知れませんし、ディーラー側にも余程の知名度や人気がないと厳しいかも知れません」
「あーね。そこは考えてなかったかも」
「でも、みんなが売り上げや儲けを考えているわけではありません。もちろん自分の作品で経費をチャラにできればそれに越したことはないですが、純粋にモノ作りが好きという方々もいらっしゃいます」
「それ、造形フェスとか見てると分かる!」
「造形フェスやスーフェスと違い、漫画メインのコミディオでオリジナルガレキが売れる見込みはないかも知れませんが、もしそうだったとしても俺は後悔しません。自分が好きで作っているだけで――って!? す、すみません……つい長々と語ってしまいました……」
造形物に関しての自分の考えや思いを熱く語ってしまい、乃亜が退屈しているだろうと葵は焦った。しかし、テーブルの向かい側に座る乃亜はスマホをテーブルに置き、真剣な眼差しで葵の話に耳を傾けていた。
「――謝んなくて良いし。てか赤ちゃんが言ったこと、ガチエモいじゃん。自分の好きを表現するって、マジ大事なことだし」
「そう言って頂けると、ありがたいです……」
「あたしもギャルやってるけどさ、これって自分の好きを形にしてるの。今ってこの格好がギャルだとか決まりはないし、自分の好きをメイクやファッション、アイテムで表現している色んなギャルがいるわけ。赤ちゃんの好きなことを貫くとことか、スタイルは違うけどあたし的にはギャルと変わんないよ」
「な、なるほど……」
乃亜が言いたいことを理解し、葵もその考えには同意する。形は違っていても、好きを表現する方法はいくらでもあるのだ。
「イベントに参加するにしても、まずはオリジナル作品の製作ですね。この前3Dプリンターを買いましたので、3D出力品のガレキを頒布できれば良いなと考えています」
「え、待って」
葵の話に出た、あるワードを聞き逃さなかった乃亜は思わず椅子から立ち上がり、両手をテーブルにつくと正面に座る葵に顔を突きつける。
「今、3Dプリンターって言った? え? はっ? 赤ちゃん……3Dプリンター買ったの!?」
(――ち、近い!? 綾音さんの顔が目の前に!?)
乃亜の顔が目前に迫り、葵は思わず後ろに仰け反って何度もうなずいた。
「マジかぁ~! もーっ、買ったなら言ってよ~! めっちゃ見たい! すぐ見たい!」
一旦身を引いた乃亜は椅子に座り直し、腕組みして不満そうに葵の顔を見つめる。
「す、すみません! 綾音さんが来た時、言うつもりでしたので……」
「てか、いつ買ったの? ミンスタとかに投稿してなくない?」
「注文したのは夏休み前です。ちょうど、終業式があった日の夕方に届きました」
「終業式の日かぁ……。最近は莉里奈達とばっか遊んでバイトもあったし、そーいえば、赤ちゃんのとこ全然行ってなかった。てか、見たい! すぐに見たーい! 赤ちゃん、明日予定とかある!?」
「い、いいえ……ありませんけど」
「おけえ! 明日絶対、赤ちゃんち行く!」
「……お待ちしています」
自分の気持ちに正直であり、即断する乃亜の行動力に葵は感心するしかなかった。
昼食を済ませた後、乃亜のリクエストでホール3・4の間からホール7までの屋外エリアに設けられているコスプレフリーゾーンを見に行く。
コスプレフリーゾーンは午前十一時から解放されており、二人がホール7にあるフリーゾーンへの出入り口からホールの外に出てみると、多くのコスプレイヤーやカメラマン達でごった返していた。
「わっ!? 混み方エグっ!?」
「かなり混雑していますね……今が一番混んでいるんじゃないでしょうか?」
「ほんとそれ! でも、レイヤーさんめっちゃいる~!」
コスプレフリーゾーンに立ち並ぶ多くのコスプレイヤー達に乃亜は熱い眼差しを向ける。
「外はホール内と違ってやっぱり暑いですね。ニュースで今日も災害級の暑さになると言っていまし、午前中の入場待ち待機列でもやばかったですが、レイヤーの皆さんはすごいです」
「それな! 暑い中、衣装着てコスとか大変なのに、キャラのイメージとか崩さずやってるレイヤーさんにマジ頭上がんない」
葵と乃亜は人混みの中を歩きながら、思うままにコスプレを披露するコスプレイヤー達を見て回る。
「好きなキャラのコス、やってる人いた~!」
乃亜は好きな作品や、知っている作品のキャラクターのコスプレをやっているコスプレイヤーを見るたび、飛び上がって歓喜していた。
(そう言えば……何のキャラが一番好きなのか、綾音さんに聞いたことなかったな)
「――綾音さんの好きなキャラって、何でしたっけ?」
「あたし? 好きなキャラ全部!」
「な、なるほど……かなりの数がいそうですね……」
「うおぉぉぉ~っ! ○○ちゃんがいるぅ! 立ち姿ヤバっ! アニメのまんますぎて尊すぎりゅ~! あっちには●●たん! 再現度エグっ!?」
乃亜は好きなキャラクターのコスプレイヤーを見つけるたび、派手なリアクションをして愛を爆発させていた。そんな様子を葵は後ろから優しく見守る。
(――綾音さんのテンション、いつにも増してすごいなぁ。楽しんでいるみたいで良かった)
「赤ちゃん見て! 最高過ぎひん!? コス見るの、ガチ至高すぎりゅ~!」
コスプレフリーゾーンを一通り見てホール内に戻った二人だが、乃亜は興奮覚めやらない様子で余韻に浸っていた。




