第83話 造形イベントって、つくれちゃう?
一般ディーラーのブースを一通り見て回った後、乃亜がスマホを確認する。
「――ねえ、赤ちゃん。そろそろお昼にしない?」
葵もスマホを確認すると、時刻は午後一時を過ぎていた。
「す、すみません! 見て回るのに夢中になって気付きませんでした……」
「全然良いって! あたしも楽しくて時間忘れてたし」
乃亜は軽く笑い飛ばすが、葵は気配りができていなかったと反省する。
(朝早かったし、これだけ歩き回ったら疲れるよな……。いつもと違って今回は綾音さんと二人で回っているから、もっと相手のことを気遣わないと)
二人とも一人だけ参加していた前回までとは違い、今回はフィギュア好きの連れがいるため、会場を回るだけで会話も弾み、葵と乃亜もお互いに時間を忘れてしまっていた。
「距離的にホール8にあるフードエリアで良いですか? キッチンカーの数はホール1の方が多いですけど……」
「近い方で! じゃあ、行こっか」
ホール6にいた葵と乃亜はホールの間を繋いでいる風除けテントを通り、企業ディーラーがある隣のホール7・8に移動する。
企業ディーラーや公式ステージがあるホール8の一角には、キッチンカーとフードコートのようなテーブルと椅子が置かれた飲食スペースが設けられており、軽食などを購入して食べたり自由に休憩することができる。
キッチンカーで葵は角煮バーガーとアイスサイダー、乃亜は肉巻きおにぎりと削りいちごシェイクを購入し、テーブルと椅子が置かれた飲食スペースで遅めのランチを取る。
「――ねえ、赤ちゃん。午後からは企業ディーラー見て回る?」
「そうですね。一般ディーラーはほぼ回りましたので」
「じゃあ企業ディーラー行く前、ちょっとコスエリア覗いても良い?」
「良いですよ。コスプレも賑わっているみたいですし」
午後からの行動も決まったところで、乃亜は葵に前々から聞いてみたかったことを質問をする。
「――てかさ、赤ちゃんもフィギュアの原型とか作ってるじゃん? 造形フェスに参加とかしないの?」
「そうですね……いつかは参加したいと思っています」
「やっぱり?」
「作品を頒布する場合、原型からキットを複製する必要がありますが、こちらは時間や経費も掛かりますし、売り上げも経費とプラマイゼロだったり、最悪赤字になる場合もありますね。出展料も掛かりますし」
「あーね……複製とか大変そう……」
「造形フェスでは造形物の頒布だけでなく、自分が製作した作品の展示のみを行うこともできますね」
「展示だけも良いならさ、いけそうじゃない? ちな出展料っていくら?」
「造形フェスの場合、出展料は一卓あたり税込み三万円ですね」
「一卓って……あのブースひとつ?」
「そうです。卓とは展示・頒布スペースのことですね。会議机一つとパイプ椅子二脚が貸し出されます」
「三万円……結構するんだ。頒布は原型とか複製とかで手間掛かるし、展示だけでも出展料が……てか、展示だけ実際どーなの? 自分の作品を発表したいならさ、今ってSNSとかあるじゃん」
「確かにSNSで発表するという方法もありますが、会場まで足を運んで原型や完成品の実物を生で見たいという方もいらっしゃるようです。あとは損得を考えず、純粋に自分の作品を発表する場にしている方もいます」
「あーね。造形フェスって、そーいう場所だもんね」
無粋な質問だったと乃亜は反省する。
「今すぐは無理かも知れませんが、造形フェスに参加するのも夢のひとつなので、いつか叶えたいですね」
「あたしも応援するし!」
「ありがとうございます。いつになるか、まだ分かりませんが……」
「それまで待つし。頒布するなら、売り子とかも全然やるから!」
まだ決まってもいない将来の約束を交わし、乃亜はドヤ顔で意気込む。
(――約束を果たすまで……綾音さん、それまで俺と友達でいてくれるってことなのか?)
葵は一瞬喜んでしまったが、さすがにその考えは身勝手だと反省する。
(綾音さんとずっと友達でいられるのかは俺次第だ……。良い関係を続けるためには相手から良くしてもらうばっかりじゃなくて、もっと俺からも積極的に関係を深めていけたら良いんだけど、これまで友達がいなかったせいか、相手との付き合い方や距離感が分からない……)
初めてできた友達が異性だったこともあり、交友関係が段階を得ず、一気に飛躍してしまったことも葵を悩ませている原因だった。
(――今は考えても仕方ない! とにかく、今日は造形フェスを楽しもう!)
気持ちがネガティブになる前に切り替え、葵は別の話題を出す。
「造形物の頒布ができるイベントは造形フェス以外にもありまして、例えばハイフェスやコミディオとかですかね」
「コミディオは……オリジナル漫画の略とか頒布するイベントだっけ?」
「そうです。コミディオはコミマと違い、二次創作は禁止で一次創作――つまり、オリジナル作品の発表や頒布する展示即売会ですね」
「ハイフェスって、何だっけ?」
「ハイフェスは〝ハイパーフェスティバル〟の略称でガレキやフィギュアにプラモデル、ソフビなど様々な玩具の展示・即売イベントですね」
「あーね。造形フェスみたいなイベントなんだ」
「ハイフェスの参加費は1ブースが税込みの二万七千五百円と、造形フェスより少し安いですね。ハイフェスでも造形フェスのように造形物の頒布ができます。コミディオの参加費は 1スペースで六千九百円ですね」
「コミディオは一万いかないんだ。でもコミディオって漫画だけじゃないの?」
「そうですね。イベントで頒布されるのはオリジナル漫画が中心で出展の多数を占めていますが、漫画以外にもイラスト集や小説、音楽にゲームやグッズなど様々なジャンルのオリジナル作品もあります」
「じゃあ、オリジナルならガレキとかフィギュアもあり?」
「そうですね。オリジナルのガレキやフィギュアを頒布されている方もいるみたいです」
造形フェス以外にもフィギュアを頒布するイベントがあるのだと乃亜は今さらながらに知ったようだ。




