第77話 海水浴って、つくれちゃう?
海の家の前で待っていた葵は乃亜達の声に気付いて振り返る。
「――赤ちゃん、お待た~!」
事前に予想できたことだとはいえ、いざ目の前に現れた水着姿のギャル三人に葵は一瞬で視線を奪われた。
先頭に立つ乃亜の水着はエスニック風のストーンビジューとチェーンデザインがきらびやかでゴージャスな雰囲気を醸し出す、黒のローライズホルターネックビキニ水着であり、足元は軽く見える白の厚底ビーチサンダル姿。
日差しに照らされた乃亜の白い肌は健康的に輝き、しなやかに伸びた手足がひときわ目を引く。潮風に揺れる髪を手で軽くかき上げ、葵を見つめるその表情には余裕と自信があふれている。
その隣に並ぶ莉里奈はシックなモノトーンデザインをした背中のクロスラインが可愛い、白のバッククロスモノトーン三角ビキニ水着にゴールドの厚底ビーチサンダル。
柔らかな曲線を描く莉里奈の体つきはどこか艶やかで、動くたびに自然と視線を誘う。いたずらっぽく口元を緩めたその笑みは子どものような無邪気さも感じさせる。
最後に現れた星羅は着心地の良いワッフル生地と大胆なカットアウトが際立つ、ネオンイエローをしたカットアウトワンカラーバンドゥビキニ水着と黒の厚底ビーチサンダルで決めている。
三人の中でも星羅はひときわ長身で、すらりと伸びたシルエットが印象的である。静かに立っているだけでも絵になるその佇まいは、どこか近寄りがたい凛とした雰囲気が漂っている。
張りのある胸元、きゅっと引き締まった腰のくびれ、無駄のないラインを描くヒップ、そして真っ直ぐに伸びる美脚――。そのどれもが均整の取れた美しさを際立たせ、水着姿の三人はそれぞれの個性をまとっていた。
ギャル三人組は人混みの中でも埋もれるどころか、むしろ自然に視線が集まってしまうほどの存在感を放ち、葵はただ圧倒されてしまう。
「――赤ちゃん、どうかな? この前買ったやつなんだけど」
「イケてる~?」
三人とも頭にはサングラスを掛け、その堂々とした立ち姿は自信そのものを形にしたようであり、葵には少しまぶしすぎるくらいだった。
葵は思わず三人の水着へと視線を走らせるが、すぐに我に返って顔を上げる。ほんのわずかな時間だったが、水着の色や形などその印象が妙にくっきりと脳裏に焼き付いてしまった。
「皆さん、とてもお似合いだと思います!」
当たり障りのない感想が葵にとっては精一杯の言葉だった。口にした瞬間、自分でも分かる頬が熱を帯び、じわりと火照りが広がっていく。
(海水浴だから当然だけど……三人の水着姿とか、まぶしすぎて直視できない……)
心の中でそう呟きながらも、葵の視線は無意識に三人の水着へと引き寄せられそうになる。
「新しい水着、やっぱ買って良かった~!」
「ナイプー用も買っちゃったしね~」
「出費は痛いけどな」
葵は視線に困るものの乃亜達は特に気する様子はなく、お互いの水着をチェックして褒め合っている。
四人は海の家でビーチパラソルとハート型をした大きな浮き輪をレンタルし、空いていたスペースを見つけると砂浜にレジャーシートを敷く。
「――こ、こんな感じでしょうか?」
慣れない手つきながら、葵はビーチパラソルを立て終わる。
「おけえ~! マジ助かる」
「男手あると設置も楽だわ」
拠点となる場所が決まったところで、乃亜達はスマホ片手に砂浜で写真を撮り始める。
「――じゃあ、次は波打ち際!」
「てか、空めっちゃきれ~!」
「海と空って映えるよなぁ」
波打ち際で乃亜達がキャッキャと楽しそうに撮影する中、三人の後について行った葵はサンダルを脱いで素足になる。
(――砂の感触、久しぶりだなぁ……引いて寄せる波も何だか新鮮だし)
濡れた砂にそっと足を踏み入れると、じわりと沈み込む感触が足裏に広がった。細かな砂粒が指の間に入り込み、ひんやりとした温度が直に伝わってくる。
寄せては返す波の音と足元から伝わる砂浜の感触――。葵が久しく忘れていた海の記憶を呼び覚まし、葵は波打ち際に立ってひたすらにその感覚に浸っていた。
「――ヒッ!? なんか踏んだし!」
「キャハハっ! ワカメじゃーん! 赤ちゃん見て! ワカメ!」
乃亜は莉里奈の足元からワカメを拾い上げると、両手で広げたワカメを葵に見せた。
「海藻とか流れ着くんですね」
「他の海水浴場でもたまに見るよ」
「海が荒れた後とか、超すごいらしいじゃん」
ワカメを手にした乃亜をまるで撮影会でもするように、ポーズを指示しながら莉里奈達がスマホで撮り始める。
波打ち際ではしゃいでいる乃亜達を横目で眺める葵だが、無意識にその視線は水着に向いてしまう。
(い、いけない――つい視線が水着に……。水着姿の美少女フィギュアは平気だけど、やっぱり生身は迫力が違う……)
乃亜達だけでなく周囲にいる海水浴客のほとんどは水着姿であり、どこに視線を向けても視界の中に入ってしまう。もちろん水着の上にTシャツやラッシュガードを着て露出が少ない海水浴客もいるが、海水浴場という場所なので受け入れるしかない。
(肉感というか、やっぱりフィギュアと違うし、無意識に水着姿を見てしまうのは男の性なのか……)
葵が乃亜の後ろ姿をチラ見すると不意に手がお尻に伸び、指先で水着の食い込みを直している姿が映り、葵はハッと我に返って目を逸らす。
(――夏の海は色んな意味で刺激が強すぎる!)
「ねぇ、なんか喉渇かない?」
「めっちゃ渇いた! ガチ暑いしー!」
「ほんとヤバイよな、この暑さ」
「あの! 俺、飲み物買ってきましょうか?」
「赤ちん、良いの?」
「俺も飲み物が欲しくなったので」
乃亜達の側にいるとつい水着姿に視線が向くため、一旦落ち着こうと葵は買い出しに行く。
(はぁ……女性慣れしていないせいか、水着だと余計に意識してしまう……)
時刻が昼近くになると、海水浴客の数が更に増えていた。
(平日でこんなに混むのか……休日はもっと混雑しそうだな……)
海の家で飲み物を買った葵はビーチパラソルを立てた拠点を目指すが、砂浜には目印がなくどこも似たよう色のビーチパラソルもたくさん立っているため、探すのに苦労していた。
(――えっと、目印にした海の家のあそこだから……あった! あの場所だ)
ようやく乃亜達が待っているビーチパラソルを見つけた葵だったが、レジャーシートの脇には見慣れない海パン姿の茶髪男性二人組がおり、乃亜達に何かを話し掛けていた。
(誰だろう……何かあったのかな?)
葵がビーチパラソルの近くまで歩いて来ると、それに気付いた乃亜が振り向いて大きく手を振った。
「戻って来た! おーい、赤ちゃーん!」
「赤ちゃん?」
茶髪男性達は顔を上げ、ビーチパラソルの元にやって来た葵のことをじっと眺める。
「ほら~、言った通りじゃん。連れがいるって。ちな、あたしの彼ピ」
おもむろにレジャーシートから立ち上がり、棒立ちだった葵に腕を絡めた乃亜は身を寄せて親密さをアピールする。葵は何が起こったのか分からず、その場で硬直した。
(えっ? ええっ!? こ、これ……一体どういう状況だ!?)
「マジかぁ~」
「でも、そっちの二人は相手いないでしょ? ちょうど俺達二人だし、ペアになれるじゃん」
葵に寄り添う乃亜を見て諦め、茶髪男性達はレジャーシートに座る莉里奈と星羅に話を振るも、二人はどこか気の抜けたつまらない表情を浮かべている。
「ねえ、どーかな?」
片方の男がしつこく尋ねると、莉里奈と星羅は不意にニヤリと笑う。
「ざんねーん。ウチもバブたんと付き合ってるし」
「私の彼ピも同じ~」
二人はすっと立ち上がると流れるような動きで葵を取り囲み、肩が触れそうになるぐらいの距離でも構わずその身を寄せる。
周りをギャルに囲まれた葵は三人の意図が分からず、その不意打ちな距離感に息を詰まらせた。
「はっ? いやいやいや! あり得ないから!」
「てか、それって三股じゃん! 最低野郎じゃん」
知らない男達から色々と言われているものの、状況が分からない葵はキョトンとするしかなかった。
「はっ? 三股じゃないし。てか、三人でラブラブだしぃ~」
「それな~!」
「いわゆる、ハーレムってやつなんで」
そんな乃亜の一言に茶髪男性達は顔を見合わせる。
「ま、マジか……」
「なんか、ごめんね~」
乃亜達が葵の側から離れず、迷惑そうにジト目を向けていたせいか、二人組は苦笑いを浮かべながら立ち去った。




