第75話 3Dプリンターって、つくれちゃう?
葵が通販で購入したのは作成した3Dデータを元にして、立体的な造形物を出力することができる家庭用3Dプリンターだ。価格は五万円台だが、セール価格で安く買うことができた。
3Dプリンターは大きく分けて個人向けの家庭用と企業向けの業務用があり、大型化や性能が上がるほど価格も変わって数万円から数千万円と製品によって幅がある。
よく作成されるのがフィギュアや模型などの造形物だが、小物や実用品も製作可能であり複雑な構造や細かいものでも簡単に作れて、手作業よりも製作時間を短縮ができる利点などがある。
3Dプリンターには造形方式が異なるものがあり、大きく分けると〝熱溶解積層方式〟と〝光造形方式〟だ。
熱溶解積層方式は別名〝FDM方式〟と呼ばれており、フィラメントというヒモ状になった樹脂に熱を加えて溶かし立体物を造形する方式である。
熱溶解積層方式は3Dプリンター本体の価格や材料費など、コストを抑えやすく手軽に試すことが可能なため初心者向けの3Dプリンターである。
もうひとつが〝光造形方式〟で、光硬化性のある樹脂素材にレーザー光やUV光を照射しながら立体物を作成する方式だ。
光造形方式は熱溶解積層方式と比べて、出力品の表面が滑らかで寸法精度も高く、仕上がりは熱溶解積層方式よりも高精細になり、フィギュアや模型に適した方式となっている。
お互いにメリットやデメリットはあるものの、葵は手間やコストよりも仕上がりの美しさを重視するため、光造形方式の3Dプリンターを購入した。
葵が購入した製品は幅33センチメートル、奥行き33センチメートル、高さ55センチメートルの大型造形ができるモデルであり、印刷サイズな寸法は幅が約22センチメートル、奥行きは約13センチメートル、高さが約22センチメートルのものが造形可能である。
(――小型のモデルでもパーツを分割すれば大型のものが組めるけど、セール価格だったから大型モデルを買ってしまった……まあ、後悔はしてないけど)
実物は商品画像と違い、奥行きや高さもあるので葵の想像より大きく見えた。
光造形方式の3Dプリンターでは、ガレージキットでも用いられるレジンという樹脂を使用するが、3DプリンターのレジンはUV硬化性樹脂というUVで硬化するレジンを使うのが主流だ。
UVレジンにもいくつか種類があり、コストパフォーマンスが良くて汎用性の高い〝ノーマルレジン〟や、硬化していない状態で水洗いできる〝水洗いレジン〟などがある。
UVレジンの後処理には、未硬化レジン除去する洗浄と二次硬化を行うが、ノーマルレジンの洗浄には有機溶剤を使用する必要がある。
そのため葵は水洗いレジンを選び、ボトルに入っている容量1キログラムの3Dプリンター用〝水洗いレジン白色〟も一緒に注文していた。
水洗いレジンの他にも、後処理のために洗浄と二次硬化の工程を行う機能がついた〝洗浄硬化機〟も購入しており、3Dプリンター・水洗いレジン・洗浄硬化機を合わせて合計七万三千円ほどの出費となる。
他にもUVレジンは、硬化中などに特有の樹脂臭や刺激臭があるため、葵は塗装ブースの排気ダクトに繋げられるシロッコファンをつけた密閉ボックスをホームセンターで買った材料で自作し、作業に必要なゴム手袋やゴーグル、ステンレス製スクレーパーやトレイなど道具類まで揃えると、出費は合計で八万円を超えてしまった。
(3Dプリンター本体は比較的安く買えるけど、全部合わせると結構な出費だ……)
3Dプリンターを導入するにあたり、製作環境を整えるために費用が掛かるのは葵も承知の上であり、この日のためにお金を貯めて準備してきたので後悔はない。
(――これまではアナログ造形だけやって来たけど、これからはデジタル造形も主流になっていくだろうし、アナログ・デジタル両方の技術と知識があれば、フィギュア原型師を目指す者として幅も広がるはずだ)
葵はフィギュア原型師になるのが夢であり、アナログ造形と平行してデジタル造形も勉強してきた。
3Dプリンター関係の知識やパソコンソフトを使った3Dモデリングも、まだ勉強中ではあるが習得してある程度は形になり、3Dプリンターを購入したことで夢への階段を葵はまた一歩登ることになる。
(これはスライスソフト搭載のモデルだからすぐに使えるし、あとは今作成しているモデリングの進捗次第か……)
スライスソフトとは、パソコンで作成したCGの3Dデータを3Dプリンターが認識できるように変換するためのソフトであり、スライスソフトがないと3Dプリンターから出力を行うことはできない。
キャラクターのモデリングが完成し、実際に出力する時のことを思い浮かべた葵は久しぶりに高揚感を覚える。
(デジタル造形は初期費用が掛かるけど、拡張性が高そうだからすぐにでも色々試したい!)
葵は湧き上がる期待感で心が踊り、早速3Dプリンターの説明書に目を通す。
事前に3Dプリンターのことについて勉強していた葵だったが、写真や動画、説明文や解説などで見るのとは違い、実物を手に入れて実際に触れるのは今回が初めてなのだ。
アナログ造形やデジタル造形でも、新しい道具を導入して使ってみるのは期待もあれば不安もある。本番で実際にやってみないと分からないこともあるが、可能な限りは失敗したくないため、事前に準備万端の状態で臨みたい考えだ。
3Dプリンターを購入した葵は寝る間も惜しみ、3Dプリンターや洗浄硬化機に触れながら、実機の使い方や仕組みを知識として頭に吸収していく。
(ああ……出力するのが楽しみだ)
充実した時間を過ごしているせいか、夜更けになっても睡魔が来ることはなく、葵は徹夜する勢いで3Dプリンターのことに没頭するのだった。




