第71話 相合い傘って、つくれちゃう?
なぜか傘を受け取ってくれない乃亜に困ってしまう葵だったが、あることを思い出して駅構内を指差した。
「綾音さん。駅構内の一階にあるミニストアに傘を売っていましたよ」
「えっ!? あーね……」
乃亜が妙な気を使って傘を使わないのであれば、別の傘を入手するしかなく、気を利かせた葵が売店で傘の購入を勧める。
「そうだ! 確かこの駅に傘を借りて返せるシェアサービスがあった気がします」
「へ、へぇ……そんなサービスあんの?」
次から次に出てくる代案に乃亜はピンチに陥る。
(これ、もう……相合い傘とか無理じゃね?)
駅から出なくても傘が手に入る状況では一緒の傘に入るのは無理だと考え、ついに相合い傘のシチュエーションを諦めた乃亜は、ふと何か思い出したような大げさな演技をしながらスクールバッグの中を手で探った。
「――ああっ!? 折りたたみ傘入れてたの、マジ忘れてた~!」
わざとらしく、たった今見つけた風に装って乃亜は白色の折りたたみ傘を葵に見せつける。
「傘持っていたんですね。良かったです!」
(うっ!? 赤ちゃんの安堵した笑顔を見ると、なんかつら……)
葵をからかうため、わざと嘘をついた罪悪感に乃亜は苛まれる。
「あ、赤ちゃん! 気使ってくれてありがと」
「いえいえ。それでは行きましょうか」
冗長なやり取りにも葵は嫌な顔ひとつせず、茶番のせいで時間をロスしたことを乃亜は反省する。
傘を差して屋根の下から出ると激しい雨粒が傘を叩き、足元のタイルから跳ねた水が乃亜のローファーや靴下を濡らす。
「マジ最悪~! これだから雨嫌い!」
「梅雨の時期は、レインシューズなどにした方が良いかも知れませんね」
タイル張りのデッキを歩いて葵達が街の方に向かっていると、突然吹いた突風がビル風となって勢いよく駅前に吹き下ろした。
「キャッ!?」
葵は何とか両手で傘を支えて耐えたものの、突風に煽られた乃亜の手から折りたたみ傘が吹き飛ばされると、数メートル先のデッキに落ちて勢いよく風に流されていく。
「ちょ待って!」
乃亜は飛ばされた折りたたみ傘を追い掛け、その場から駆け出す。
「もーっ! マジ最悪!」
「綾音さん! 大丈夫ですか!?」
すぐに後を追った葵が駆けつけると、折りたたみ傘を拾った乃亜が雨で濡れないように傘を差す。
「――綾音さん、傘は大丈夫ですか?」
「あ~、逝ったかも」
風に煽られ、吹き飛ばされた乃亜の折りたたみ傘は傘の骨が一本折れていた。
「――何とかたためましたが、これでは差すのは難しいですね。制服も濡れていますし、その……風邪でも引いたら大変です」
なぜか葵がおもむろに視線を逸らしたので乃亜が自分の制服を見ると、青色の長袖スクールシャツが雨に濡れており、下に着ているインナーが透けていた。
葵から壊れた折りたたみ傘を受け取り、代わりに差していた葵の傘を渡した乃亜は目のやり場に困って顔を逸らす葵のことを横から覗き込む。
「――ブラじゃなくて残念だった?」
「えっ!? い、いいえ……そんなというか、こんな時にからかわないで下さい!」
「あはは! マジごめんって! ほら漫画やアニメの美少女ってさぁ、制服の下にキャミとか着てないこと多いじゃん? だから濡れるとブラ透けとか定番だよねぇ~」
「そ、そうですけど……」
「まあ~、夏は暑いからインナー着なかったり、逆に汗対策でインナーの上にブラつけるとか色んな方法あるみたいけどさ、色や素材に注意しないとめっちゃ透けるしね~」
「そ、それよりも早く行きましょう! 濡れたままでは風邪をひきますよ」
「マジそれな。あとシャワー浴びたい」
雨に加えて風も出てきたため、乃亜は折りたたみ傘よりも丈夫な葵の傘へ一緒に入ると自宅マンションを目指す。
(――考えてみたら今って相合い傘だけど、赤ちゃんはそれどころじゃなさそうだなぁ……)
乃亜がこれ以上雨に濡れてしまわないように、葵は風に揺れる傘をしっかりと掴んで支えながら、肩が濡れることも気にせず乃亜に優先して傘を差す。
乃亜も雨に濡れて肌に張り付く髪やインナー、シャツなどが不快で一刻も早くシャワーを浴びて着替えたかった。
自宅マンションに着くと、すぐに葵は乃亜を脱衣所に案内する。
「綾音さん。濡れたスカートは乾かしますね。ワイシャツなどは洗い直した方が良いと思いますので、そこにある洗濯ネットに入れて洗濯機の中に入れて下さい。着替えを持ってきた時に回しておきます」
「ありがと~。じゃあ、シャワー借りるね」
バスタオルが置いてある場所を乃亜に伝え、葵は脱衣所を後にして扉を閉めた。




