第68話 初訪問って、つくれちゃう?
葵が一人暮らしということが判明すると、莉里奈と星羅は顔を見合わせニヤリと微笑んだ。
「てかさ、乃亜ってずっとバブたんのとこ、通ってたじゃん? あれ、二人きりだったのか~」
「そーなるな。親もいない一人暮らしの部屋に、若い男女が二人きり……これで何も起こらないはずはなく――」
星羅は流し目を送るが、乃亜は思わず吹き出して笑い飛ばす。
「ウケる! なんもないから! ねえ、赤ちゃん?」
「そ、そうです! 何もありません!」
誤解されないように葵も全力で否定した。
「いや、冗談だって! 〝瓦礫〟とかいうフィギュア? それを一緒に作ってたんだよな?」
「そう! これがガチ大変でさぁ~、ハメ外す余裕とかないから」
「分かってるって!」
星羅が笑いながら乃亜をなだめていると、莉里奈が間に割って入る。
「――で、何の話をしてたんだっけ?」
勉強会のことから話が大きく脱線してしまい、葵が切り出すまでギャル三人は首を傾げていた。
――それから数日後の放課後。
乃亜達に予定がなく全員が揃ったので、葵は乃亜と一緒に莉里奈と星羅を自宅マンションへ案内する。
「――へぇ~、ここがバブたんちかぁ~」
「一人暮らしだけど、結構きれいにしてんじゃん」
初めて葵の自宅マンションを訪れた莉里奈と星羅の二人は、一人暮らしする男子高校生の部屋に興味津々な様子だ。
「この部屋は? 寝室?」
廊下を挟んでリビングの向かい側にある部屋のドアを莉里奈が指差す。
「そこは作業部屋ですね」
「作業……部屋?」
「あ、分かった! フィギュアとか作るとこ?」
「そうです。綾音さんと一緒にこの部屋で作業しました」
莉里奈と星羅が興味津々な様子で中を見たいと懇願するので、葵は特に何の抵抗もなく二人を作業部屋に入れた。乃亜と出会う前であれば多少の抵抗があったかも知れないが、乃亜と作業した前例があり、葵に気恥ずかしさなどはなくなっていた。
「わっ! スゴっ!? なんか、めっちゃ道具があるし!?」
複数ある作業机の上にずらりと並んだガレキ製作や、造形に使用する道具類の数や豊富さを前にして莉里奈は圧倒される。
「こっちにはフィギュアもあるじゃん! なんか……乃亜のとこよりも多くないか?」
「当たり前じゃん! 市販品だけじゃなくて、赤ちゃんは自分でフィギュアも作ってるし」
「マ!? 赤ちん、フィギュアも作れんの!? 赤ちんが作ったの、どれ?」
初めて葵の作業部屋に入った二人と違い、通い慣れている乃亜は葵に代わって自作フィギュアを紹介する。
「え、待って。これマジで赤ちん作ったの? なんかエグんだが」
「ヤバっ!? ガチのやつじゃん! 売ってあるのと変わんないし」
フィギュアには疎い莉里奈と星羅も、葵が自作した魔法少女やメイド服姿の美少女フィギュアの出来栄えなど、造形やクオリティーに関しては素人目にも分かるようで、感嘆の声を漏らした。
「どう? マジすごいっしょ?」
なぜか乃亜は誇らしそうに葵が製作したフィギュアやガレージキットの魅力を二人に語る。
「おい。なんで乃亜が得意げにしてんだよ」
「ヤバいのはバブたんじゃん!」
「そりゃそーだけどさ、赤ちゃんのヤバさを共感してもらえるって、マジエモいじゃん?」
ギャル三人が和気あいあいと話す様子を黙って眺め、葵はどこか安堵していた。
(七割以上が美少女フィギュアだからドン引きされるかと思っていたけど、不知火さんも富士桜さんも綾音さんと同じように好意的な反応だった……)
莉里奈や星羅はあまりアニメを観ないと乃亜から聞いていたため、美少女キャラに抵抗があるかも知れないと葵は心配したが、それは思い違いだった。
フィギュア愛を熱く語る乃亜の姿を莉里奈達は茶化すことなく、真剣に聞いて楽しそうにリアクションしていた。
(不知火さん達は、綾音さんがオタクってことを知っているからという理由もあるけど、そもそも他人の好きなものを否定とかしないんだ……)
今まで両親と乃亜以外の人物が作業部屋に入ったことはなく、同級生である莉里奈や星羅が作業部屋にいるのは葵にとって特別なことであり、胸の奥に不思議な感覚を抱く。
(――まだまだ未熟だけど、何だか自分の存在を認めてもらったみたいでうれしいかも)
葵は両親と乃亜以外に〝原型師になる〟という自分の夢を語ったことはなく、作品はSNSに投稿という形で発表して高評価のコメントをもらってはいるものの、あくまで評価や感想は間接的なもので相手の顔は見えない。
だが今は違っており、実際にその目で莉里奈と星羅に自作フィギュアの評価や率直な感想をもらった。
フィギュア原型師を目指す葵にとって、作品を認めてもらえるのは素直にうれしく、現在よりもっと多くの人に評価してもらえる作品を生み出したいと、意欲やモチベーションに繋がっていく。これは原型師だけでなく、クリエイター全般に言えることだ。
乃亜と知り合うまで、葵は一人だけで好きなものに浸る世界に生きてきた――。そのため、SNSなどのコメントとは違う、リアルタイムで相手の表情が見える生の反応がとても新鮮に感じた。
莉里奈と星羅はあまりアニメを観ないと言っていたが、映像作品の造形物には興味を惹かれるらしく、美少女フィギュア以外にも飾ってある怪獣や異星人のフィギュアを眺めながら乃亜と一緒に盛り上がっていた。
フィギュアやアニメの話に花が咲く作業部屋内の雰囲気が心地良く、葵も会話に加わろうとしたが、今日ここに集まった理由をふと思い出す。
「あ、あの皆さん……盛り上がっているところ悪いのですが、そろそろ勉強会を始めませんか?」
そんな葵の一言に乃亜達の笑顔が凍りつくと、お互いに顔を見合わせて我に返る。
「ヤバっ!? ガチ忘れてたー!」
「てかさ~、まだ日数あるし今日はダベりでよくね?」
「いやダメだろ。言っとくけど、期末は中間より科目や範囲も多いぞ」
呑気な莉里奈を星羅が一喝し、こうしてようやく本来の目的である勉強会に取り掛かることになる。




