第67話 合同勉強会って、つくれちゃう?
その日、六月下旬から実施される一学期期末テストの範囲表が配られた。夕方のホームルームが終わって放課後になると、乃亜が真っ先に葵の元へやって来る。
「――赤ちゃーん! この前の約束、覚えてる? ほらテスト勉強のやつ!」
「覚えていますよ。勉強会ですよね」
各教科の授業時、担当教師がテスト範囲を告げていたため、葵はそろそろ乃亜から勉強会の誘いがあるのではないかと予想していた。
「今回もよろ~! 中間は赤ちゃんのおかげで平均点以上だったし!」
ドヤ顔で乃亜が胸を張っていると、その背後に二つの人影が音もなく現れる。
「――ちょ乃亜! また抜けがけするつもり!?」
「今度はそうはいかないからな!」
乃亜の両隣に立ったのは、かき上げ前髪にしたロングヘアの金髪を波巻きウェーブにしている不知火莉里奈と、真ん中分けノーバングのストレートなセミロングヘアを銀髪に染めている富士桜星羅だ。
莉里奈と星羅は乃亜の友人であり、二人とも乃亜と同じく派手なメイクと耳にピアスを付けている陽キャなギャルだ。
二人は乃亜を逃がさないようにがっちりと両脇に腕を絡める。
「乃亜~、逃さないし!」
「中間終わった後、約束したよな?」
莉里奈と星羅が両隣から乃亜の脇腹を指先で何度も突くと、乃亜は悲鳴混じりの笑い声を上げ、体をくすぐったそうに左右へくねらせる。
「ちょ待っ!? 抜けがけとか違うから!」
「何が違うわけ~? このこの~」
莉里奈が脇腹を再び突くと、乃亜はたまらず声を出して笑う。
「ち、違くて……抜けがけとかじゃなくて、赤ちゃんに確認を――」
「ほんと~? 怪しいなぁ~」
今度は星羅から脇腹を指で撫でられ、乃亜は短い笑い声を漏らながら体をよじらせる。
(三人とも、仲良いなぁ……)
完全に蚊帳の外である葵がギャル達の戯れを眺めていると、乃亜を弄るのに飽きた莉里奈が身を乗り出し、席に座る葵に顔を突き付ける。
「バブたーん、約束したよね? ウチらとも勉強会するって」
(か、顔近っ!?)
明るい金髪からふわりと漂う良い匂いが誘うように鼻をくすぐり、満面の笑みで迫る莉里奈の圧を受けて葵は何度も首を縦に振る。
「お、覚えています! 中間テストの後、約束しましたので……」
「なら、おけえ!」
「赤ちん、そーいうことだから、期末はよろ~」
「は、はい……頑張りましょう……」
葵との約束を再確認し、ここでようやく莉里奈と星羅は乃亜を解放する。
「はぁ~っ、笑い死ぬかと思った……。てか中間の時はさぁ、あたし一人でも赤ちゃんの負担になりそうじゃん? だから二人をテス勉に誘わなかったわけ」
「そーいうのを、抜けがけっていうんだぞ」
ジト目になった星羅が呆れたように返す。
「だって、みんなでやった方が楽しくない? ね、バブたーん?」
「そ、そうですね……」
グイグイと来るギャル二人を前にして葵に拒否権はなかった。
「楽しいかはともかく、誰か一人でも赤点だったら補習だろ?」
「それな! こーいうのは公平にしないと」
「また抜けがけしよーとしたから、スタパ驕りでよろ」
「ウチ、フラペ~!」
「抜けがけじゃないから!」
ワーワーと騒ぐギャル三人を前にして、本当に勉強会はできるのだろうかと葵は今から心配だった。
話が一区切りしたところで、乃亜は葵のことをを申し訳なさそうに見つめる。
「綾音さん、俺は大丈夫ですよ。分かる範囲であれば皆さんに教えますので」
「マ? バブたん神じゃん!」
「苦手な教科はさ、赤ちんが頼りだからな」
莉里奈と星羅は顔の前で手を合わせ、葵のことをありがたそうに拝む。
「あ、あはは……頑張ります」
「うーわ。赤ちゃんの負担、ガチエグそう……」
「えーっ? ギャルの一人や二人、増えたところで変わんなくない?」
そんな莉里奈の意見に星羅も同意してうなずく。
「まあ、全教科ってわけじゃないからな」
「だね~。こーいうのは協力が大事じゃん?」
今回は中間テストの時と違い、期末テストに向けての勉強会は乃亜に加えて友人の莉里奈と星羅も参加することになる。
「てか、勉強会って放課後? バイトとか予定ない日はいけるっしょ!」
「平日がベストだな。休みの日とか、マジやる気起きないし」
葵が意見を出す間もなく勉強会の話はどんどん進んでいく。
「どこで勉強会する? てか、乃亜とバブたんはどこでやってたん?」
「中間の時は赤ちゃんち。赤ちゃん一人暮らしで、誰にも邪魔されないし」
「えっ待って。バブたん一人暮らしなん?」
「それは初耳だな」
興味津々な様子で莉里奈と星羅の二人は話に食いついた。




