第55話 バイトって、つくれちゃう?
昨日の一件もあり、乃亜のバイト先を知ったことを葵は告げる。
「そーか、言ってなかったよね~」
「カラオケのバイトはいつからされているんですか?」
「今年の四月、高校入ってから! バイトはカラオケの他に読モもやってるよ」
「どくも?」
「読者モデルのこと」
「モデルですか……読モはいつから?」
「中一の夏かな。ミンスタのアカ作って写真の投稿始めたらさ、ファッション雑誌からスカウトあったの」
「スカウトですか。すごいですね!」
いつも近くで乃亜のことを見ている葵は、スラリとした長身のモデル体型である乃亜のビジュアルなら声も掛かるだろうと思った。
「中学はバイト禁止だったから、おこづかい稼げるかな~と思ってさ、親の許可もらって始めた感じ。でも専モやレギュモに比べれば、読モのギャラは控えめかな」
「給料は少ないんですか?」
「歩合制だから、撮影や案件の件数次第かな。だからカラオケ店のバイトもしてるの。ギャルはお金掛かるし、趣味もオタク趣味で美少女フィギュアともなればね~」
乃亜は自虐的に笑ってみせた。葵もフィギュアの値段はよく把握しているため、同意するようにうなずく。
「高校入ってからさ、レギュモのオーディションあるって紹介されたの」
「れぎゅも?」
「レギュラーモデルのこと。契約した雑誌やブランドだけと仕事する専属モデルと違って、縛りがないから色んな雑誌とか、ブランドで活動できるモデルって感じかな~」
「そういう活動もできるんですね」
「読モより、ギャラも良いしね」
モデルのことはよく分からない葵だが、ランクのようなものがあるのだと認識する。
「高校に入ってからと言うことは、四月にお誘いがあったんですよね? レギュラーモデルのオーディションは受けたんですか?」
「断っちゃった! ほら四月って、赤ちゃんと知り合ってガレキ製作のこと相談したじゃん? もしレギュモになれたら仕事増えるかもだけど、そうなるとガレキ製作の時間取れないと思って断ったの」
「ええっ!? ガレキ製作のためにせっかくのチャンスを断ったんですか!? ガレキは急いで作る必要はありませんでしたし、オーディションを受けても良かった気がするのですが……」
「いや~、あの時はガレキ作れるぞーってテンション上がって、フィギュア好きな赤ちゃんとも知り合えてさ、そっち優先したかった感じ?」
(そ、そんなノリで断っちゃったのか……まあ、綾音さんらしいと言えばらしいけど……)
せっかくのチャンスを不意にしたことを、あまり気にしていない乃亜のマイペースな姿を見て葵は妙に納得してしまった。
「赤ちゃんは気にしないで。あたしが決めたことだし」
「わ、分かりました……。でもガレキ製作は自分のペースでやれる趣味ですし、何か聞きたいことがあれば、俺はいつでも予定は空いていますので」
「ありがと! 今度は先のこととか、考えて行動するから」
バイト話が一段落ついたところで、ふと乃亜の脳裏にある疑問が浮かぶ。
「そーいえばさ……赤ちゃんって、フィギュアやガレキをたくさん買ってるじゃん?」
「そうですね。一応、厳選はしていますが……」
「他にも道具とかたくさん持ってるし、原型師になるために勉強とかフィギュア製作もやってるけど、めっちゃお金掛かってない?」
ガレキ製作の時は、作業や手順を覚えるのに必死で乃亜はそこまで気にしていなかったが、最初に借りたいくつもの道具や消耗品などは全ての葵の持ち物であり、それらがどこからともなく湧いて出るはずもなく、お金の出どころが気になっていた。
「赤ちゃんもバイトしてんの? でも、ずっと家にいるって言うし……」
首を傾げた乃亜は腕組みし、不思議そうに葵のことを見つめる。
「もしかして、親からめっちゃ〝おこづかい〟もらってるとか?」
「おこづかいはもらっていますが、そんなに多くありませんね」
「まさか、違法な闇バイト――」
「ち、違います!」
冗談だと分かってはいるものの、葵は乃亜の疑いを全力で否定する。
「そう言えば、まだ話していなかったですね。実は俺、個人でガレキやプラモデルの製作代行をやっているんです」
「製作代行? 赤ちゃんが代わりに作るの?」
「そうです。前にも少し話したと思いますが、ガレキなど未塗装・未組立のものは自分で作るか、個人や業者がやっている製作代行に頼んで完成させてもらうしかありません」
「ああ~、前に聞いたような……」
葵にガレキ製作の手伝いを依頼した時、そのような話をしていたことを乃亜は思い出す。
「モデラーの方は自分で製作しますし、もちろん自分の手で作るという醍醐味はあります。でも世の中にはガレージキットを買ったけど自分では作らない・作れないが、完成品が欲しいという方もいますので、個人や業者がやっている製作代行というサービスがあるんです」
葵の話を聞いて乃亜はうなずく。
「それな! あたしも赤ちゃんと知り合わなかったらガレキはずっと保管するか、製作代行を頼っていたかもだし」
「製作代行は、やはり個人よりも業者の方が需要はあると思います。しかし人気の業者だと、完成まで数か月や数年掛かる場合もあります」
「マ!? でも、それだけ腕が確かってことか~」
「そうですね。俺の場合は、親が代理で作ったSNSアカウントで製作代行の依頼募集をしていました。小学生の時からプラモとガレキは製作していたので、中学に入った頃は主にプラモデルの製作代行、同時に自分で買ったガレキの完成品の写真を完成見本としてアカウントにアップし、ガレージキット製作代行の募集も始めました」
「マジか、赤ちゃんエグいわ! 小学生の頃からガレキ作ってたの!?」
「そうです。市販のものだったり、自作したりしていました」
エピソードを聞いた乃亜は、自分とは全く違う人生を歩んできた葵に驚くばかりだ。
「親からSNSのアカウントを引き継いでからは、〝AOI〟という名前で個人の製作代行を今もやっています」
「そーいえば、赤ちゃんのミンスタとかTvitterのプロフにそんなこと書いてあったかも……。フィギュアの写真とかいっぱい載せてるけど、あれも完成見本とか?」
「そうですね。基本的には製作代行用の完成品サンプル画像です。あと趣味で作ったものもありますが」
葵と乃亜はお互いのSNSアカウントを相互フォローしているが、乃亜は葵が投稿しているフィギュアやガレージキットの写真ばかりに目がいき、プロフィールに記載されていた製作代行の依頼募集の項目を完全に見落としていた。
「おかげさまで、今ではプラモとガレキを合わせて月に数件の見積もり依頼や、数件の製作代行を受けています」
「あーね。赤ちゃんの腕は間違いないし。完成品の見本もガチだしね」
「きょ、恐縮です……」
「そんな弱気になる必要なくない? あたしが保証するし!」
乃亜の堂々とした態度と裏表のない評価に、葵は自分の能力を褒めてもらえたことが純粋にうれしかった。
「赤ちゃんって、3Dプリンター買うためにお金貯めてるんでしょ? 買ったらマジ見たい!」
「もちろんです。綾音さんにもデジタル造形のことを知って欲しいので」
葵が乃亜のバイト先を訪れたことがきっかけになり、お互いに話していなかったことを知ることができ、乃亜との関係が少し深まったように葵は感じた。




