第50話 ギャルズって、つくれちゃう?
夕方のホームルームが終わると、教室の中が生徒達の声で一斉に賑やかになる。
窓際の一番後ろの席に座る葵はクラスメイトを気にすることなく、教室の窓から曇り空を見上げた。
(――この様子だと予報通り、夜まで雨は降らなさそうだな)
六月上旬になると関東甲信地方も梅雨入りし、曇りや雨の日が多くなった。葵は普段からスクールバッグに折りたたみ傘を入れているが、雨に降られないのが一番なのだ。
(体育祭も終わったし、しばらく学校行事がなくて気楽だ)
他の生徒から遅れて葵が帰り支度をしていると、二つ隣の席に座る綾音乃亜の元に、友人のギャルである不知火莉里奈と富士桜星羅が集まっていた。
「乃亜、今日ってバイト~?」
「そーだけど、なんか用?」
「ただ聞いただけ~」
「聞いただけかい!」
莉里奈にツッコミを入れる乃亜の横顔を葵はチラ見する。今日から衣替えで制服が夏服に変わっており、冬服のブレザーから水色の長袖スクールシャツになっていた。
乃亜は冬服と同様にシャツの第二ボタンまで外し、首元の黒色ネクタイもだらしなく緩めている。紺色のチェック柄プリーツスカートは短いこと以外は冬服から変化なしだが、靴下はルーズソックスから黒色のショートソックスに変わっていた。
「んじゃ、お先~」
乃亜は席を立つと、わざわざ葵のところまでやって来た。
「――赤ちゃん。あたし、今日バイトだから」
「分かりました」
「じゃあ、また明日~」
スクールバッグを肩に掛け、乃亜は莉里奈と星羅にも別れを告げると教室を後にした。
(綾音さん、平日は週三ぐらいでバイトなのか……。休日、うちに来る時も午前や午後からバイトっていう日もあるな)
乃亜がバイトしていることは葵も知っているものの、何のバイトなのかは野暮だと思って訊いていない。
帰り支度を終えた葵も席を立とうとした時、ふと気配を感じて横を見ると、乃亜の友人である莉里奈と星羅が並んで葵のことを見下ろしていた。
突然のことに驚いて固まってしまった葵はギャル二人を見上げたまま、浮かしていた腰を静かに椅子へ下ろす。
(な、何で二人が俺の前に!? 俺、何かやらかした!?)
不知火莉里奈は、明るく社交的で時々天然なところもある乃亜の友人だ。
かき上げ前髪にハイトーンな金髪を波巻きウェーブにしたロングヘア。眉毛はイエロー系ブラウンで、垂れ目メイクにアイシャドーはブラウン系。まつ毛はマツエクとマスカラでボリュームアップしている。
ピアスは右耳に2連と左耳に2連。左手首には黒のブレスレットをつけている。
制服は長袖の水色スクールシャツ、短くした紺色のチェック柄プリーツスカートは乃亜と同じだがネクタイは赤色。第二ボタンまで外したシャツの上にはベージュ色のサマーセーターを着ており、靴下は冬服と変わらず白色のルーズソックスを穿いている。
莉里奈の身長は168センチメートルと乃亜より少し低い。
その隣に立つ富士桜星羅は乃亜や莉里奈よりも背が高く、葵よりは低い身長172センチメートル。
乃亜や不知火と同じで社交的だが性格はクールであり、髪はセミロングで真ん中分けノー前髪にした銀髪だ。
眉毛はアッシュブラウン、切れ長の目をつり目メイクでより強調し、アイシャドーはアッシュグレー系、まつ毛は乃亜達と同様にマツエクとマスカラ。ピアスは右耳に2連、左耳に1個である。
長袖の水色スクールシャツは第二ボタンまで外して肘の下で腕まくりしており、黒色のネクタイと短い紺色のチェック柄プリーツスカートは乃亜達と同じだが、シャツの上にはアイボリーのサマーベストを着用、靴下は黒色のショートソックスだ。
(一体、何の用だろう……)
葵にとって、莉里奈と星羅の二人は〝乃亜の友人〟という知識しかなく、同じクラスでも乃亜と一緒にいる時しか話したことはなかった。
「あ、あの……何か用でしょうか?」
謎の威圧感を見せる金髪&銀髪ギャルを前にして葵が顔を強張らせていると、それまで真顔だった莉里奈がパッと笑みを見せる。
「えーと、赤谷くん……だよね?」
「いいえ……赤千谷ですけど」
「マ!? 素で間違えたわ! そーだ、赤千谷くんだ~」
名前の間違いを笑って誤魔化す莉里奈を横目に見ながら、星羅は呆れた様子でため息をつく。
「莉里奈、良い加減クラスメイトの名前ぐらい覚えろ」
「えーっ! だってあんま絡みないとさ、ふわっとしか分からんし」
「とりま、その話は置いといて今はこっち」
星羅は何気なく葵を見下ろすが、切れ長のつり目から放たれるその眼光は鋭く、全く身に覚えがないが星羅から怒られるのではないかと、葵は萎縮する。
「ねえ、赤千谷くん。この後って暇?」
想定していなかった星羅からの質問に葵は真顔になる。
「え、えっと……それは一体どういう……」
「予定ないか聞いてんの」
星羅の鋭い眼光に再びにらまれ、葵は怯んだ。
(な、何でこの後の予定を聞かれるんだろう……やっぱり俺、何か悪いことしたかな?)
返答に困って葵が口ごもっていると莉里奈が机の上に身を乗り出し、葵の顔を横から覗き込む。
「ねぇー、赤千谷く~ん。暇なの? どーなん?」
乃亜と同じような距離感の近さに戸惑いながらも、葵は何とか声を振り絞る。
「暇、というか……特に予定はありませんが……」
「じゃあ~、決まり! ウチらと遊びにいこ?」
「えっ!? こ、これからですか!?」
莉里奈からの突然の誘いを受けた葵は、わけが分からず目を白黒させる。
(あ、遊びに誘われた!? な、何でこの二人に……?)
葵は戸惑うばかりで頭の中がパニック状態だ。
葵と目の前にいるギャル二人を繋ぐのは乃亜の存在だが、当人はバイトに行って不在であるため、誘われる理由が葵には見当もつかなかった。
「じゃあ、いこーか! ほら」
星羅は何の躊躇いもなく葵の腕を掴むと席から立たせる。
ギャル二人の勢いに流されるまま、葵はあっという間に教室から連れ出されてしまう。
(わ、わけが分からない……というか、一体どこに連れて行かれるんだろう……)
両サイドをギャルに挟まれる形で学校を後にし、肩身の狭い思いをしながら駅から電車に乗り、目的の駅で三人は降りる。
(こ、ここって……)
ギャル達によって葵が連れて来られたのは、駅前近くに店舗を構える一軒のカラオケ店だった。




