第48話 関係性って、つくれちゃう?
夕食の後、お風呂を済ませた乃亜は部屋着であるジェラートピケのTシャツとショートパンツ姿でガレージキットの写真をスマホで撮りまくり、ベッドに寝転ぶとミンスタに写真を投稿する。
乃亜はミンスタのアカウントを二つ作成しており、一つはファッションやメイクなどが中心の本アカウント。二つ目のサブアカウントは、フィギュアやアニメグッズなどを投稿する趣味用アカウントだった。
趣味用アカウントには、これまで乃亜がガレージキット製作中に作業過程を撮影した写真もあり、完成品の写真を『ガレキ版エリスたん完成!』とコメントして投稿すると、すぐにフォロワーから複数の〝いいね〟がついた。
「――おっ! 赤ちゃんも『いいね』してくれた~!」
うれしさのあまり、乃亜はベッドの上でゴロゴロと左右に転がり回る。
「そーだ! もう一個のガレキ……パーツチェックは終わってるけど、デフォルメのやつだし、赤ちゃんに相談しないと」
ベッドから下りた乃亜はクローゼットに向かうと、見習い天使のガレージキットを買った際、別のディーラーから購入していた〝悪魔っ娘リゼルナ デフォルメバージョン〟の未組み立てキットを手に取る。
「デフォルメのガレキはパーツも小さいし、やっぱ作るコツとかあるのかな~」
パッケージ袋を開けた乃亜は何気なく顔パーツを手に取った時、あることに気付く。
(――あれ? パーツチェックの時は気付かなかったけど、何か表面がブツブツしてる?)
乃亜は顔パーツを手に持って様々な角度から観察し、他のパーツも確認してみる。すると、全てのパーツが同様でその表面にはブツブツとした感触があった。
「な、何これ!? パーティングラインとかでもないし、まさか不良品!?」
不安になった乃亜はすぐにスマホを手に取り、葵のミンスタアカウントにダイレクトメッセージを送るがいくら待っても返事が来ない。
「あれ~? LIMEも送っとくか」
LIMEアプリから葵にメッセージを送るも、いつまで経っても既読さえつかない。
「えーっ!? どゆこと? もしかしてスルー……いや、でもなぁ~。ミンスタには『いいね』くれたし、赤ちゃんに限ってそれはないか」
その後もミンスタとLIMEに葵から返事は来ず、既読もつくことがなかった。
「――赤ちゃん、作業にハマってスマホ見てない? でも通知あるだろうし、どうしたんだろ? 一回電話して――……いや、もう時間遅いか」
夜遅くに電話するのはさすがに迷惑かと思い、乃亜はスマホを操作する手を止めた。
「……赤ちゃん、もう寝ちゃったのかな~」
返信どころか既読さえもつかないことに乃亜はモヤモヤするが、葵にも何か事情があるのだろうと考え、その日の連絡は諦めた。
翌日の朝。乃亜は起床と同時にスマホをチェックするものの、メッセージに既読はついていなかった。ミンスタの方にも返信はなく、乃亜は葵宛てにミンスタとLIMEの両方へ再度メッセージを送る。
洗顔や朝食を済ませる間もスマホに通知はなく、部屋に戻って来た乃亜はメイクの前に三度葵へメッセージを送る。
一時間ほど掛けたメイクの間にも葵からの返信はなく、未だに既読がつかない状況に乃亜もさすがに心配になってくる。
(――赤ちゃん、急に体調悪くなって倒れたりしてないよね!? なんか昨日、めっちゃテンション低かったし、たまに表情が優れない時もあったし、まさかってことも……」
葵は一人暮らしであるため、何か不測の事態が起こっても自分自身で対応しない限り、異変に気付く者はいない。昨夜から何度メッセージを送っても返信どころか、既読さえつかない状況に乃亜は最悪の想像をしてしまう。
乃亜はスマホで葵に電話するも繋がらず、何度掛けても『電波の届かない場所にあるか電源が入ってない』とアナウンスが流れるだけだった。
「電話も出ないとか……赤ちゃん、マジでヤバいんじゃ……」
不安が頂点に達し、居ても立っても居られなくなった乃亜は部屋から飛び出すと玄関に向かい、走りやすいスニーカーを履くと自宅から飛び出した。
(――赤ちゃん! 無事でいて!)
自宅から駅まで走った乃亜は電車に飛び乗り、車内で肩を上下させながら流れていく車窓の景色を見つめる。
(マジヤバいって! 赤ちゃん……昨日まで元気だったのに――……)
乃亜は気持ちだけが焦り、普段よりも電車の移動時間が長く感じてしまう。
新百合ヶ丘駅で降りた乃亜は駅から出ると、葵の自宅マンションまで迷わず走り、一階のエントランスから五階に向かうエレベーターの中で乱れた息を整えながら、心の中では「早く早く」と繰り返す。
五階の角部屋にある葵の部屋に到着するなり、乃亜はインターホンを鳴らすが反応がなく、ドアの前で再び電話を掛けるもやはり葵は出ない。
(――赤ちゃん! マジでどうしたの!?)
不安だけが募り、乃亜が何度かインターホンを鳴らすとドアの向こう側で何やら物音が聞こえた。乃亜がじっと見つめていると玄関ドアが静かに開き、上下スウェット姿の葵が驚いた表情で顔を覗かせた――――。
「――ってなことが、この前あってさぁ~、赤ちゃん無事でマジ安心したわ。連絡なかったのはスマホのバッテリー切れってオチだし」
その日の放課後。金髪ギャルの莉里奈に銀髪ギャルの星羅という、いつものメンバーでスタパに寄っていた乃亜は先週末に起こった騒動の一件を話し終えると自虐的に笑う。
「……なんていうか、心配しすぎじゃね?」
「それな! 一晩連絡なかっただけで騒ぎすぎ」
テーブル席の向かい側に座り、黙って話を聞いた莉里奈と星羅の反応はどこか冷ややかだ。
「だって、いつもとなんか違う感じだったし、体調不良かもって心配するじゃん?」
乃亜はどれだけ葵のことを心配したのか主張するが、莉里奈達のリアクションは薄い。
(そーだ、莉里奈達って……赤ちゃんが一人暮らししてるの知らないんだっけ?)
なぜ自分の気持ちに共感してくれないのか乃亜は疑問だったが、莉里奈や星羅は葵と少しだけ言葉を交わした程度の付き合いであり、葵の事情を知る由もなかった。
「まあ、なんにせよ何事もなくて良かったじゃん」
「だねー。朝から家に押し掛けるのはどーかと思うけど……。でも最近乃亜ってさ、赤谷くんと仲良いよね~」
「おい莉里奈。赤谷じゃなくて、赤千谷だろ?」
「そーだっけ? どっちでも良くない?」
莉里奈はクラスメイトである葵の名字もうろ覚えで首を傾げていた。
「そーいやさ、赤千谷くんと話すようになってから、乃亜めっちゃ楽しそうだよな」
「まあね~。赤ちゃんとはガチで趣味合うし」
キャラメルフラペチーノを飲みながら、乃亜は上機嫌に微笑んで見せた。
「ウチらはあんまアニメとか観ないし、乃亜も気使ってアニメの話とか全然しないじゃん?」
「まあ~、そーかも。あたしだけ楽しくても盛り上がんないしね。逆に気使ってもらうのも微妙な感じだし」
「私らは別に気にしないけどな。好みや価値観とかそれぞれ違うだろ」
そんな星羅の一言に莉里奈も同意してうなずく。
「とりま、気が合う友達ができて良かったじゃん」
「ほんとそれ! ウチらも気使ってたわけじゃないけどさ、乃亜が楽しそうなのが一番だし」
乃亜は葵との関係を、表面的や断片的にしか莉里奈と星羅に話していなかったため、興味ないふりしてよく見ている友人達に感激して胸が熱くなる。
「え、待って。ヤバっ……二人ともめっちゃ良い奴じゃん!」
「はっ? な~に当たり前のこと言ってんの?」
「当然だし」
葵との関係性が良い方向に働き、莉里奈や星羅との友情も深まったように感じて乃亜は自然に笑みをこぼした。




