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第4話 赤ちゃんって、つくれちゃう?

 

「――いや~、まさか同じクラスにさ、美少女フィギュア好きな人がいるとは思わないし。昨日帰る時に忘れ物してさ、教室戻ったら赤千谷くんがいて何気なく見たら、スマホにフィギュアっぽいものが見えたわけ。で、つい声掛けちゃったけどマジ大正解だったわ!」


「綾音さんの席って二つ隣ですよね? よく俺のスマホ画面が見えましたね……」


「たまたまっていうーか、ほら自分の好きなものって、つい目に入っちゃわない?」


「それは、何となく分かりますけど……」


 乃亜のフィギュア(好きなもの)に対する観察眼には葵も恐れ入った。


「でさ。昨日見てたフィギュアって、魔法少女メイドの略(まほメイ)のルルエたんでしょ?」


「そうです。ドレスのような魔法少女の衣装とメイド服の組み合わせがとても絶妙で、造形も素晴らしいので予約しちゃました」


「ルルエたん良きだよね~。他のキャラも衣装めっちゃ可愛くて鬼ヤバだし」


 美少女キャラの話題で乃亜のテンションはどんどん上がり、葵はほっこりとした気持ちを胸に(いだ)く。普段は誰にも見せない、だらしないような(とろ)けた顔でキャラクターの愛や推しを語る乃亜の姿は強烈で、その姿が逆に(とうと)さを感じるレベルだ。


「てか、フィギュアやアニメのこと話せる人ができてマジ最高~! 〝赤ちゃん〟、これからも一緒に語ろうぜ!」


「あ、赤ちゃん? それって……俺のことですか?」


「そう。赤千谷(あかちや)くんでしょ? だから赤ちゃん! てか、あたしらもう友達じゃん」


「友達……俺が、綾音さんと……友達?」


 乃亜から〝赤ちゃん〟と気軽に名前を呼ばれ、友達宣言まで受けた葵は急に(まゆ)をひそめると、耐えきれない様子で思わず顔をうつむけてしまう。


「えっ? い、嫌だった!? いつものノリでつい……やっぱ、赤ちゃん呼びは嫌だよね?」


 乃亜に悪意はなかったものの、同じクラスメイトとはいえ葵と話したのは今日が初めてあり、嫌な思いをさせてしまったと乃亜はうろたえるが、首を横に振った葵が顔を上げる。


「――ち、違うんです……うれしくって、つい感極まってしまいました……」


 予想外だった葵の言葉を受け、乃亜はキョトンとしてしまう。


「え、待って。どういう状況?」


「じ、実は……俺は小さい頃から友達がいなかったので、あだ名とかニックネームで呼ばれたことがほとんどないんです。同級生から名前を呼ばれる時は、男女とも〝赤千谷くん〟オンリーでした」


「……そーなんだ」


 これまで友達がいなかったことを告げられ、乃亜はどうフォローすれば良いのか反応に困る。


「――俺は、綾音さんからあだ名で呼んでもらってうれしかったんです。初めて本名以外で呼ばれたことはとても新鮮でした!」


「ま、まあ……喜んでくれたんなら、それで良いけどさ……」


 本名以外で呼ばれたことに感動する葵の気持ちはよく分からなかったが、葵を傷つけてしまったわけではなかったので乃亜はホッとする。


「じゃ、ふつーに赤ちゃんって呼ぶね。あたしのことは乃亜(のあ)で良いよ」


「……い、いや……いきなり名前呼びはどうかと……」


「はっ? イミフなんだけど?」


「そ、その……綾音さんとは、まだ知り合ったばかりなので……」


「じゃあ、赤ちゃんが呼びやすいやつで良いから」


「すみません」


「別に謝んなくて良いから。あとさ、あたしら同い年なんだしタメ口で良くない?」


 乃亜は葵がずっと敬語でしゃべっていることが気になり、友達になったことを機会にタメ口で話すことを勧める。


「すみません……タメ口はなんか苦手で……。今まで年下相手にも普通に敬語だったので急には無理かも知れません……」


「まあ良いけど。強制じゃないしね。とりま、これからよろ~!」


 不意に葵の手を取った乃亜は、握手代わりとばかりに両手で掴んだ葵の手を上下にブンブンと振る。


 相手を気にせずグイグイと来る距離感の近さと、近くにいるだけでまぶしい乃亜の笑顔とオーラに圧倒されながらも、友達だと言ってくれた乃亜は葵にとって大きな存在になる。


「よ、ひょろしくお願いします!」


「あっ、噛んだ。赤ちゃんかわゆ~!」


 乃亜の底抜けな明るさに救われながら、葵は初めて友達ができたうれしさを噛み締める。


「ねえ、赤ちゃんちってどっち方面?」


「家は……新百合ヶ丘ですね」


「マ? 同じ方向じゃん! なら一緒に帰ろ」


「えっ!? い、一緒に!? 俺とですか!?」


 乃亜の何気ない誘いに葵は戸惑ってしまう。友達になったので一緒に下校することは不思議なことではないが、異性の――しかもギャルである乃亜と一緒に帰ることは人間的に釣り合っていないと感じて葵は気が進まない。


「……ダメ? てかこの後、用事あるとか?」


「いいえ、何もないですけど……」


「じゃあ一緒に帰ろーよ。まだまだ話したことあるし」


「でも……ご迷惑じゃないですか?」


「えっ? どゆこと?」


 意味が分からず眉をひそめる乃亜に対し、葵は申し訳無さそうに口を開く。


「じ、地味な俺と綾音さんとでは、その……釣り合わないというか……」


「はぁっ!? イミフなんだけど……」


「俺には何の取り柄もないですし、綾音さんみたいにノリも良くなくて面白いことも言えません。性格も大人しくて口下手ですし……」


 ネガティブなことばかり語る葵の話を黙って聞いていた乃亜は深いため息をついた後、目の前にいる葵と距離を詰めると、切れ長の大きな目で葵の顔をじっと(にら)みつける。


 身長170センチと乃亜は背が高い方だが、さすがに180センチある葵には身長だけでなく体格も負けている。しかし、そんな差など微塵(みじん)も感じさせないほど、お互いの上下関係は誰が見てもはっきりとしていた。


 詰め寄られた乃亜から威圧(いあつ)を受け、葵は思わず萎縮(いしゅく)する。


(し、しまった……やってしまった……。綾音さんは友達だと言ってくれたのに、俺はグチグチとネガティブなことばかり言って……。やっぱり無理だ、こういうところが綾音さんと釣り合わないんだ……)


 乃亜が呆れ返るのも無理はないと情けなくなり、葵は自分の言動を責め続けた。



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