表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/41

第36話 勉強会って、つくれちゃう?

 

 一学期の中間テストが終わるまでガレージキット製作は一時中断となり、葵と乃亜は二人で勉強会をすることになった。


 学校がある平日は乃亜のバイトが入っていない日の放課後。休日もバイトがない日に葵の自宅マンションでやることに決まる。


 その日の授業が終わった放課後――。葵は乃亜と一緒にいつも利用している新百合ヶ丘駅で電車から降りた。


(学校帰りに綾音さんと同じ駅で降りるのって初めてじゃないか? 隣に制服姿の綾音さんがいるの、何だか不思議な感じだ……)


 葵の帰る方向と乃亜のバイト先が同じ方向であるため、平日に乃亜のバイトがある日は学校からバイト先の最寄りの駅まで一緒に帰ることはあったものの、学校帰りに乃亜が葵の自宅マンションを訪れるのは初めてのことだった。


 葵にとって通い慣れて目新しさもない帰り道だったはずだが、乃亜が加わるだけで一気に(はな)やかになり、無言で帰宅する時と違い周りの景色もどこか(にぎ)やかに見えた。


 自宅マンションに着くと葵は乃亜をダイニングに通し、キッチンで飲み物の準備を始める。乃亜は途中に寄ったコンビニで買った勉強のお供こと、お菓子をダイニングのテーブルに広げた。お菓子は二人でシェアできるものをチョイスしている。


「やっぱ、頭使う時は(あま)いものだよね~」


 キッチンから戻って来た葵は子を見る親のような目で、お菓子を前にしてテンションが上がる乃亜を微笑ましく見つめる。


(休日のおしゃれな私服姿の綾音さんは新鮮だけど、見慣れているはずの制服姿なのに、今日はやけに印象が変わって見えるなぁ)


 自宅というプライベート空間に学校でしか見ることができない、制服姿の乃亜がいることは葵にとって非日常的なことだった。これまでは下校の時以外で制服姿の乃亜と絡むことが少なかったせいか、より目新しく新鮮な印象を受けていた。


 葵はペットボトル入りのウーロン茶をグラスに注いでテーブルに置くと、乃亜の対面側の席に座る。葵は一人暮らしであるが、正方形をしたダイニングテーブルは二人用なので向かい合って座ることができた。


(綾音さんが正面に座っているのは、ちょっと緊張するなぁ……)


 今まで一緒に過ごす時、葵は乃亜の真横にいる場合が多かったため、対面で長時間過ごすことにあまり慣れていない。


 二人用のダイニングテーブルはコンパクトであるため、対面側にいても物理的な距離が近いせいか、乃亜の方から(ただよ)う甘い香りが葵の鼻をくすぐる。


(これって……香水? 柔軟剤? 化粧品? よく分からないけど、この良い匂いって綾音さんが帰った後もしばらく部屋に残っているよなぁ……)


 乃亜の香り分析に思考が傾き始めていたところで葵はふと我に返り、今は余計なことを考えるなと自分に言い聞かせると、気持ちを切り替えて勉強会を始める。


「――綾音さんは、苦手な教科とかありますか?」


「やっぱ数学かなー、あと英語。赤ちゃんは?」


「俺は……特に苦手な教科はないですね」


「マ!? てかさ、赤ちゃんって勉強できる人だよね!? フィギュアとか造形のこともめっちゃ詳しいし」


「勉強ができるというか……新しい知識や技術を学び、頭にインプットするのが好きなだけですね」


「いや、それを勉強っていうーの!」


「あはは、そうでした……」


 乃亜から指摘を受けた葵は苦笑し、過去の自分を思い返す。


「小学生の頃はフィギュア――というか、造形関係のこと以外、学校の勉強が好きだった記憶はないですね。造形のことは趣味というか、興味があって好きな分野なので、知識をどんどん吸収していった記憶があります」


「あーね! 好きなことは、めっちゃハマってやれるしね」


 乃亜も共感してうなずいてみせる。


「そう言えば……学校の勉強が好きになったのは、中学生になってからですね。当時クイズにハマっていまして、クイズのサイトなどを巡ってアプリも漁り、クイズの問題集とかも買っていましたね」


「クイズ? へぇ~、赤ちゃんも造形以外にハマったものがあるんだ」


「造形以外だと、初めてハマったものでしたね。クイズは一般常識のようなものから豆知識、雑学など多岐(たき)に渡り、ジャンルも様々であるため、どんな問題でも答えられるようにしておく必要がありますよね? どんなクイズにも正解できるように色んな知識を頭に詰め込んでいくうち、知らなかったことや初めての情報などを得ることが快感になりました」


「ヤバっ! そんなにハマったんだ」


「恐らく、クイズ好きになった流れからですね。学校の授業で習うことも新しく知識を得ることであり、定期テストを学校出題のクイズ問題という風に(とら)え、全問正解するように事前勉強して備えておく――といった感じで中学時代は過ごしていたせいか、自然と勉強することや知識を得るのが好きになったのだと思います」


 葵が勉強好きになった経緯(けいい)を聞き終えた乃亜は大きなため息をつき、脱力したようにテーブルへ突っ伏した。


「それってさ、赤ちゃんの頭が良いから成り立つことじゃん……あたしが真似(まね)しようとしても、ガチで無理すぎ……」


 乃亜は葵の勉強法を参考にするつもりだったが、元からの能力が違うことを知らしめられただけであった。


「……赤ちゃんってさ、記憶力とか理解力もつよつよだから勉強できるんじゃない?」


「そうでしょうか? 自分ではあまり分かりません。テストをクイズに置き換えて楽しんでやれたことが良かったんですかね? 好きなものには時間を忘れて取り組めますし」


「たぶんそう。あたしには無理ゲーだし」


 乃亜は目の前にあったお菓子の袋を開けると、口に運び始める。


 勉強会を始める前から乃亜が諦めてしまい、()上話(うえばなし)をしたことでやる気や自信を失わせたことに葵は慌てた。


「あ、綾音さん! 俺は特別なんかじゃありませんから! 人それぞれ違うのは当たり前ですし、得意や不得意はあります。綾音さんから頼まれた以上、分かるまで俺が教えますので一緒に頑張っていきましょう!」


「んー、まあ、そーなんだけどさぁ……」


「綾音さん、今やっているガレキ製作と同じです! 綾音さんはガレキを作ったことがありませんでしたが、今では手順や道具の使い方も習得して作業を進めているじゃありませんか。これってすごいことですよ」


 そんな葵の(はげ)ましの言葉を聞き、テーブルに突っ伏していた乃亜が体をのそりと起こす。


「え、マジで?」


「マジのマジです! 綾音さんには才能とセンスがあります。確かにテスト勉強は趣味のようにはいかないかも知れませんが、綾音さんもガレキ製作の知識をきちんと習得されています。俺が近くで見てきたので間違いありません! 同じように学校の勉強にも活かせるはずです」


 葵が怒涛(どとう)の勢いで褒めちぎると、途端に乃亜の顔がにやけて照れくさそうに頭をかく。


「――それな! 赤ちゃんがそこまで言うなら、なんか勉強もイケそうになってきた!」


 自信を失いかけていた乃亜がやる気を取り戻して葵はホッとするが、今の説得はテスト勉強を趣味であるガレキ製作への熱意に置き換えただけであり、苦手なテスト勉強をしなければいけない本質は変わらない。


(……綾音さんって、意外にチョロいのかも知れない……)


 乃亜の新たな一面が垣間(かいま)見えたようで、葵はどこかうれしくなった。


「てか赤ちゃんってさ、数学はどんな風に勉強してんの?」


「そうですね……社会科系や理科系は答えとなる用語を覚える感じですが、数学は問題を解くために公式や定理が必要です。しかし、公式を暗記しても解き方を理解しておかなければいけませんので、問題集を解いて間違った問題は答えや解説されている解き方を見て、答えの導き方を繰り返し解いていき理解する感じでしょうか」


「ちょ待って。三行で言うと?」


「公式と定理の

 解き方を理解して

 繰り返し解く」


「それ、ふつーに授業で習うことじゃ……」


「そうですね……」


 授業を聞いていれば分かる質問をしてしまい、乃亜は苦笑いを返すしかなかった。


 葵はまず乃亜の実力を把握(はあく)するため、数学の問題集をやってもらうことにする。


「分からない問題、間違った問題を重点的にやっていきましょう。質問があれば何でも聞いて下さい」


「よーし、本気出すわ!」


 乃亜は気合いを入れ直すと問題集に取り掛かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ