第32話 エアブラシって、つくれちゃう?
昼休憩を終え、二人はリビングから作業部屋に戻ると、葵は事前に準備していた塗装に使う道具を乃亜に紹介する。
「塗装に使うのは、サフを吹く時に使った塗装クリップや乾燥台などですが、一番大事な道具はエアブラシですね」
「エアブラシ? なんか莉里奈が、ネイルの話してる時に聞いたような……」
「エアブラシは塗料を霧状にして吹き付ける技法や道具の総称で、正確にはハンドピースと呼ばれます。ネイルアートなどで使うかも知れませんね」
「それだ! ネイルアートやってる店とかでさ、こーいう道具使ってるの見たかも。あれと一緒? エアジェルとかあるし」
「ネイルアートのことは詳しくないですが、同じ仕組みだと思います」
葵は作業机に置いていたエアブラシを手に取って乃亜に見せる。
「ここでは一般的なエアブラシという呼び方で解説しますね。これは、ダブルアクションタイプのエアブラシです」
「見た目は、なんかペンっぽい」
「エアブラシは、コンプレッサーで圧縮した空気を利用して空気と塗料を同時に噴射し、霧吹きのように塗料を吹き付けます。ノズルが細いため、薄くて均一な塗膜を作ることができるんです」
葵が使うエアブラシは銀色をしたペン型をしており、先端側の上部には釣り鐘を逆さまにして取り付けたような、希釈した塗料を入れる蓋付きの塗料カップがある。
ボディの中央には、塗料とエアーの量を調整するトリガーのボタン、先端部には保護用のニードルキャップに、空気の流れを作るノズルキャップとその中にノズルがある。
ボディの後方側には、ノズルに繋がるニードルとニードル固定ネジを保護するテールキャップがついていた。
「なんかさぁ、使うの超ムズそうだけど……」
「使い方に慣れたら、とても便利ですよ。スプレー塗装よりもきれいに塗装できます。エアブラシのノズルは商品ごとに口径が違っており、基本のものはノズル口径0.3ミリですね。0.18ミリなど、口径が細いものは高価になりますが、細吹きができますのでグラデーション塗装などには最適です」
続いて葵は塗装ブースがある机の周りに置いている、エアブラシを使うために使用する機材を紹介する。
「エアブラシ塗装をする際に必要なのが、コンプレッサーとレギュレーター、そして接続ホースです」
「なんか、めっちゃ道具使うじゃん」
あまり見れ慣れない道具を前にして、乃亜は興味津々な様子だ。
「スプレー缶は、内部に圧縮されたガスが充填されていますが、エアブラシは塗料の噴射にコンプレッサーを使います。コンプレッサーは、圧力を掛けた空気を送り出す機械です」
「その丸いのが付いてるやつが、レギュなんとか?」
「レギュレーターですね。レギュレーターは、エアブラシとコンプレッサーの間に接続して空気の圧力を調整するためのものです。レギュレーターなしでもエアブラシは使えますが、コンプレッサー側の圧力調整はツマミだけで分かりにくいですし、エアブラシにも圧力調整用のエアーアジャスターというツマミがあるものや、トリガーボタンの押し加減でも調整はできますが、ストロークが少ないので細かな圧力調整は難しいです。その点、レギュレーターはゲージで数値をみながら調整することができます」
「……なんか、めっちゃムズそうだけど、あった方が良いやつね」
「他にもコンプレッサーが圧縮した時、空気中に含まれる水分が発生します。この水分が空気と一緒に塗料に混じって吹き出されると、塗装に失敗します。レギュレーターの下にガラスの部分があるのが分かりますか? このレギュレーターは、水抜き機能がセットになって対策されています」
「へぇ~、色々工夫してあるんだ~」
乃亜は感心したように、机の横にあるレギュレーターを覗き込む。
「塗装をする前に練習しておきますか? エアブラシに慣れていた方が良いと思います」
「でもさ。これ塗料使うんでしょ? タダじゃないし、練習に使うのは……」
「調色したものの、使っていない塗料がありますので大丈夫です。容器内の空気の部分が大きいと固まってしまうため、小分けにしたり専用のラッカー薄め液で希釈する必要が出てきますが、もう使うことはなさそうなので……」
「そーいうことなら、気が楽かも」
こうして乃亜は午後から、エアブラシの使い方や実際に塗装の練習をすることになった。
昼休憩を挟み、午後から作業部屋に戻った葵は、塗装ブースがある机の前で乃亜に説明を行う。
エアブラシを使うため、まず葵は机の下にあるコンプレッサーとレギュレーターをホースで接続する。
続いて、水抜き機能付きのレギュレーターにエアブラシ用のホースを接続し、レギュレーターに繋いだホースの反対側をエアブラシに接続して準備を整える。
「ジョイント――継ぎ手の部分が、きちんと接続されているか確認した後、まずは試運転してみましょう」
葵がコンプレッサーの電源を入れると「ブーン」という低い音が部屋の中に響き始め、試しにエアブラシを手に持ち、トリガーボタンを押してエアーがきちんと出ているか確認する。
「問題ないようですね。エアーが漏れている場合、レギュレーターのゲージが安定しません。そのような場合は一度コンプレッサーの電源を落とした後、エアブラシのトリガーボタンを押してコンプレッサー内の空気を抜いてから、ホースのジョイントを外します。圧力をかけたものは必ず電源をオフした後に開放し、圧を抜いてから外さないといけません」
「手順とか間違えるとヤバいね。なんか危なそーだもん」
「机の上にある塗装ブースが、エアブラシやスプレーを吹くエリアです。エアブラシを使わない時は、エアブラシホルダーに置いて下さい。あとレギュレーターは見やすい位置に設置しています。机の下にはコンプレッサー、左右には塗料ビンをケースやトレイに入れて保管・収納しているスペースになっています」
葵が机の前にしゃがみ込み、収納している塗料ビンを乃亜に見せる。
「これ、全部塗料!? めっちゃあるじゃん!」
「ホビー系の塗料は、ラッカー・エナメル・水性アクリルの3種類ですね。ガレキの塗装には乾燥時間が早く、塗膜も強くて発色が良いラッカー塗料を主に使いますが、部分的にはエナメル塗料を使ったりもします」
説明を挟みながら葵は机の前に椅子を準備し、乃亜を塗装ブースの前に座らせる。
「それでは、エアブラシの練習をしていきましょう。まずは塗料を入れず、エアーのみで吹き付ける感覚を掴んで下さい」
葵はエアブラシを実際に持ち、乃亜の顔の前で各部の解説をする。
「エアブラシの操作ですが、このエアブラシはダブルアクションタイプになります。人差し指でボディの上にあるトリガーのボタンを押し込み、後ろに引くことでエアーと塗料がノズル内で混ざり、先端から霧状の塗料が吹き出す構造です」
乃亜はエアブラシの持ち方を教わって手に持つと、上部にあるトリガーのボタンを人差し指でそっと押してみる。すると、エアブラシの先端から「シュー」とエアーが吹き出た。
「へぇ~、こんな感覚かぁ」
「トリガーボタンを操作する力加減で、ミストの濃淡をコントロールできますが、慣れが必要なのでこの辺りは実際に塗料を吹き、何度も試してみた方が良いですね」
エアブラシの持ち方やエアーの吹き加減に乃亜が慣れてきたところで、今度は塗料の代わりに水を使った練習に移る。
「水なら匂いや汚れもありませんし、失敗しても良いのでいくらでも練習できますよ」
「あーね! 水とか、思いつかなかったわ」
葵はエアブラシの塗料カップに水道水を適量入れると、吹き付けの練習に使うプラ板を準備する。
「まずは、均一に吹き付けられるよう練習していきましょう。均一に塗るためには一定の量、距離、動作が必要となります。プラ板との距離は6センチを基準にして、近付けたり逆に離したりして調整しましょう」
乃亜は葵に教わりながら、水を使ってエアブラシで吹き付ける練習を何度も繰り返した。




