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第28話 共有って、つくれちゃう?

 

 横浜赤レンガ倉庫を後にした葵と乃亜は、同じエリアにある横浜ワールドポーターズを目指して歩く。


「――赤ちゃん、あれがワーポ(横浜ワールドポーターズ)」


「わーぽ? 結構大きいですね……」


「ショップもたくさんだし、映画館とかもあるから一日中遊べるよ~」


 横浜ワールドポーターズは、ファッション・インテリア・雑貨・アミューズメント・グルメ・フードなど、数百店舗のショップが入った大型の商業施設だ。


 二人はウインドウショッピングしたり、歩き疲れるとカフェで休憩を取る。一通り見て回った後、乃亜は葵を連れて横浜ワールドポーターズの二階から外に伸びる歩行者用デッキを歩き、隣にある運河パークに向かった。


「――じゃーん! これこれ! 一度乗ってみたかったやつ!」


「ロープウェイ……ですか? そう言えば、数年前にできたばかりでしたね」


 葵と乃亜が見つめる先には、JR桜木町駅がある中央地区と赤レンガ倉庫や横浜ワールドポーターズがある新港地区を繋いでいる、日本初の都市型循環式ロープウェイが運行していた。


「赤ちゃんって、高いところ平気?」


「大丈夫ですよ」


「おけえ! じゃあ、乗ろっか」


 運河パーク駅の一階にチケット売り場があるが、土日祝日は混雑して順番の待ち時間が発生する。ゴールデンウィークの混雑を予想していた乃亜は、事前にウェブから日時指定で予約とチケット購入をしており、二人はそのまま二階に上がって出発ゲートに進む。


 楽しみにしていたのか、乃亜はアトラクションに乗る前の子供のようにテンションが上り、順番が来るのをワクワクしながら待っていた。予約した順番が回ってくると、乃亜はスマホを出して予約画面を提示し、葵と一緒にロープウェイへ乗り込んだ。


「へぇ~、けっこー広いじゃん! 空調も付いてるし」


 ロープウェイの定員は8名だが他の客との相乗りはなく、葵と乃亜の二人きりだ。


(このシチュエーション……観覧車に乗っているのと同じだ……)


 密閉された空間に乃亜と二人だけの貸し切り状態であり、高い場所は平気であるが、葵は違う意味で緊張していた。


 ロープウェイがゆっくりと動き出して運河パーク駅を出発すると、目の前の視界が大きくひらける。


「――赤ちゃん見て! さっきまでいたワーポ(横浜ワールドポーターズ)と赤レンガ倉庫! あっちには大観覧車も見えるし、みなとみらいを一望できるじゃん! 鬼ヤバー!」


 片道630メートル、高さ約40メートルから、横浜みなとみらいの景色を見渡せるロープウェイは風が穏やかなこともあり、乗っている二人は揺れをほとんど感じなかった。


 乃亜はスマホ片手に、ロープウェイの中を前に後ろに移動してスマホで写真を撮り、窓からの景色を一望して子供のように楽しんでいる。


 まるで童心に帰ったかのように無邪気にはしゃぐ乃亜の姿を眺めていると、その笑顔が暖かい陽だまりのように、胸の奥へ広がっていくのを葵は感じていた。


 距離感が近い乃亜の言動と遊びに誘われたことで、葵は好意を寄せられているのではないかと勘違してしまったものの、特別な関係ではなくてもいい——そんな考えが、葵の中に芽生える。


 ただ隣にいて同じ景色を眺め、同じ瞬間に笑い合う。それだけで十分に満たされる時間がここにあるのだと、葵は穏やかな気持ちになった。


「――赤ちゃん? ずっと黙ってるけどさ、大丈夫? ほんとは高いところ怖いんじゃ……」


「す、すみません! 景色に見惚(みと)れていました……空中散歩しているみたいで楽しいですね」


「それな! 眺め良くて、開放感めっちゃあるし」


「昼間も良いですが、夜は夜景も楽しめそうですね」


「夕方からは混雑するらしいよー。乗るなら予約必須だし」


 作業部屋で一緒にいる時とはまた違った形で、乃亜と同じ時間を共有できる喜びを胸に刻みながら、葵もしばらくの空中散歩を楽しんだ。


 対岸にある桜木町駅に到着するとロープウェイから降り、葵は乃亜に連れられて桜木町駅から動く歩道に乗る。


「やっぱ、カップルめっちゃ多いなー」


(そう言えば……みなとみらいは定番のデートスポットなんだっけ?)


 そんな場所に乃亜と二人きりで遊びに来ていることを思わず自覚し、周りにいる人から自分達がどう思われているのか、葵は気になり始めた。


 すると突然、隣を歩いていた乃亜が寄り添うように、葵の方へ体を寄せて来た。わけが分からず葵がドギマギしていると、乃亜の柔らかい吐息が耳をくすぐる。


「――ねえ、赤ちゃん。あたしらも、このままカップルになっちゃう?」


「えっ!? い、いや! それは!」


 耳元で(ささ)かれた葵は驚きのあまり飛び退き、ギョッとしたような顔で乃亜を見ると、ニタニタと意地悪そうな顔で微笑んでいた。


「あははっ! 冗談、冗談だって~! もう、ほんと赤ちゃんかわゆ~」


「あ、あんまりからかわないで下さい!」


「マジごめんて! 赤ちゃんの反応、ウブでかわちいからさ、からかいたくなっちゃう」


 悪気がないのは分かっているが、異性に免疫のない葵にとって、からかってくる乃亜の言動はどれも体の芯を直撃するくらいの衝撃があった。


「赤ちゃん。お()びにスイーツ(おご)るからさ、許して!」


 無邪気に笑う乃亜はとても楽しそうで、狼狽(うろた)えていた葵もつられて笑みがこぼれてしまう。


「ほら、お店行くよー!」


 距離感が近くてノリの良い乃亜に翻弄(ほんろう)される葵だったが、不思議と許せてしまう自分がいた。その後、二人は時間の許す限り、みなとみらいにある横浜ランドマークタワーやクイーンズスクエアを一緒に見て回り、充実した時間を過ごした。



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