第27話 デートスポットって、つくれちゃう?
葵を元気付けるべく、次に乃亜が案内したのはスイーツを売っている店だ。二人は列に並び、人気のハリネズミまんとパンダまんを購入する。
ハリネズミまんは、かりんとう饅頭のように表面がサクっとしており、中には上品な甘さのカスタードあんが入ったスイーツだ。
同じく見た目が可愛らしいパンダまんは、生地の色によってあんの味が異なっており、それぞれの味を買った乃亜は、葵とシェアして味を食べ比べる。
街並みや買った食べ物の写真をスマホで撮る乃亜と楽しみながら、葵は華やかな横浜中華街を満喫した。
食べ歩きをしていると飲み物が欲しくなり、ブームの前から売っているタピオカミルクティーを買った葵と乃亜は、のんびりと通りを歩きながら横浜中華街から移動し、海沿いにある山下公園で休憩する。
広々とした山下公園の敷地内には遊歩道が整備されており、花壇や噴水などもある憩いのスポットだ。
「――ここは混んでいませんし、ゆったりとした雰囲気ですね」
「それな。目の前は海だし、眺めもよき~」
ひとつのベンチに並んで座る葵と乃亜は海を眺め、窮屈な人混みから解放されて一息つく。
遮るものがない海からは、優しく頬を撫でる潮風が吹き、空からの心地良い陽気もあって穏やかな時間が流れる。
海に面した山下公園からは、船や港の景色を楽しむことができるため、遊歩道を散歩しなら海を眺めたり、横浜中華街でテイクアウトしたグルメをベンチで食べる人達もいた。
山下公園で休憩した後、葵は乃亜に連れられて横浜赤レンガ倉庫を訪れる。
江戸時代に開港した港のひとつである横浜港に建つ赤レンガ倉庫は、明治から大正にかけて使用された当時の面影をそのまま残しており、今では1号館・2号館の倉庫をリノベーションして、ショップやレストランなどが入った観光スポットになっている。
「当時のまま残っているんですね。赤レンガが映えて、とっても印象的です」
「だよね~! めっちゃ歴史感じるし」
横浜赤レンガ倉庫も有名な観光スポットということもあり、カップルや家族連れ、団体客や外国人観光客など、多くの観光客で賑わっている。
「赤ちゃん知ってる? 2号館の二階にあるバルコニーに〝幸せの鐘〟っていうのがあるんだって」
「幸せの鐘……ですか?」
「その鐘を鳴らすと〝幸せになれる〟とか〝願いが叶う〟って、言われてるっぽい。とりま、行ってみない?」
「そうですね……ぜひ見てみたいです」
「こっちにあるみたい」
乃亜に案内された葵は、赤レンガ倉庫の2号館の二階に上がると外にあるバルコニーに出た。バルコニーの左側にはみなとみらいエリア、正面に赤レンガパーク、右側は海が一望できる。
意外と知られていないスポットなのか人は少なく、バルコニー北側の東の端――海側にある二つ並んだ〝幸せの鐘〟のところには、カップルらしき男女がいて鐘を鳴らしていた。
カップルが去った後、葵は乃亜と一緒に幸せの鐘の前に進む。幸せの鐘が設置された隣のスペースにはハート型のベンチが置いてある。
(ハート型のベンチに鐘が二つ……それにさっき、カップルらしき人達が一緒に鐘を鳴らしていたけど、これって……カップル同士が鳴らすやつなのでは!?)
葵はこの場所がカップルで訪れるスポットだと初めて知った。
「この幸せの鐘ってさ、カップルが同時に二つの鐘を鳴らすと〝二人の仲や愛が永遠になる〟って、言われてるっぽいね」
(二人の仲や愛って……やっぱり、カップル向けのスポットだったのか……)
乃亜がこの場所に葵を連れて来た意図は分からなかったが、戸惑っている葵と違い、乃亜は恥じらったり動じる様子もなく、二つ並んだ鐘の前に立ってスマホで写真を撮りまくっていた。
「ねえ赤ちゃん! 一緒に撮らない?」
葵が答える前に乃亜は腕を引っ張り、二つ並んだ幸せの鐘をバックにして葵を立たせると、左手を高く伸ばしてスマホを構える。
「ちょ、赤ちゃん。もっと寄らないと入らないじゃん!」
並んでいる乃亜と一定の距離を空けていた葵は、申し訳なそうに横へ数センチだけ移動するも、アングルが気に入らない乃亜が葵に体をピタリ寄せる。
葵の体に乃亜の肩と腕が触れ、思わず緊張した葵は真顔のまま硬直してしまう。
「撮るよ~!」
手のひらを突き出し、ピースサインを逆さにしたギャルピースのポーズと決め顔で写真に収まる乃亜と違い、密着したことで緊張する葵はぎこちない表情であり、薄ら笑いのような顔で写ってしまった。
「とりま、一緒に鐘鳴らそーか」
「えっ!? な、鳴らすんですか……?」
ノリノリな乃亜を前にして嫌だとは言えず、二つ並んだ鐘の横からぶら下がっているヒモを掴んだ葵と乃亜は、「せーの」の合図で同時に鐘を鳴らす。
ヒモを引っ張るごとに鐘が前後に揺れ、「カンコォーン」と大きな音色が鳴り響く。
鐘を鳴らすのが恥ずかしい葵は控えめに鳴らすが、乃亜はガンガン鳴らして赤レンガ倉庫に鐘の音色を響かせていた。
「――ねえ。赤ちゃんはさ、なんて願いながら鳴らしたの?」
乃亜は葵の願いが気になるのか、興味津々な様子だ。
「お、俺ですか!?」
「だって、気になるしー。やっぱ夢が叶うようにとか?」
「お、俺はその……綾音さんと友達になれたので、ずっと仲良くできれば良いなと思いながら、鐘を鳴らしました」
葵は言いながら顔や耳が燃え上がるように赤くなり、恥ずかしくなって思わず顔を伏せる。バカ正直に話してしまったことを葵は激しく後悔するが、時すでに遅かった。
「マ? あたしと一緒じゃん」
「――へっ?」
「あたしもさ、赤ちゃんとず~っと友達でいられますよーに、って願ったし」
「そ、そうだったんですか……?」
「マジ! めっちゃ気が合うじゃーん!」
まさか乃亜も同じ内容の願い事をしていたとは葵も思っておらず、状況を理解するまで少し時間が掛かった。
「今までアニメ好きな子はけっこーいたけど、フィギュア好きな子はあんまいなくてさ。今の赤ちゃんとみたいに、フィギュアのことで気軽に語れんの、マジ貴重な存在なんだよね」
「それは……俺も同じです」
乃亜だけでなく、葵も同じ心境だった。お互いの境遇は違うが、同じ趣味同士の仲間ができたことは素直に喜びしか湧いてこない。
(――ずっと友達か……うれしいな)
普段からノリが良く、初対面の相手にも物理的・精神的な距離が極端に近い乃亜だからこそ、引っ込み思案だった葵ともすぐに友達関係になれた。
同じフィギュア趣味やガレキ製作の手伝いなどを通じ、乃亜と仲が良くなった葵は相手が異性だとは言え、乃亜と出会ったことで周りの世界が広がったような気がしていた。
「――赤ちゃん、どしたん? ずっと黙ってるじゃん」
「あっ、いいえ! 何でもありません!」
乃亜との出会いを思い返していた葵はとっさに「綾音さんと友達になれた感動に浸っていました」と誤魔化す。
「マジで? あざーす!」
無邪気な乃亜にはいつも救われる葵は、穏やかな幸せで胸が満たされた。




