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第26話 会話って、つくれちゃう?

 

 通りを埋め尽くす人混みのせいでスムーズに歩けないものの、葵と乃亜は横浜中華街を散策しながら食べ歩きを始める。


(想像より人の数が多い……ずっと部屋に()る生活が長かったせいか、何だか人酔いしそうだ……)


 ゴールデンウィークの連休ということもあり、観光客でごった返す横浜中華街の混雑に葵は圧倒される。視界には通りを埋め尽く人の頭が不規則に動いているため、人混みに慣れていない葵にはつらかった。


(綾音さんは……人混みとか平気なのか?)


 葵は隣を歩く乃亜の横顔をチラ見するが、乃亜は人混みに(おく)する様子はなく平然と歩き、通りに立ち並ぶ建物をスマホで写真に収めていた。


(綾音さんは楽しんでいるみたいだ。俺は人の動きばかり気にしてしまう……)


 観光地であるため、多くの人で混雑するのは承知の上だが、葵はどう楽しめば良いのか分からず乃亜について行くことしかできない。


 通りに並ぶ食べ物屋は、店内に入らなくても店先で商品を販売しているところが数多くあり、葵と乃亜は手に持って食べることができるワンハンドスタイルの北京ダックや、甘じょっぱい角切りチャーシューが入ったチャーシューメロンパン、他にもブタまんを堪能(たんのう)する。


「めちゃウマっ~! 食べ歩きって、なんか良いよね~」


「食べ歩きは初めてなので新鮮な感じです」


 次の店に向かいながら、乃亜は横浜中華街の散策も楽しむ。


「――赤ちゃん見て! あの建物、めっちゃ豪華じゃない?」


「そうですね。とても(きら)びやかです」


「ここの路地裏、めっちゃ雰囲気あるよね~」


「そうですね。異国感が出ています」


 通りを散策しながら会話するも、話し掛けるのは主に乃亜からであり、葵は基本的に聞き手になっていた。


(な、何だろう……さっきから会話が続かない……というか、相槌(あいづち)と感想で終わってしまう……)


 葵も会話のネタや話題を見つけて話そうとするものの、いざ話そうとなると照れのような感情が湧いてしまい、そのまま口をつぐんでしまう。


 作業部屋では葵も乃亜と普通に話せているが、それは人の目がないからではない。会話の内容がフィギュアやアニメなど、得な分野の話題なので長続きするのだ。


 しかし一歩外に出れば、何を話せば良いのか話題に困り、葵は無言の時間が多くなっていた。


 葵は寡黙(かもく)な性格であることに加え、これまで友達がいなかったことで人付き合いが極端に(とぼ)しく、フィギュアや造形など自分が知っていること以外の話題には(うと)かった。


(綾音さんからたくさん話し掛けてくれるけど、ほとんどの会話が一言二言(ひとことふたこと)で終わるし、俺はあまり話さないから、綾音さんは一緒にいて楽しめているのか?)


 葵が乃亜の会話を観察すると、周囲の状況や五感から受けた情報をそのまま話していることが分かった。


(綾音さん……下手に考えず、見たものの感想を直感的に話しているみたいだ)


 見聞きしたことの他、その場のノリや雰囲気など、思ったことを口にしているだけに見えるが、言葉を選んで中々伝えられない葵と違い、乃亜は自分の感情や感想をストレートに話すため、葵も共感しやすくて会話に繋がっていた。


「――赤ちゃん? さっきからさ、あたしのことずっと見てない?」


「えっ!? いや、その……」


「まさか、あたしに見惚(みと)れてたとか?」


 意地悪そうな顔で距離を縮め、からかうような口調で葵にすり寄る乃亜。


「すみません……綾音さんの話し方を観察していました」


「話し方? ギャルっぽい口調のこと?」


「いえ、そちらではなく――」


 会話の話題がなく、話も続かないことに悩んでいたことを葵が打ち明けると、乃亜は途端に(あき)れ顔になる。


「そんなことで悩んでんの?」


「は、はい……会話は主に綾音さんからで、俺は相槌(あいづち)ばかりなので、綾音さんが楽しめているのか心配でして……」


「あたしは好き勝手しゃべってるだけだし、赤ちゃんの性格も分かってるつもり。だからさ、会話が続かないとか別に気にしないし、赤ちゃんも気にすることないよ」


「そ、そういうものでしょうか?」


「もーっ! 赤ちゃん深く考えすぎ! もっと単純で良いじゃん」


「すみません……一つのことをずっと考えてしまう(くせ)があるので、そうですね……もっと気楽に考えます」


「せっかく遊びに来たんだしさ、今の時間を楽しめばいいーの!」


 乃亜に(はげ)まされて、落ち込み気味だった葵の表情が次第に晴れてくる。


「あたしはさ、気が合う友達と遊べるだけで楽しいから、あんま気にしないで!」


 乃亜がふと見せた満面の笑みに葵は救われた気持ちになり、胸のつかえが消えていくのを感じた。


「てかさー、あたしの会話とか手本にならないし。赤ちゃんがギャルっぽくなるのはありだけど、自然体で良くない?」


「そうですね。さすがにギャルは無理ですが……」


「急に変わる必要とかないしねー。なんか知らんけど、赤ちゃん()んでたっぽいし、美味しいものでも食べよ!」


 この先も乃亜と一緒なら変われる気がすると思い、悩むより今の時間を楽しもうと葵は気持ちを一新する。



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