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第20話 下校って、つくれちゃう?

 

 声に気付いて葵が足を止めると、校門の方から慌てた様子で乃亜が駆けて来るのが見えた。


「――ちょ、赤ちゃん! なんで先に帰ってんの!?」


 教室から走って追い掛けてきたせいか、葵の前で立ち止まった乃亜は肩を大きく上下させて荒い息を()らす。


「あ、綾音さん!? えっ、いや……放課後になったので家に帰ろうと……」


「もーっ! 今日はバイトだけどさ、バ先のある駅まで一緒に帰ろうと思ったら赤ちゃんいないし、マジ焦ったじゃん!」


「す、すみません……」


「てか、言ってなかったあたしも悪いけどさー」


 ようやく呼吸が落ち着いた乃亜は乱れた髪を手ぐしで整えながら、駅の方に歩き出したので葵もつられて隣に並ぶ。


「――今朝はあんましゃべれなかったし、放課後ぐらい話したいじゃん?」


「そ、そうですね……気を使って頂きありがとうございます……」


「あたしも付き合いあるけどさ、赤ちゃんと一言も話さないのは、やっぱ(さび)しいし」


 そんな乃亜の一言を聞いて、葵は思わず胸が熱くなってしまった。


(綾音さん……俺なんかのこと、気に掛けてくれているんだ……素直にうれしいかも……)


「朝はマジでごめん! 騒いじゃってやっぱウザかった?」


「ちょっと勢いに押されましたが、にぎやかでした」


「あたしらさ、集まると大体あんな感じになるしね~」


「あはは……何となく分かります……」


 ここでふと葵は口止めの件を思い出し、今しか言うタイミングがないと考える。


 乃亜に自宅マンションに通い、ガレキ製作をしていることを他人に口外しない方が良いと口止めするが、そんな葵の意見を聞いて乃亜はキョトンとした。


「えっ? 別に良くない? 悪いことしてないじゃん」


「そ、そうですけど……」


 乃亜は意味が分からず(まゆ)をひそめて首を傾げるが、困った様子で目を泳がせる葵を見てハッと気付く。


「そっか! 赤ちゃん一人暮らしだし、同居人がいるって勘違いされたらやっぱマズいとか?」


「えっ?」


 乃亜から予想外の指摘を受け、葵は腕組みする。


「た、確かに……単身者向け物件なので、契約する時に〝二人入居不可〟となっていますね。もし同居人がいた場合、違反になって契約解除や退去を求められますが、綾音さんは同居人ではなく友人として遊びに来ているだけなので、その点は大丈夫かと思います……」


「この前みたいに一日中いることもあるし、そっか……赤ちゃんも困っちゃうよね」


 乃亜が何か別の勘違いをしていることに気付き、葵は話を戻す。


「え、えっと……俺が心配しているのはマンション契約のことではなく、綾音さんが俺の家に通うことで、その関係を周りから変な風に誤解されて、迷惑を掛けることを心配しているんです……」


 葵はずっと考えていた気掛かりなことを()べると、再び乃亜がキョトンとする。


「はっ? 赤ちゃんとの関係を誤解? それ、どーいうこと?」


「えっと、その……た、例えば……例えばですよ? もしこっそり付き合っているとか誤解されてしまうと、綾音さんが迷惑かと思いまして……」


「え? マジイミフなんだけど?」


 なぜ深刻そうな顔で話すのか、乃亜には葵の心理が分からない。


「別にさ、周りからどう思われようが関係なくない? 本人達が問題ないなら、それで良いんだし」


「そ、そうですね……」


 葵の心配事を乃亜にバッサリと言い切られてしまい、葵は何も反論することができない。乃亜はなぜ葵が、そんな些細(ささい)なことを気にするのか不思議でならなかった。


「そんなことより! 同居人がいるかもって疑われたらすぐに言って! あたしも赤ちゃんに迷惑とか掛けたくないから、事情とかふつーに説明するし!」


 乃亜は葵との関係を誤解されることよりも、同居人と疑われて迷惑を掛けることの方が重要らしく、葵の心配事は肩透かしに終わった。


(綾音さん……俺と一緒にいることなんて、別に何も気にしていないんだ……。そんなの当たり前で、変だなんて思ってもいないし、むしろ俺の立場を心配してくれている……)


 自分の悩みがどんなに些細(ささい)なことだったのか葵は思い知り、乃亜の偉大さに感銘(かんめい)を受ける。


 葵の悩みも解決し、週末の作業のことを話しながら歩いていると、あっという間に駅へ到着した。二人は同じ電車に乗った後、乃亜はバイト先がある駅で降りるため、車内で別れることになる。


「赤ちゃん! バイトない時はさ、莉里奈達と約束ないなら一緒に帰ろ! てか、話したい時はメッセや電話でも良いし」


「分かりました。バイト頑張って下さい」


「ありがと! じゃ、また明日~」


 乃亜は手を振ると電車から降り、帰宅ラッシュで混雑する駅のホームに消えていった。


(――綾音さんの方が、はるかに大人だ……。何だか周りの目ばっかり気にして悩んでいた自分が情けない……)


 乃亜の前で不甲斐ない姿を見せてしまったことに葵は反省しつつ、予定がない時は一緒に帰ろうと誘ってくれた乃亜の言葉がとてもうれしかった。



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