第16話 磁石って、つくれちゃう?
「軸打ちを簡単に決める方法ですが、両脚のパーツは1.5ミリ径の真鍮線を軸打ちするので、オス側とメス側に1.5ミリの穴を開けていますよね?」
「そーだけど……」
「それでは2ミリのドリル刃を使って、ピンバイスでオス側の穴を大きくして下さい」
「えっ!? 穴を大きくするの? それじゃガタつくんじゃない?」
「そこがポイントなんです」
理由は分からなかったが、葵の指示に従って乃亜は両脚パーツのダボに開けた穴を0.5ミリ広げた。
「穴を広げ終わりましたら、先程長さを調整した真鍮線をメス側の穴に差し込んで下さい」
「入れるだけ? 接着剤とか使わないの?」
「接着剤を使うのはオス側の穴です。今回は瞬間カラーパテと硬化促進剤を使いますね」
葵は作業机の上に準備していた瞬間カラーパテの容器を手に取る。
「瞬間カラーパテは、粘度の高い瞬間接着剤系のパテです。パテとは隙間などを埋める充填剤のことですね。ここからの作業は手際よく進めないといけませんので、まずは見本として俺が片脚をやっても良いですか?」
「任せる! 実際に見た方がイメージできるしね」
右脚のパーツを手に取った葵は、一連の流れを作業で解説する。
「まずは下腹部のパーツにある、メス側に開けた穴に1.5ミリ径の真鍮線を差し込み、右脚パーツのオス側の穴に瞬間カラーパテを流し込んで硬化促進剤をスプレーした後、メス側の真鍮線をオス側の穴に合わせてパーツ同士を素早く合わせます」
「えっと……硬化促進剤? それってどーいうやつ?」
「このスプレー缶が硬化促進剤です。瞬間接着剤用の硬化促進剤は、接着剤の硬化――つまり、接着剤が固まるのを早める役割をします。瞬間接着剤は早く固まるのが売りですが、その時間を更に早めることができます」
「秒で固まる的な?」
「硬化促進剤を使うと、時間短縮になって作業効率も上がるのでオススメですね」
説明を終えた葵は、下腹部パーツとくっつけた右脚パーツを再び離して分割する。
「瞬間カラーパテの表面は、一分もあれば硬化すると思います。完全に硬化するまで時間は掛かりますが、あくまで軸打ちを決めるためだけなので、表面が硬化したらすぐに離して構いません」
葵から両方のパーツを受け取った乃亜が確認すると、下腹部パーツのメス側にあった真鍮線が右脚パーツのオス側に移動していた。
「オス側の穴には瞬間カラーパテを入れたので、真鍮線が固定されています。オス側の穴をメス側より0.5ミリ広げましたが、これは最初にメス側に差し込んでいた真鍮線がオス側に差し込まれた際、穴に余裕があるので真鍮線が動く隙間があり、メス側の穴と真鍮線が決まるわけです」
「すごっ! 鬼ヤバじゃん! 何そのテク!?」
解説を聞いて乃亜は仕組みを理解し、軸打ちのテクニックに感銘を受ける。
「これは先人の方々の知恵ですね。穴が大きくずれている時は難しいですが、この方法なら軸打ちする穴が真っ直ぐではない場合も対応できます。穴の余分な隙間も瞬間カラーパテが埋めてくれるため、オス側の穴を大きくしても良いわけです」
「めっちゃ理解できた! マジで良いテクじゃん!」
「左脚のパーツは綾音さんにお任せしますね。この調子で各パーツの軸打ちを進めましょう」
「りょ! コツが分かればこっちのもんだし」
こうして乃亜は葵のサポートを受けつつも、パーツの軸打ち作業を進めていった。
軸打ちが終わる頃、ちょうどお昼になる。葵は作業部屋に乃亜を残してキッチンに向かうと、昼食の準備に取り掛かる。
乃亜が作業を進めたいということで外には食べに行かず、昨日に引き続き葵が料理を振る舞う。今日のメニューはパラパラの黄金チャーハンとオニオンコンソメスープだ。
温かいご飯に具材は、長ねぎにハムと卵。味付けに塩こしょうと鶏がらスープの素、そして今回の肝となるマヨネーズだ。
長ねぎとハムを粗みじん切りにした後、ご飯にマヨネーズを混ぜて中火で炒めながら長ねぎとハムを入れて混ぜる。
フライパンの半分にご飯を寄せて、溶き卵を入れて卵だけを炒め、寄せておいたご飯と均等になるように混ぜた後、塩こしょうと鶏がらスープの素を入れて全体を混ぜ合わせ、味を整えたら完成だ。
オニオンコンソメスープも完成したところで、作業部屋から出てきた乃亜が美味しそうな匂いにつられてダイニングにやって来る。
「もうできたの!?」
「完成です。チャーハンとスープで調理時間は十五分ぐらいですね」
「早っ!?」
乃亜は葵を手伝ってダイニングのテーブルにランチョンマットを敷いて料理を運び、二人は向かい合って席につく。
「マジごめん……今日もお昼ごちそうになっちゃって……」
「気にしないで下さい。休日はいつも作っていますので。冷めないうちにどうぞ」
「ありがと! いっただきま~す!」
乃亜はスプーンでチャーハンをすくい、口に運んで頬張るとその美味しさに目を輝かせた。
「んま~い! なにこれ!? ちゃんとご飯がパラパラしてる! お店のチャーハンじゃん。赤ちゃんって、まさかプロ?」
「ち、違います。パラパラの秘密はマヨネーズなんです」
「マヨか! 風味はすると思ったけど、へぇ~! マヨだけでこんなパラパラになるのか」
「マヨネーズの油分が、ご飯の粒をコーティングするのでパラパラになるようです。あとはマヨネーズを使うので、炒める時も油は必要ありません」
「マジすごっ! 赤ちゃん天才じゃーん!」
「俺がすごいわけではなく、ネットに公開されているレシピ通りに作っただけなので誰でもできますよ」
褒められたこととは別に、美味しそうに料理を食べる乃亜の姿を見ているだけで葵は心が満たされる。
昼食後の片付けは昨日と同じく乃亜が担当し、休憩を挟んで、午後からは軸打ちした接合面にネオジム磁石の埋め込み作業に入る。
「ネオジム磁石の埋め込みは、お互いのパーツの同じ位置に穴を開ける必要があります」
「そっか……穴が合わないと磁石がくっつかないしね」
「少しずれてしまっても磁力はくっつきますが、強い磁力を得るためにはきちんと磁石同士が合った方が良いですね。穴の位置出しには、軸穴を開ける時に使った粘着ラバーを使います」
「この作業でも使えるんだ」
「作業としては、まずメス側である下腹部パーツ側に磁石を埋めるための穴を四つ開けます。そして、オス側である脚パーツの四か所に粘着ラバーを貼り付け、パーツ同士を合わせると粘着ラバーにメス側に開けた穴の跡がつきますので、そこに下穴を開けます」
「ヤバっ! 粘着ラバー、めっちゃ使えるじゃん!」
乃亜は葵のアドバイスを受けながら作業を進める。
「それでは、ネオジム磁石のサイズに合わせて穴を開けます。使用するネオジム磁石のサイズは直径3ミリ、厚さ3ミリのものです」
「じゃあ3ミリ径のドリル刃で、深さも3ミリ?」
「そうですね。ただ磁石を埋め込んだ時、穴の底にあるよりも表面が少し出る程度の方が良いですね。完全に埋めてしまうとパーツ同士を合わせた時、磁石同士に隙間が生まれて上手く磁力を得られない場合があります」
言葉だけの説明では乃亜がピンとこなかったため、葵はノートに簡単なイラストを書いて解説する。
「まずはメス側である下腹部パーツに穴を開け、磁石を軽く浮かせた状態のまま穴に入れて、オス側のパーツを合わせます。その後、オス側に穴を開けてこちらも穴から磁石を浮かせた状態でパーツを合わせると、磁石同士が適正な位置で決まると言うわけです」
「さすが! 秒で理解した」
作業の手順を確認し、早速乃亜は印をつけた位置にピンバイスで四つの穴を開ける。
「穴に磁石を入れる時は、磁石同士をいくつかくっつけて棒状にした状態のまま入れます。磁石にはSとN極がありますので、一粒だと両極を間違える可能性があるため、棒状にくっつけると間違え防止になります」
「あーね。接着剤は使わないの?」
「基本的には使いませんが、穴に対して磁石が緩い場合はごく少量の接着剤を使います。大量に使ってしまうと、外したい時に外せませんので注意が必要です」
「じゃあ、やってみるね」
乃亜は棒状にくっついた粒状の丸形ネオジム磁石を指でつまみ、開けた穴に一粒入れて残りを引っ張り上げる。こうしてまずは、下腹部パーツと両脚パーツにネオジム磁石を埋め込み終わった。
「綾音さん。実際にパーツ同士をくっつけて、接合具合を確かめて下さい」
「ちょい緊張するかも……」
乃亜がオス側である右脚パーツを慎重に下腹部パーツに近付け、軸打ちした真鍮線を軸穴に合わせて慎重に接近させると、ネオジム磁石の磁力が働いてお互いのパーツがピッタリとくっついた。
「ヤバい! マジですごいんだが!」
「作業の成果が分かると、とてもうれしいですよね」
「だよね~!」
まだ仮組みの作業の途中だが、乃亜は色んな角度からパーツを眺めて満足そうに微笑んだ。




