第15話 軸打ちって、つくれちゃう?
「それでは始めましょうか。湯口の処理ですが、まずはニッパーを使います。湯口は大きいので、精密ニッパーよりも普通のニッパーが適しています。注意点ですが、湯口を根本から一気に切ろうとすると、根本付近が破損する可能性もあるため、上の方から少しずつ切り落として下さい」
葵の指示に従い、乃亜は使い慣れていないニッパーを手に苦戦しながらも、何とか湯口を三分の二ほど切り落とす。
「残った根本の部分はデザインナイフを使います。デザインナイフはペンタイプのカッターで、刃先が鋭角なので精密で細かいカットができますよ」
乃亜はデザインナイフを使ったことがなかったため、まず葵は持ち方や使い方を指導する。
「デザインナイフを使った整形も、さっきのニッパーと同じで少しずつ湯口を削っていきます。慌てなくても大丈夫なので、まずはゆっくりやりましょう」
隣に立つ葵のアドバイスを受けながら、乃亜は初めての湯口の処理を終えた。
「ヤバっ! めっちゃ緊張したー! やっぱ慣れない作業って超疲れるわ」
「初めてとは思えないぐらい、きれいに処理できていますよ。パーツによっては湯口なのか、ダボなのか分からない場合は一度パーツ同士をはめて確認して下さい」
葵に指導を受けながら、乃亜は何とか全パーツの湯口の処理を終える。
「それでは、次に軸打ちですね。それから……綾音さんも接着剤ではなく、ネオジム磁石を使った組み付けで良いですか?」
「ちょいムズそうだけど、磁石でやりたい」
「分かりました。まず軸打ちですが、パーツの合わせ面――接合面に軸打ちの目印となるマークがあったりします。少し見づらいですが、マークが分かりますか?」
今回のガレージキットには接合部に目印となるマークがあり、ダボ穴もあるので葵は乃亜に穴を開ける場所を教えた。
「次に必要な道具ですが、真鍮線にデザインナイフ、ケガキ針。真鍮線やネオジム磁石のサイズに合わせた0.5~3ミリサイズのピンバイスに、金属用のニッパーと粗めの紙ヤスリ。瞬間カラーパテとシアノアクリレート系瞬間接着剤――通称シアノンDW、瞬間接着剤と瞬間接着剤用の硬化促進剤、丸形のネオジム磁石ですね」
「めっちゃ多くない!? てか、赤ちゃんが何言ってんのかマジ分からん」
準備物が多いだけでなく、聞いたこともない道具ばかりで困惑する乃亜の前に、葵は道具を一つずつ出して解説を行うが、乃亜はいまいちピンとこない。
「道具は実際に使って、作業しながらの方が分かりやすいかも知れませんね」
軸打ちに使う様々な道具を前にした乃亜はその種類に圧倒されて、どこか気後れ気味だ。
「ガレキ製作に使う接着剤ですが、ガレージキットの中でレジンキットと言われるものは、無発泡ウレタン樹脂を使用していますが、近年は3Dプリンターによって出力された紫外線硬化樹脂もありますね」
「3Dプリンターって、最近よく聞くかも」
「今では家庭用も販売されていますね。一般的な無発泡ウレタン樹脂ですが、プラモデルで使用する溶剤系接着剤は使えません。レジンキットには2液タイプのエポキシ系接着剤や、シリコンゴム系の瞬間接着剤がオススメです」
「なんか、覚えることめっちゃあって混乱しそう……」
「確かに馴染みがないと最初は迷ってしまいますね。では作業に使うものを説明します」
葵はまず手元の真鍮線を取る。
「真鍮線は0.5ミリ刻みで、太さ0.5ミリ~3ミリのものがあれば、ほとんどのパーツに使えると思います。丸形のネオジム磁石もパーツのサイズに合わせて、直径1~5ミリ以上のものを使用しています。今回は直径3ミリで厚さが1.5と3ミリのものを使います」
葵は百円ショップで買ったピルケースに保管している、サイズ別の粒状ネオジム磁石を乃亜に見せる。
「それでは、まずは軸打ちしたい部分に穴を開けていく作業です。穴を開ける位置はマークがありますが、粘着ラバーを使って軸穴の目印をつけます」
「粘着ラバー?」
「この商品は両面テープや画鋲などで、掲示物や壁に穴を開けたくない時に使う粘着性のゴムです。一度貼っても簡単に剥がせます」
「ネイルの粘着グミみたいなやつか」
葵は実物を見せると、パッケージから粘着ラバーの塊を指先で少量ちぎり、メス側である下腹部パーツを手に取るとダボ穴に粘着ラバーを貼り付ける。
「なんか粘土っぽい」
「ブチルゴムという素材みたいです。一度パーツ同士を合わせてまた分離させると、オス側のダボにあったマークがダボ穴の粘着ラバーに跡をつけます」
続いて葵は、ケガキ針と各種ピンバイスを乃亜の前に準備する。
「あとは粘着ラバーについた跡にケガキ針で穴を開けます。この方法なら軸穴同士の位置が正確に分かるわけです」
「へぇ~、そんな風に使うんだ」
「穴あけですが、最初から大きな穴を開けず、まずは小さな穴から少しずつ大きくして穴を広げていきます。いきなり大きな穴を開けようとすると、パーツを破損させてしまう恐れがあるので注意です」
葵は乃亜にケガキ針を持たせ、軸穴を開けたい印の場所に下穴を開けさせる。
「あとは粘着ラバーを外します。では両脚のパーツからやりましょうか。小さいパーツなどは、作業に慣れてからの方が良いかも知れません」
「おけえ! てか、こんな専門の道具とかあるのかー」
乃亜は初めて手にしたペン型のケガキ針を珍しそうに眺める。
「ケガキ針は、下穴を開けるだけなので安全ピンなどでも構いませんが、ペンタイプなので持ちやすいです。下穴を開けたらピンバイスで穴を開けますが、まずは径の小さい細いドリルで開けていきますね」
乃亜は下腹部パーツの下部、左右の脚の接合面にあるメス側のダボ穴と、右脚の接合面にあるオス側のダボ部分に下穴を開けた後、葵からピンバイスの使い方やドリル刃の付け方を教わる。
ピンバイスは、先端のチャックと呼ばれる保持する部分にドリル刃を取り付け、本体を手の平に当てて固定し、親指と人差し指で本体を回して穴を開ける道具だ。
「下穴からずれないよう、垂直に開けて下さい。深さはパーツの厚みにもよりますが、脚のパーツは5ミリほどですかね。焦らなくても大丈夫です」
「りょ! やってみる……」
手先に神経を集中し、真剣な眼差しで無事に脚のパーツに穴を開け終わると、ホッとして乃亜は息を吐く。
「ピンバイスは手動ですが、電動ドリルならもっと手軽にできますね。俺は小さいパーツ以外、電動ドリルを使っています」
「電ドリかぁー。あたしにはまだ早いかも……」
乃亜は作業を続け、ピンバイスのドリル刃を少しずつ変えながら穴を大きくしていく。
「――……終わったー!」
下腹部と両脚パーツのオスとメス側に穴を開け、乃亜は葵に出来栄えを確認してもらう。
「きちんと開いていますね。もしパーツ厚が薄かったり、小さいパーツなどは真鍮線の径を小さくして、一本ではなく複数本打って対応したりするテクニックもあります」
「へぇー、パーツに合わせて工夫するのか」
「続いて、軸打ちする真鍮線を金属用のニッパーで適度な長さに切ります。オスとメス側に開けた穴の深さより、少し長めに真鍮線を切って下さい」
両脚パーツには1.5ミリ径の真鍮線を使い、乃亜は1.3センチメートルほどの長さに真鍮線を切り出す。
「切った真鍮線をオス側の穴に入れてパーツ同士を合わせた時、隙間がないように、きちんとパーツがはまる長さに真鍮線の長さを調整します」
乃亜は何度かパーツ同士を合わせて隙間を確認し、真鍮線の長さを切りながら調整する。
「……よし。これぐらいで良さげかも」
「長さを調整した真鍮線ですが、切り口が鋭利でバリもありますので、粗めの紙ヤスリで切断面を削って滑らかにします」
「りょ! そのままだと危ないしね」
乃亜は言われた通りに、軸打ち用に切った真鍮線の切断面を紙ヤスリできれいに整える。
「穴あけと真鍮線の切り出しが終わりましたので、いよいよ軸打ちです。軸打ちは穴の角度がオス側とメス側で真っ直ぐになっていないと、真鍮線が上手く入らずきちんとはまらなかったり、パーツ同士に隙間ができる原因になります」
「マジか……上手くやったと思うけど、あんま自信ない……」
「大丈夫です! 軸打ちを簡単に決めることができる方法がありますので」
不安そうにパーツ同士を眺める乃亜を元気づけるように、自信満々な葵は胸を張って告げた。




