第14話 仮組みって、つくれちゃう?
翌日の日曜日。
昨日とは違って葵の自宅マンションを直接訪ねた乃亜は、作業部屋でガレージキット製作の続きを再開する。葵は空いている椅子に乃亜を座らせると、まずは作業の説明を行う。
「昨日はパーツの離型剤落としと洗浄、そして乾燥まで終わりましたので、今日は仮組みをしていきます。仮組みとはその名の通り、パーツを組み上げていく作業になります」
「仮だけど、完成した時の姿が見れる的な?」
「そうですね。仮組みとは、実際に組んでみてパーツの合わせや全体のバランス、隙間や歪みなどがないかチェックすることです。ガレージキットはプラモデルとは違い、各パーツ同士がぴったりと合わないことが普通なんです」
「へぇ~、そうなんだ」
「仮組みするために、いくつか手段がありますので説明します。バラバラのパーツをそれぞれの位置にくっつけるのですが、軸打ちとネオジム磁石を使った方法が主流ですね」
「軸打ち?」
「例えば、パーツ同士を接着剤だけでくっつけるだけでは強度的に弱い場合があり、衝撃や振動で取れてしまう場合があります。そのため、片方のパーツ――オス側に真鍮線やアルミ線を打ち込んで保持する方法が軸打ちです」
「磁石の方は? パーツ同士って接着剤で固定しないの?」
「接着剤でも固定できますが、間違ってパーツをくっつけた場合など、やり直しが発生した時には大変です。その点、ネオジム磁石を使うと簡単にパーツの取り外しが可能になります。俺は組み立てに関して接着剤を使わず、軸打ちとネオジム磁石を使っていますよ」
「なんか……話聞く限り、超ムズいんじゃないの?」
言葉だけの説明だけではイメージできないのか、乃亜の表情はどこか不安そうだ。
「そうですね。初心者には難しいと感じるかも知れませんが、大事な作業のひとつです」
乃亜に待つよう告げた葵はフィギュアラックに向かうと、完成品のガレージキットを一体持って来る。
「それ! 星海を継ぐ者のトワちゃん!」
葵が出してきたのは、SFアニメである〝星海を継ぐ者〟に登場する天宮トワというキャラクターの1/8スケールガレージキットだ。トワは軌道エレベーターを管理している少女で、白を基調としたメカニカルなワンピース型の衣装を身にまとっている。
台座からフィギュア本体を外した葵は、胴体部分から伸びる片脚のパーツを下に引っ張って取り外すと、パーツの取り付け部を乃亜に見せる。
「中心に打ってある金属の棒が、軸打ちした真鍮線です。その周りに埋めて込んであるのがネオジム磁石ですね」
実物を見ると説明が理解できたのか、乃亜は小さくうなずくながらパーツの根本をじっくり観察する。
「こんな感じかぁ……なんか細かそーな作業だけど、あたしにもできる?」
「順を追って説明しますので大丈夫ですよ」
「赤ちゃんがそう言うなら……あたしも頑張るし!」
ガレージキットをフィギュアラックに戻した後、葵は乃亜の前にある作業机を使うように指示した。カッティングマットが敷いてある作業机の隅には道具ケースが置いてあり、葵はその中からニッパーとデザインナイフを取り出した。
「これから仮組みをしていくのですが、パーツによっては湯口があり、そのままパーツをはめられない部分もあるため、それらはニッパーとデザインナイフ、彫刻刀などで処理していきます」
「ゆぐち? 何それ?」
初めて聞いたワードに乃亜は首を傾げる。葵は説明のため、乾燥のためにトレイに並べていたパーツの中から首から胸元部分のパーツを手に取る。
「例えば……このパーツですが、顔の下にある首のダボを入れる穴の端に、四角い突起が出ていますよね?」
「あるけど……これ、不良品じゃないの?」
「これが湯口の跡です。湯口とはガレージキットを複製する際、シリコン型にレジンを流し込むための穴の入り口のことです」
いまいちピンときていない乃亜に対し、葵は棚に置いている未組立の美少女プラモデルを持って来ると、箱の中に入っているパーツを手に取って見せる。
「プラモデルはパーツの周りにランナーという枠があります。溶けたプラスチックがこのランナーを通ってパーツ型に流れ込むのですが、湯口とはこのパーツに繋がるゲートの入り口の部分のことを指します」
「あーね。理解できた」
葵は美少女プラモデルを脇に置くと、湯口の処理方法について説明する。
「湯口がパーツの接合部分にあると、物理的に引っ掛かってしまうので取り除く必要があります」
葵は作業机の上に置いているトレイの中から顔のパーツを手に取り、首の部分を乃亜に見せる。
「顔パーツにある首の根本ですが、一見すると湯口のように見えますよね? 実はこれ、〝ダボ〟と呼ばれるものです。ダボとは、パーツ同士がずれないようにするためのものです」
「なんか見たことある。完成品フィギュアとかにも、ふつーにあるよね?」
「ありますね。完成品でも自分で組むパーツには付いています。パーツの接合部に穴が開いたように窪みがあるもの、これはダボを入れるダボ穴です。凸型がある方がオス側、凹型の方がメス側と言いますね」
「オスにメス……突起に穴……あーね! でもそこだけ聞くとさ、なんか下ネタじゃん」
「い、いえ! そんなつもりで言ったわけではないんです!」
「あはは、分かってるし!」
「昔から使われている呼び方でして……言い換えるなら、差込み側と受け側でしょうか?」
「オスメスで良いじゃん。そっちの方が直感的に分かるし」
葵は気を使って言い換えたものの、乃亜は気にせず笑って答えた。




