第13話 ドールって、つくれちゃう?
「――綾音さん。このホビーショップでは、初心者向けのガレージキットを販売しているんです」
「そーなの?」
「ガレキ初心者の方には、そちらがオススメです。カラーレジン製の組み立てフィギュアであり、軸打ちや表面処理などの工程がいらず、説明書に詳しい作り方も書いてあって、プラモデルのような感覚で作れるガレージキットです。俺も最初はこちらのキットから挑戦しました」
「え、待って。あたし……なんか無謀なことしてた!?」
「そういうわけではありませんが……。まずは初心者向けのキットに挑戦してからの方が、作業の感覚は掴めると思います。本格的なガレージキットは仮組みするまでにも、多くの下処理が必要になりますので」
「なんか、話聞いてたら……マジで作れるのか心配になってきた……」
「だ、大丈夫です! 俺も手伝いますので絶対に完成させましょう!」
作る前から乃亜のモチベーションが落ちないよう、葵は全力でフォローする。
ガレキ製作の大変さは葵も知っており、初心者である乃亜にとって過酷な挑戦になるが、自分自身の手で完成させた時の喜びは計り知れないものがある。ここで弱気な発言が出てしまえば、作業の枷になる可能性もあるのだ。
「赤ちゃんがサポートしてくれるなら……あたしもマジ頑張るし!」
「その意気です。急ぐ必要はありませんし、あまり気負いせずに楽しんでやりましょう」
次にフィギュアコーナーを見た後、二人は同じフロワにあるドールやドール関係の用品を取り扱っているエリアを見て回る。
「――ドールもさ、フィギュアと違った魅力があってヤバいよね。そーいえば、フィギュアとドールも大きく見れば人形だけど別物?」
「そうですね。一般的なフィギュアは、髪・体・服が全て成型されているので可動しません。アクションフィギュアと呼ばれるものは可動して服を変えられるものもありますが、フィギュアなので髪は成型されています。一方ドールは髪が植毛やウィッグで表現されており、体の可動部も多くてボディのサイズごとに服も売られていて、着せ替えのバリエーションも豊富ですね」
「言われてみると、けっこー違うかも」
「人形の歴史は古いですが、アンティークドールと呼ばれているものは、十九世紀のドイツで作られた磁器製のファッションドール、その後にフランスでもビスクドールが作られますが、この時点ではマネキンのような成人の女性型です」
「へぇ~、最初はおっきいんだ」
「そうですね。ベベドールという子供型のものが登場すると、子供向けの着せ替え人形としてビスクドールが盛んに作られるようになり、十九世紀後半からは可動に球体関節が使用され始めます」
「球体関節……なんか聞いたことある」
「二十世紀になると磁器製から改良されて、軽量化したコンポジションドールがアメリカで生まれた後、のちに安価で大量生産可能なゴムやセルロイドの人形に発展して、子供向けの玩具である着せ替え人形が登場しました」
「え、待って。赤ちゃん、めっちゃ詳しいじゃん!」
「造形物が好きなので、以前調べたことがありまして……」
乃亜から知識を褒められ、葵は照れくさそうに笑う。
(自分の得意な話題なら、すんなり言葉が出てくるんだけどなぁ……)
フィギュアや造形関係以外の話題に疎い葵は、乃亜みたいにどんな話題でも流暢に話せることに憧れる。
「――ねえ赤ちゃん。今のドールって、なんて種類になるの?」
「現在は、合成樹脂の液体を型に流し込んで成形するキャストドールが主流ですね。ここにあるドールも合成樹脂製ドールでオリジナルのモデルだけでなく、アニメなどのキャラクターをモデルにしたものもあります。また完成モデルではなく、何も施されていない素体などから自分で手を加えて作るカスタムドールなど、一口にドールと言っても様々です」
「なんか、◯◯ドールってワードがめっちゃ出てきて、頭の中がドールの洪水状態なんだけど!」
「す、すみません。一気にしゃべってしまったので混乱してしまいますよね」
「とりま、色々あるってことで」
乃亜は超シンプルな答えを出す。
店舗を後にした葵と乃亜は、商業施設ビルの各階にテナントして入っているショップも見て回り、二人で充実した時間を過ごした。
「――なんかさ、あっという間じゃなかった?」
「そうですね。時間経つのが早かったです」
カフェでゆっくりとくつろぎながら、午後から過ごした楽しい時間を二人は振り返る。
(最初はホビー工具を見るだけの予定だったけど、まさか綾音さんと色んな店を巡ることになるとは……まさか、これってデートなのか!? いやいや、そんなわけないか……)
ボビーショップを見て回るという当初の予定を達成した後、時間が余ったので乃亜はホビーとは関係ないショップ巡りを提案し、葵を誘うと逆にエスコートして後半は乃亜ペースになった。
乃亜に連れられて葵は後について行くだけだったが、学校以外で見せる乃亜の純粋に楽しんでいる姿や、様々な表情を間近で見られたことがとても新鮮でうれしく感じた。
「やっぱさぁ、趣味が合う人と一緒に過ごすってマジ楽しいよね~! 今日は赤ちゃんと一緒に来れて最高だったし!」
向かいの席に座る葵の顔を見つめながら、乃亜は無邪気に笑ってみせる。
「お、俺も楽しかったです……。ずっと一人で過ごしてきたので、何だかずっと昔に忘れていた感覚を思い出したというか、今日はとても楽しめました」
誰かと同じ時間を共有するということが欠落していた葵にとって、午後からの時間はとても充分したものとなり、それだけに一緒に過ごした乃亜の存在はとても大きかった。
これまで狭くなっていた視野が一気に広がった感覚であり、行ったことがある場所もなぜか新鮮な気持ちに感じてしまい、お互いに感想を言い合って共感する喜びは葵の心に潤いをもたらす。
「綾音さん。ガレキ製作は明日から本格的な作業に入っていきますが、焦らずに完成を目指しましょう!」
「それな! 赤ちゃんに迷惑掛けまくりかもだけど、あたしもマジ頑張る!」
並々ならぬ熱量で意気込みを見せる乃亜。これから葵との本格的なガレージキット製作が、ついに始まる――。




