第百三話 白昼夢
変な夢を見た。
本体と幻の姿の冴野が闘い合っている夢だ。
もしかして両方とも操られているのか。
やっぱり、結婚の縁だけじゃ、力になれなかったのか。
落ち込んで、でも落ち込んでいる場合ではないと、二人の傍に駆け寄った。
ら。
ハシビを巡って争っていたらしい。
ハシビは渡さないと言い合っている。
いやどっちも冴野なんだから争わなくても仲良くすればいいのでは。
それとももしかして。
幻の姿に自我が生まれて、本体とは別人格一個体になっちゃったとか。
「………」
「どうした?」
どうやら白昼夢を見ていたらしい土羽梨は、目の前で浮く冴野を見た。
「いえ。ちょっと。あの。幻の姿は幻の姿ですよね?あなたの分裂体と考えていいんですよね?」
「ああ」
「あの。幻の姿は、一人、だけ、ですよね?」
「いや。九人だ」
「………え?」
「広大な『緑の国』を巡回するのに一人だけで足りるわけがないだろう」
「ああ。まあ。はい。えっと。あの。ここを案内してほしいんですけど」
「ああ。任せろ」
土羽梨は前を飛翔する冴野を見つめながら思い返していた。
ハシビを巡って、どんどんどんどん幻の姿が増えていって争いが激しくなっていって、最終的に『緑の国』だけではなく『砂の国』も『焔の国』も壊滅する白昼夢を。
(………恋愛で身を亡ぼす事があるって聞いた事はあるけど、まさか国を亡ぼす事もある、なんて、ない、よ、ね?)
「………冴野」
「何だ?」
「ハシビは分裂できますか?」
「どうした急に?」
「いいから答えてください。大事な事なんです。とても」
「………できるが」
「あっ。そうですか。できますか」
(だったら大丈夫だよし争わなくて済む)
「ハシビが分裂できる事がそんなに嬉しいのか?」
「はい。とっても」
「………そうか」
(何だ?木の根を取り除く事ができて『砂の国』に帰った時に、分裂したハシビを連れて行こうと考えているのか?まあ、気に入っていたみたいだしな)
「………土羽梨。この苔は湯がくとぷるぷるした触感で甘くて美味い。今から馳走してやる。肩を貸してくれた礼だ」
「ありがとうございます」
「………ちょっと待っていろ。道具や水を持ってくる」
ふんわりと笑った土羽梨に背を向けて、力を使って取り寄せればいいにもかかわらず冴野は道具や水がある場所へと飛翔したのであった。
(………たかが笑顔。されど。か。まったく)
本当にやっかいな人だ。
(2023.9.20)




