第百一話 夫婦だから
肩を貸してくれ。
『緑の国』のなにものも足を踏み入れない場所にて。
本体から幻の姿の冴野の元へ戻ったかと思えば、いつの間にか『焔の国』にいたり、あっという間に『緑の国』に戻されたりと、何がなんだかさっぱりわからない土羽梨はしかし、本体の冴野に頼まれた時、拒まず、また、理由も問わず、いいですよと言った。
「肩が硬いのは当然か」
銀色の羽を引っ込めた冴野は仰向けになって土羽梨の肩に寝そべり、足は鎖骨に、腕は背中にと投げ出した。
「柔らかい肩がお望みならこのふわふわの植物でも乗せましょうか?」
地に伏した白い倒木に腰を下ろしていた土羽梨が、視線の先にある地に生い茂る新緑の苔を見て言えば、乗せなくていいと返って来た。
「あなたの肩が望みなのだから、余計なものは不要だ」
「そうですか」
「ああ、そうだ」
「………あなたの強い想いに私が引き寄せられたと言いましたね?」
「ああ」
「だとしたら、私の強い想いにもあなたが引き寄せられる事があるんですかね?」
「ああ」
「そうですか」
「嫌だとは言わないのか?」
「嫌ですけど。あなただって、嫌だったでしょう。本当は、一人で。『焔の国』に行きたかったでしょう?」
立ち向かいたかったでしょう。
その言葉は呑み込んで土羽梨がそう言うと、まあなと冴野は即答した。
「一人で行きたかったが。仕方ない。夫婦だからな。見せたくない姿を、時には見せる事もある」
「………嫌ですね」
「ああ嫌だな。だが今回に関して言えば。今回だけは。まあ。いてくれて助かった」
「………はい」
「………額に口づけた時はならなかったのに、今どうして赤面するんだ?」
「………嬉しいからですよ」
「………そうか」
「………はい」
「………もう少し、肩を貸してくれ」
「………はい」
(2023.9.20)




