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第八十八話 左手の親指
青になったり赤になったりと、羽の色が忙しなく変わるハシビを視界の傍らに入れながら、冴野はまだ眠りに就いている土羽梨を見下ろした。
視線は顔から腹の上に置かれた両の手へ、そして、左手の親指に固定した。
『ふふふ。『砂の国』の縁がひとつ断ち切れたな』
『は?え?』
肝を潰し蒼褪めた顔に、してやったりと思ったのだ。本当に。
本当に『砂の国』との縁がひとつ断ち切れたと喜色満面になった。
あの時は、夢に一歩近づいたと、心底。
だが。
「左手の親指、か」
それぞれの指に意味がある。
左手の親指には。
(信念を貫く。難関に立ち向かう。か)
断ち切れたわけではない。
新たに縁が結ばれたのだ。
たったのひとつだけだったとしても。
儚かったとしても、縁があの時に。
「………」
冴野は土羽梨の目の上で広げた手をかざし、丸めては布団の上へと下ろし、土羽梨の目覚めを待つのであった。
(2023.9.17)




