第八十六話 ひょっこり
冴野が自ら抱擁を解き、身体の再構築を終えて調子を確かめた土羽梨が、幻の姿ではない冴野を探しに行こうとした時だった。
背を向けて走り出そうとしていた身体を一時停止させては、振り返って冴野の眼前に立つと、片手は胸に添えて、もう片手でデコピンを喰らわせた。
「あれ?」
「どうして首を傾げる?」
「いえ。どちらも絶対に防がれると思ったんですけど。まだ調子が悪いですか?」
「お互い様だろう」
「自覚はありませんが。あなたには私が調子が悪いように見えますか?」
「見えるな」
「そうですか。なら、少し休みますか。その間、ハシビに守ってもらいましょう」
土羽梨と冴野が群集する木立の中から或る一本に視線を注げば、ひょっこりと、ハシビは後ろから姿を現しては、トコトコと近づいて来た。
「てへっ。気付いてた?二人の世界を邪魔しちゃいけないって隠れてたのに!あ!お帰り!残念だったね。取り除く方法が見つからなくて」
「うん。でも、まだ諦めない」
「うん!オレもみんなに聞き続けるから!」
「ありがとう。それで、休んでいる間に私と冴野の護衛を任せたいんだけど、いいかな?」
「うん!任せて!」
「ありがとう」
「任せた」
「はい!」
ぴょんぴょんと二人の周りを飛び跳ねたかと思えば、ちょっと待っていてと言うや姿を消してすぐに戻って来て、杉の枝葉と自分たちの羽で作った青炎鳥が使う布団を地面に置くと、どうぞと寝るように勧めた。
土羽梨と冴野はハシビの勧めるままに並んで横になると、数秒も経たずして眠りに就いたのであった。
「よし」
ハシビは茶目っ気たっぷりだった表情を豹変させては、周囲を、そして二人を警戒し続けるのであった。
(2023.9.16)




